拙稿「子どもの多様な学びの機会を保障する法律づくり」『生活協同組合研究』2013年6月号

公益財団法人「生協総合研究所」が毎月発行している『生活協同組合研究』の2013年6月号に、「子どもの多様な学びの機会を保障する法律づくり」という拙文を寄稿させていただきました。毎号さまざまな特集が組まれていますが、6月号は「当世教育事情とその周辺」というテーマでした。突然、「ブログを拝見しました」と執筆依頼が来て、急遽、原稿を書くことになりました。

『生活協同組合研究』
http://www.ccij.jp/book/index.html
画像


生協総合研究所
http://www.ccij.jp/index.html


さて、拙稿で取り上げたのは、2012年に具体化してきた「子どもの多様な学びを保障する法律」の制定を求める動きです。この法律は、「子どもを学びの権利の主体と捉え、学校以外の学びの場も、法律の定める普通教育と位置づけ、社会全体で財政を含めた支援をしていく」というものです。不登校などをきっかけに学校以外の場所で学んでいる子どもはたくさんいますが、そうした子どもたちを位置づける法律がないため、学校で学んでいる子どもたちと比べて、さまざまな点で恵まれていません。そうした格差を是正し、どこで学んでいようとも、子どもが平等に社会の支援を受けられる仕組みを作ろうというのが、この法律のねらいです。昨年、「多様な学び保障法を実現する会」が組織され、そこで検討が進められています。

多様な学び保障法を実現する会
http://aejapan.org/wp/


この法律が成立すると、日本の教育制度が根幹から変わる可能性があります。そのため、多くの人に関心をもっていただき、議論に参加していただく必要があると思います。拙稿が、実りある議論の一助になれば幸いです。



拙稿:高山龍太郎, 2013, 「子どもの多様な学びの機会を保障する法律づくり」『生活協同組合研究』 449: 12-18.(PDF, 717Kb)
https://dl.dropboxusercontent.com/u/22647991/CCIJ-12-18.pdf



「子どもの多様な学びを保障する法律」骨子案
http://aejapan.org/wp/?p=203

日本国憲法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

教育基本法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html

学校教育法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO026.html

学校教育法施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S28/S28SE340.html

学校教育法施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F03501000011.html


<高山龍太郎のブログより>
「(仮称)オルタナティブ教育法」改め「子どもの多様な学びの機会を保障する法律」 (多様な学び保障法)
http://r-takayama.at.webry.info/201210/article_3.html

「オルタナティブ教育法を実現する会」設立総会(2012年7月8日、東京都渋谷区)
http://r-takayama.at.webry.info/201206/article_2.html

(仮称)オルタナティブ教育法──第4回JDEC日本フリースクール大会(2012年2月3日・4日東京)
http://r-takayama.at.webry.info/201202/article_2.html



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子どもの多様な学びの機会を保障する法律づくり

高山龍太郎(富山大学経済学部准教授)


はじめに

 民間の教育関係者や保護者の間で、「子どもの多様な学びの機会を保障する法律」(以下「多様な学び保障法」)を作ろうという動きがある。その目指すところは、「一般の人びとが自由に学びの場をつくり、子どもがそれを自由に選択する。こうした学びも法律の定める普通教育と位置づけ、国を始めとする社会全体で財政を含めた支援をしていく」というものである。それを支える理念は、「学ぶ権利の主体は子どもである。その子どもたちの個性は多様である。だから、子どもたちを既存の教育制度に合わせるのではなく、多様な子どもに合わせて多様な学びの機会を保障する制度をつくるべきだ」となるだろう。原案づくりは2008年に始まっているが、「多様な学び保障法を実現する会」(http://aejapan.org/、以下「実現する会」)が組織されたのは昨年2012年のことである。もしこの法律が成立すれば、日本の教育制度が根幹から変わる。本稿では、ごく最近の動きである多様な学び保障法について、その必要性や仕組み、意義などを見ていく。


多様な学びの必要性

 「(仮称)オルタナティブ教育法」を実現する会の設立総会は、2012年7月8日に東京で開かれた。設立の発起人には、フリースクールやオルタナティブ教育の主宰者、医者、研究者など32人が名を連ねている。テレビ局の取材のなか、発起人や国会議員、当事者などの人びとが、この法律に期待することをリレー方式で語った。200人ほどの参加者が集まり、立ち見が出るほどであった。
 第2回の実現する会の総会は、3ヶ月後の2012年10月8日に東京で開かれる。「オルタナティブ教育の承認というところから、全ての子の学習権の保障を求めるための法律を求める」という方向性を明確にするために、法律の名称が「子どもの多様な学びの機会を保障する法律」に変わり、あわせて会の名称も「多様な学び保障法を実現する会」へ変わった。第2回総会の資料「はじめに」で、実現する会の共同代表である教育学者の汐見稔幸(白梅学園大学学長・東京大学名誉教授)は、以下のように述べている。

(前略)現在、わが国の教育はさまざまな課題を抱えていますが、その根本に、憲法・教育基本法が定める義務教育の「普通教育」が、学校教育法に規定される「学校」にしか認められていないということがあります。そのため、フリースクール、ホームエデュケーション、あるいはシュタイナー教育、フレネ教育、モンテッソーリ教育などの教育を行っている学校、さらにはサドベリースクール、デモクラティックスクール、外国人学校などが正規の学校(教育機関)として認められず、公費支援もほとんどない状況が続いています。社会は一般に、人々が目的を達するための方法が多様化する方向に進むものです。それが社会の進歩のメルクマールといってもよいでしょう。しかるに、わが国の教育制度は、現行の学校教育一本しか正規のものとして認められていません。(中略)オランダなどでは公立の小学校でも、一つの学年にシュタイナー方式のクラス、ダルトン方式のクラスなどがあり、多様な方法で行ってよいことが明確に標榜されています。不登校の子どもたちを含め、さまざまな手法で学ぼうとしている子どもたちの学びの権利を保障するためには、多様な学びの場を正規の教育機関として認めることが得策で、それが日本の教育が世界の教育の流れから遅れない保障になります。(後略)

 つまり、学校教育一本しかない日本の教育制度は、多様性を認める世界の教育から遅れており、それが日本の教育における諸課題の根本的な原因だというのである。例えば、昨年来、いじめや体罰が社会の関心を集めている。それらは、確かに、子どもや教員の問題かもしれない。しかし、より根本的には、学校しか正規の教育と認めない「制度」の問題が潜んでいるという発想である。こうした教育「制度」の不備を埋めてきたのは、汐見が例に挙げる多様な学びの場であった。これらの学びの場は社会的に重要な役割を果たしているにもかかわらず、正規の学校ではないために公的な支援がほとんどない。そのため、どこも苦しい経営を強いられ、そこに通う子どもたちも経済的な負担を強いられる。こうした状況を根本的に変えるには、日本の教育制度をかたちづくる法律を変える必要があるというのである。
 日本の教育「制度」の問題が端的に表れるのが、不登校である。多様な学び保障法を求める動きは、不登校の子どもたちが安心して通える居場所をつくり、新しい学びのかたちを模索してきたフリースクールの活動から生まれてきた。フリースクールは1980年代後半から数を増やし、2001年にNPO法人「フリースクール全国ネットワーク」(以下「フリネット」)が結成され、現在60あまりの団体が加盟している。多様な学び保障法の原案は、2008年から、このフリネットの「政策制度研究会」(2009年から「新法研究会」)で議論されてきた。フリースクール環境整備議員連盟の国会議員の勧めで法案作成に着手し、日本フリースクール大会(JDEC)や学習会、有識者とのヒアリングなどを通して骨子案の修正を図ってきた。2012年に実現する会が設立されたのは、こうした不登校からの流れに加えて、多様な学びの必要性を日々感じている多くの人びとに広く結集を呼びかけ、法律の成立に向けた大きなうねりをつくり出すためである。そこには、シュタイナーやサドベリーといった魅力ある海外のオルタナティブ教育を日本に取り入れようとする人びとや、ブラジル学校など外国籍の子どもたちの教育に取り組む人びと、家庭で独自にわが子を教育するホームエデュケーションの実践者などが加わった。
 さて、不登校の子どもの数は、文科省によると、小中高生の合計で17万3750人である。不登校には、多くの人びとの苦しみと苦労がともなう。まずは、子どもである。学校以外の学びの場を知らない子どもは、「小学校→中学校→高校→大学→社会人」といった単線的な将来像を描いているため、不登校でそのラインから外れると、「まともな大人になれない」という強い不安を覚える。保護者の不安も同様で、学校の先生やカウンセラー、医者などに相談して、何とか早く子どもが学校に復帰できる方法を探る。しかし、そうした努力が報われない場合は最悪である。子どもの心は「学校に戻らなければ」と焦る気持ちと周りの大人の期待に応えられない申し訳なさで満ちているが、身体は言うことをきかない。しだいに自信を失い、無理を強いる大人たちを恨む。親子関係は悪化し、家庭内暴力に発展することもある。学校に通う子どもに引け目を感じ、なかなか外に出られない。そうして家に引きこもることが、かえってその引け目を強める。もし子どもが学校以外の学びの場に自由に通うことができれば、ここまで追い詰められることはなかったはずである。また、警察庁の発表によれば、平成24年の19歳以下の子どもの自殺は587人であり、そのうち学校問題が原因や動機とされるのが180人である。もし簡単に学校を休むことができれば、防げた自殺も少なくないと思われる。子どもを追いつめる不登校は「命」の問題でもある。
 こうした不登校の子どもたちの多くは、幸いなことに、汐見が例にあげたような多様な学びの場と出会い、元気に育っている。しかし、こうした学びの場に通い始めても、苦労は終わらない。まず、経済的な問題がある。公立の小中高校であれば授業料は無償だが、税金による公的助成のない学校外の学びの場には月3~5万円程度の授業料を払わねばならない。だが、それだけ授業料をもらっても、学びの場の経営は楽ではない。学びの場のスタッフの給与は学校の先生よりも低いし、設備も学校より劣っている。親の失業等で授業料が払えなくなり、学びの場をやめざるをえない子どももいる。しかし、厳しい経営のなかでは、そうした子どもにしてあげられる援助はかぎられる。また、学籍の問題もある。義務教育である小中学校の期間は、学校外の学びの場に毎日通っていても、学籍は元の小中学校に残っている。このため、小中学校の先生は電話連絡や家庭訪問をせねばならないし、子どもも保護者もそれに対応せねばならない。小中学校の校長が学校外の学びの場を学習上有益と認めると、小中学校の出席とみなせる。さらには、出席日数そのものは卒業要件ではないため、一日も通わなくても、その小中学校を卒業できる。学校制度を維持しながら、子どもの不利益にならないように配慮すると、こうした取り扱いをせざるをえない。もちろん、学校外の学び場に通う子どものなかには、不登校を経由せずに、その学習内容を気に入って積極的に選んだ人もいる。確かに、そうした子どもたちは、不登校によって追いつめられる経験とは無縁である。しかし、経済的負担や学籍の問題は共通する。
 「不登校は制度公害」(古山明男『変えよう!日本の学校システム』14-36頁)と表現する人もいるように、不登校は個人の問題である以前に教育「制度」の問題である。汐見が述べるように、諸外国では国の定めるカリキュラムに沿わない教育方法を教育制度のなかに位置づける法律がある。こうした教育はオルタナティブ教育と呼ばれるが、およそ1割の子どもたちがこうした教育を受けていると言われる(永田佳之『オルタナティブ教育』 i-iv頁)。不登校に象徴される日本の教育の諸課題を「制度」から根本的に変えようとするのが、多様な学び保障法である。


多様な学び保障法の仕組み

 多様な学び保障法は、まだ骨子案の段階で、具体的な条文はできていない。骨子案は、「実現する会」のホームページにPDFで公開されており、現在、2013年2月10日版を読むことができる。この節の記述と頁はこの骨子案にもとづく。「1.目的」には、次のように書かれている。

この法律は、子どもが、その個性を尊重され、一人ひとりそれぞれの学習のニーズに応じて、多様な学びの場を選択できるようにし、普通教育の機会の確保と環境を整備し、基本的人権としての子どもの学ぶ権利を保障することを目的とする。(3頁)

 多様な学び保障法が目的に掲げる「学習者の学ぶ権利を社会が保障する」という考えは、すでに日本国憲法や教育基本法に書かれている。憲法第26条は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と、教育を受けることが学ぶ側の権利であることを明記し、そうした子どもの学ぶ権利を保障するために、第2項で「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と定める。しばしば誤解されるが、義務教育の義務は、保護者や国の義務であって、子どもの義務ではない。また、普通教育とは、社会の一員として生活していく上で万人が習得すべきことがらを養う教育を意味し、専門教育や職業教育と対置される。その義務教育としての普通教育の内容は、教育基本法第5条第2項で、「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。」と規定される。
 こうした憲法と教育基本法の理念を実現するために具体的な教育の方法を定めるのが、学校教育法である。この学校教育法は、学校教育法施行令や学校教育法施行規則などとともに、日本の学校制度を体系化する。学校教育法は、第1条で、法律上の「学校」が、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校であると定義する。これらの学校は「一条校」と呼ばれる。本稿で「学校」と表記する場合は、この学校教育法第1条の定める一条校のことであり、学校以外の学習の場は「学びの場」と表記する。学校教育法は、第2条で、学校を設置できるのが、国、地方公共団体、学校法人であると規定し、第3条で、学校を設置する際に文部科学大臣が定める基準を満たすことを求める。第16条では、保護者が子どもに9年間の普通教育を受けさせる義務を負うことを定め、第17条は、6~12歳は小学校、12~15歳は中学校と、就学させる年齢と学校を指定する。そして、学校教育法施行令第5条では、子どもが入学すべき学校を教育委員会が指定することを定め、学校教育施行規則の第52・74・84条などでは、文部科学大臣が公示する学習指導要領の内容にそって教育することを求めている。学習指導要領は、小学校版と中学校版が100頁あまり、高校版にいたっては300頁ほどにもなる。このような詳細に体系化された学校制度のもとでは、子どもたちがいつどこで何を学ぶかは、文部科学省の定めた基準に沿ってほぼ自動的に決まる。
 子どもが自分にあった学びを自由に選択できるようになるには、学校と学校外の学びの場のどちらを選んでも制度的な不利益を被らないことが大前提である。その実現には、確かに、学校教育法を改正して、学校外の学びの場も学校教育法のなかに位置づける方法もありえる。しかし、そうせずに、多様な学び保障法という新しい法律を制定するのは、上記のように綿密に体系化された学校教育法にその余地はないという実現する会の判断がある(1頁)。多様な学び保障法は、憲法と教育基本法のもとにあって、学校教育法が学校を規定するように、多様な学びの場を規定するものである。このように学校教育法と並んで位置づけられる多様な学び保障法は、まずは、学校外の学びの場が学校と同じ制度的保障を得ることを求める。学校外の学びの場も学校と同じく正規の教育とされ、子どもが学びの場と学校の間を自由に行き来(転籍)することを構想する(2頁)。同じ趣旨から、学校外の学びの場で学んだことも、高校や大学などの入学資格になるようにする(10頁)。子どもは9年間の普通教育を受ける権利をもち(3頁)、保護者は、学校外の学びの場に子どもを通わせることでも義務教育の義務を果たせるようになる(4頁)。公立小中高校の授業料が無償であるように、学校外の学びの場に通う場合も12年間の学習支援金が子どもに国等から支給される(5頁)。この学習支援金を受けとった子どもは、それを学びの場へ授業料として支払う。これは私立高校等の就学支援金と同様の仕組みである。そして、学校外の学びの場も、学校と同様に、国や地方自治体の支援を受けられる(12頁)。
 多様な学び保障法は、学校と学びの場を制度的に同等にしたうえで、子どもが自分にあった学びを自由に選べるように、多様な学びの場が多数生まれるための仕組みをもつ。多様な学び保障法では、学習支援金を学びの場が代理受領する場合には、都道府県に登録することを求める(7頁)。代理受領とは、いったん子どもに支払われた学習支援金を学びの場が授業料として確実に徴収するために、子どもの委託を受けた学びの場が代理で学習支援金を国等から直接受領することである。多様な学び保障法では、代理受領可能な学びの場として登録できる団体を「NPO法人等の公益法人」もしくは「地方公共団体」とする(7頁)。学校教育法の一条校を民間でつくるには、学校法人を設立する必要があった。多様な学び保障法が「NPO法人等の公益法人」とするのは大幅な条件の緩和である。また、多様な学びを自由に実施できるように、「登録要件は、公金を扱う経理管理ができる組織運営体制が整っているかどうかのみとし、学習支援の方針や内容は問わない」(7頁)とする。子どもや保護者などへの情報公開や学習支援の質の担保のため、登録項目には、学びの場の理念、支援方針、学習支援の内容、学びの場の形態などがあげられている(13頁)。しかし、これらの項目は、あくまで申請にもとづいて自動的に登録されるもので、都道府県による登録認可の要件は「公金の経理管理」にかぎられる。さらに、学校外の学びの場をつくりやすくするために、子どもに支給される学習支援金のほかにも、学びの場へ直接支給される学習支援補助金や税制等の優遇措置を求める(11頁)。こうした経済的な支援だけでなく、学校外の学びの場の支援方針を示す「大綱」を国が定めることを規定し、それを具体化する全国レベルの「(仮称)多様な学び支援推進機構」や地域レベルの「学習支援センター」を設置することになっている(6頁)。多様な学びの場から子どもが自分にあった場を選ぶことは、基本的に子ども自身に任されている。その選択がよりよいものとなるために、地域の学習支援センターに「学習支援コーディネーター」が配置される(10頁)。また、子どもの学ぶ権利が保障されない事態が生じた時には、「学習権オンブズパーソン」が調整や勧告などをすることになる(11頁)。
 このような多様な学び保障法の特徴は、(1)憲法と教育基本法のもとに学校教育法と並んで制定される、(2)多様な学びの場を正規の教育と位置づけて義務教育の実施を可能にする、(3)NPO法人等の公益法人であっても公的助成を受けた学びの場をつくれる、 (4)学びの場の学習内容には規定を設けない、(5)学びの場に通う子どもに学習支援金を支給して授業料にあてる、という5点にまとめられよう。これらの5点をとおして、さまざまな学習内容をもった多様な学びの場が生み出され、子どもたちがそれを自由に選ぶことで、子どもの学ぶ権利が保障されるという仕組みである。


多様な学び保障法の意義と影響

 以上のような多様な学び保障法が成立すれば、権利の主体である子どもは、学習支援金を支給されながら、自らの意思で学びを選択できる。これまでも「学校教育」を受ける権利には社会の支援があったが、その社会の支援が「あらゆる教育」を受ける権利へ拡張される。憲法や教育基本法に書かれている「学習者の学ぶ権利を社会が保障する」という理念が文字通り実現する点で画期的である。これまでも、高い授業料を負担できる人びとは、自らの意思で学びを選択できたかもしれない。しかし、学習支援金が希望者全員に支給されることになれば、その可能性がすべての人に開かれる。また、学びの選択によって、子どもは幼い時から「何をしたいのか。何になりたいのか」を問われる。進路選択も、偏差値による合格可能性から学習内容を重視したものへ変わるだろう。もちろん、そうした学びの選択の責任は、子ども(あるいは保護者)が負うことになる。これまでのように「教育は国にお任せ」というわけにはいかない。「自由と自己責任」が原則となる。
 多様な学び保障法は、学びを提供する側にも大きな自由を認め、それを正規の教育と位置づける。つまり、教育を受ける権利だけでなく、教育をおこなう権利も一般の人びとに認めている。これは正規の教育における国や専門家の独占が崩れ、公教育を一般の人びとも担うことを意味する。この点でも多様な学び保障法は画期的である。しかし、懸念がないわけではない。多様な学び保障法は、市場メカニズムによる自由競争モデルになっている。弱肉強食の世界を勝ち抜いた学びの場が、新たな独占をつくるかもしれない。そうなれば、学びの多様性は再び失われてしまう。多様な学び保障法の学習支援金は、「教育バウチャー」に似ている。教育バウチャーは、前の安倍政権の教育再生会議で「規制緩和」という文脈から議論された。多様な学びの保障という点が置き去りにされて、「競争の強化によるサービスの向上」ばかりが強調されれば、学校外の学びの場の運営はかえって厳しくなるかもしれない。確かに、子どもの学習ニーズと学びの場の学習内容をマッチングさせるのに市場メカニズムは適している。しかし、自由な選択の前提となる多様な学びの存在は、市場メカニズムによる自由競争によって自動的にもたらされるわけではない。学びの多様性を担保するには、学びの場の規模制限など寡占状態を規制する方策も必要になるだろう。また、「学習者の学ぶ権利を社会が保障する」という理念を実現するためには、学習支援金を受け取る学びの場は、希望者全員を受け入れる必要があると思われる。もし子どもの選抜を許せば、「手のかかる子ども」とレッテルを貼られた子どもがたらい回しにされる危険がある。公教育の一翼を担うことになる以上、学校外の学びの場も大きな社会的責任を求められる。
 最後に学校である。多様な学び保障法が成立すれば、学校教育法による学校も子どもの選択の対象になり、学校から学びの場へ多くの子どもが移籍するだろう。しかし、減少した児童生徒数に比例して学校予算を減額してはならない。学校制度によって、日本のどこに住んでいても同一の教育が保障されるというきわめて平等な教育が実現した。「平等」は、多様な学び保障法の目指す「自由」とともに大切である。人口密度の低い地方では、多様な学びの場がたくさんできるとは考えにくく、学校の果たすべき役割は大きい。したがって、多様な学び保障法にかかる国の予算は、学校の予算を削らずに、純増すべきである。そもそも、日本の公財政教育支出の対GDP比は、OECD諸国で最低ランクである。日本の公財政教育支出「全体」が増えても何らおかしくない。学校の予算が減らなければ、一学級あたりの子どもの数を減らして、授業の質をあげることも可能だろう。多様な学び保障法によって学校制度も良くなり、日本の教育全体が良くなる道筋を考える必要がある。


おわりに

 このように、多様な学び保障法は、日本の教育制度を根本から変える可能性をもつ。それだけに、具体的な制度設計は、さまざまな影響を考慮に入れて慎重に検討すべきである。しかし、不登校などによって制度的な不利益を被っている子どもたちが現に存在するなか、のんびりしているわけにもいかない。「個性豊かな子どもたちにあわせて多様な学びをつくる」という理念をもつ多様な学び保障法の実現には、立場の異なる多くの人たちが議論に参加することが望まれる。実現する会の第3回総会は、2013年7月14日に早稲田大学で開かれる予定になっている。





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