扇形モデル・多核心モデル・東京圏の社会地図(空間構造1)──地域社会学I2012年11月30日

11月30日から、都市社会学の原型をつくったシカゴ学派への批判と修正というかたちで、授業を進めていきます。この批判と修正は、(1)空間構造、(2)人間関係、(3)歴史的限定性という3点に分けて見ていきます。今回11月30日は、空間構造に関する批判と修正1ということで、空間構造の「形態」に関する議論を取り上げました。ホイトの扇形(セクター)モデル、および、ハリスとウルマンの多核心モデルです。最後に、1975年と1990年の東京の空間構造について社会地図の技法をもちいて実証的に分析した『東京圏の社会地図』(2004年)を紹介しました。


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講義ノートテキスト版
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20121130地域社会学I(空間構造1扇形モデル・多核心モデル・東京圏の社会地図)
空間構造への批判と修正1


同心円という空間構造の「形態」に対する批判──扇形モデルと多核心モデル

扇形(セクター)モデル(Hoyt 1939; 倉沢 1999: 77-8; 国松 1971: 130-3)
 要旨
 都市の住宅地区は、家賃の高低ごとに、都心部を核に、扇形に広がる
 同心円地帯モデルでは、都市の成長にともない各地帯が、同心円上に外側に「均等」に拡大するとされた
 方法
 142のアメリカ都市について、住宅地価や地代にもとづいて住宅地区の分布を検討
 前提
 都市は全体として円形である
 その核心である都心は一つである
 交通路はこの都心から放射状に広がっている
 発見された知見
 都市における最高家賃の高級住宅地区は、当初、都心部に成立し、時間の経過とともに、一定方向に扇形に展開する。
 この最高家賃の高級住宅地区から、あらゆる方向に向かって家賃が低下する勾配現象が存在する
 中間家賃の住宅地区は、高級住宅地に接し、高級住宅地と同じ方向に扇形に広がる
 安い家賃の住宅地区は、高級住宅地と反対方向に扇形に広がる
 したがって、最高家賃の高級住宅地の形成と移動が、都市の空間構造を考える上で重要である。
 高級住宅地の立地を規定する要因(Hoyt 1939: 116-9)
 高級住宅地が誕生する地点は、小売業やオフィスの中心地の近く。
 (1)高級住宅地は、誕生した地点から、既存の交通路に沿って拡大するか、もしくは、建物や商業地のもう一つの中心地に向かって拡大する。
 (2)高級住宅地は、洪水の危険のない高台に向かって拡大する。そして、比較的平らな土地では、(工業がなければ)水際に沿って拡大する。
 (3)高級住宅地は、(ゴルフ場などがある)広々とした郊外に向かって拡大する。もし、拡大の障害物があれば、それを避けて拡大する。
 (4)高級住宅地は、その街の主要な人物たちが暮らす地区に向かって拡大する。
 (5)オフィスビルや銀行や商店の移動は、高級住宅地を同じ方向へ拡大させる。
 (6)高級住宅地は、もっとも速い交通路に沿って拡大する。
 (7)高級住宅地の拡大は、長い期間にわたって同一方向に向かう。
 (8)高級賃貸アパートは、旧い住宅地帯のなかのビジネス中心地近くに立地する。──外側に向かって拡大する全体の傾向に対する唯一の例外
 (9)不動産開発業者は、高級住宅地の成長の方向を変える可能性がある。
 (1)~(9)までの諸力のいくつかあるいは全部の結果、高級住宅地は、都市においてある扇形の中に確立するようになる。そして、その高級住宅地は、その扇形から出て、都市の周辺部に向かっていく。


多核心モデル(Harris and Ullman 1945; 国松 1971: 139-46)
 要旨
 大都市においては、中心業務地区の他に複数の核心が発達し、それらの核心の周りに特有の機能を担う地域が形成される
 同心円地帯モデルでは、都市の核心は、中心業務地区の一つだけ。
 発見された知見
 都市が大きくなればなるほど、核心の数は数多くなり、特殊化される
 都市の当初の核心
 小売商業地域、港や鉄道の駅、工場など
 諸地域
 (1)中心業務地区(central business district)
 都市内交通施設の焦点に立地
 都市のあらゆる箇所からもっとも接近しやすく、もっとも地価が高い
 (2)卸売業および軽工業地域(wholesale and light-manufacturing district)
 都市外との交通の焦点に立地
 (3)重工業地区(heavy industrial district)
 現在および過去の都市の末端に立地
 広い空間と、鉄道または水運が必要
 (4)住宅地区(residential district)
 高級住宅地区は、一般に、騒音・悪臭・煤煙などから離れ、排水がよい高台に立地
 下級住宅地区は、工場・鉄道の近くに立地
 住宅地区の内側は、建物が古くなっているので、高い家賃を支払えない人びとが住む
 (5)小核心(minor nuclei)
 文化的中心(大学など)、公園、郊外商業地区、小工業などが小核心になる
 (6)郊外と衛星都市
 自動車の発達と郊外通勤鉄道の改善によって、郊外が発展
 衛星都市は、毎日、中心都市に通勤する人は少ないが、経済活動では、中心都市と密接に関係する
 複数の核心が形成される理由
 (1)ある活動は、特殊な施設や設備を必要とする
 例:小売業には最大の接近性、工業には広い土地
 (2)ある同種の活動は、結合から利益が得られるので集積する
 例:小売業は集積によって可能な顧客が増加する、会社のオフィスは集積によって互いに依存が可能になる
 (3)ある異種の活動は、相互に利害が相反する
 例:工場と住宅は利害が相反する
 (4)ある種の活動は、もっとも望ましい場所の高い地代を支払えない
 例:広い空間を必要とする卸売業は交通の便のよい地価の高いところに立地できない
 (5)都市が巨大になるにつれて、移動の時間と費用がかさむ
 例:小売業が消費者の居住地に近いところに分散する


三つのモデルの評価(国松 1971: 146-50)
 同心円地帯モデル、扇形モデル、多核心モデルは、相互にまったく相容れないものではない。扇形モデルと多核心モデルは、同心円モデルの否定というよりも、同心円モデルを精緻化・複雑化した修正。
 都市の成長における核心について、同心円モデルと扇形モデルは、一つに対して、多核心モデルは、複数
 扇形モデルの成長は、扇形だが、同心円状に外部に進行
 多核心モデルは、それぞれの核心の周りに同心円状に拡大


都市の空間構造の実証的研究例──『東京圏の社会地図』(倉沢・浅川 2004)
目的
 「世界都市化、バブル崩壊と東京が激動した、直前の1975年と直後の1990年の2つの時点で、東京圏の空間構造を社会地図の手法で視覚化し、この間の変動の内実を明らかにした」(倉沢・浅川 2004: i)
 第一次プロジェクトは、1970年と1975年のデータを使用。
 第二次プロジェクトは、1990年のデータを使用。
 この間の20年間は、東京にとって激動の時代(倉沢・浅川 2004: 4)
 1975年の国勢調査
 東京都以外の道府県が人口増したのに対して東京都のみ人口微減
 =戦後30年間続いていた農山村地域から東京への人口流入の終わり
 =産業化と技術革新による日本国内における人口再配置の終わり
 1980年の国勢調査
 東京都の人口増加の再開
 =グローバル化と東京の世界都市化にともなう新しい段階の人口移動の開始

対象範囲(倉沢・浅川 2004: 6)
 南関東の1都3県(東京、千葉、埼玉、神奈川)および茨城県南部(以下、南関東と略)の333市区町村(1990年)
 この対象範囲は、東京都市圏交通計画協議会「東京都市圏パーソントリップ調査」(1988年、対象地域の住民の1日の外出行動を集計)に準じたもの。

分析単位(倉沢・浅川 2004: 6)
 南関東については、333市区町村を単位として分析
 東京23区については、縦横500メートル・メッシュの2337小地区を単位として分析

分析方法(倉沢・浅川 2004: 6-9, 295-317)
 社会地図の手法を用いて、単位地区ごとに社会的特性を濃淡の地区に表現する
 第一段階
 人口動態、家族形態、住宅、産業、職業階層、貧困、外国人居住者、教育、生活文化、投票行動、生活圏などのそれぞれの指標について、それぞれの分析単位ごとに6段階からなる濃淡を地図につける
 第二段階
 上記の各指標を利用して、特徴ごとに分析単位をグループ化する(KS法クラスター分析)。
 例えば、南関東を1990年のデータで分析した結果、分析単位である333各市区町村は、「複合市街地域」「郊外高級住宅地域」「人口再生産・ホワイトカラー地域」「人口再生産・ブルーカラー地域」「人口再生産・工業地域」「農山漁地域」「半農村地域」「半農村遷移地域」「地場産業地域」の9つにグループ化されている。
 東京23区を1990年のデータで分析した結果、分析単位である2337の小地区は、16にグループ化されている。そして、それぞれのグループについて色分けした地図を作製する。

総括:東京圏の空間構造とその変動(倉沢・浅川 2004: 44-6)
1. 1975年時点では、東側の市街地化が遅れて不完全な同心円構造を呈していた東京圏は、1990年までの間にほぼ完全な同心円構造を示すようになった。
2. 上記の同心円は、複合市街地域を中核に、人口再生産地域がこれを取り囲み、両地域あわせて東京圏の市街化地域を構成する。
3. 1975年時点では未分化であった人口再生産地域は、1990年に、人口再生産・工業地域、人口再生産・ブルーカラー地域、人口再生産・ホワイトカラー地域に分化ないし結晶化した。ただし、この3地域の配置に法則性はなく、モザイク状に分布する。
4. 非市街化地域では、1990年に、新しく半農村遷移地域が独立した
5. 地場産業地域は、都市的性格を持つ市町村であり、その立地は、固有の歴史的展開と深くかかわる。
6. 東京23区に限定された第一次プロジェクトで見出された社会階層のセクター型分布は、東京圏全体から判断すると、必ずしもあてはまらない
7. 1975年から1990年にかけて、中心業務繁華街地域が、オフィスを中核とする繁華街地区B、卸商業を核とする繁華街地区A、オフィス・マンション地区の3つに分化した。
8. 1975年から1990年にかけて、中心業務繁華街地域が、都心部から西南方向の新宿・渋谷方面に大きく拡大し、面的な都心地域を構成するようになる。


参考文献
 倉沢進, 1999, 『都市空間の比較社会学』 放送大学教育振興会.
 国松久弥, 1971, 『都市地域構造の理論』 古今書院.
 Hoyt, Homer, 1939, The Structure and Growth of Residential Neighborhoods in American Cities, Washington: Federal Housing Administration.
 Harris, Chauncy D. and Edward L. Ullman, 1945, "The Nature of Cities", The Annals of the American Academy of Political and Social Science, Nov.(=2012, 原田謙訳「都市の性質」森岡清志編『都市空間と都市コミュニティ』日本評論社, 19-37.)
 倉沢進・浅川達人編, 2004, 『新編 東京圏の社会地図1975-90』 東京大学出版会.
 倉沢進編, 1986, 『東京の社会地図』 東京大学出版会.
 浅川達人, 2010, 「社会地図と社会地区分析」浅川達人・玉野和志『現代都市とコミュニティ』放送大学教育振興会, 48-59.
 浅川達人, 2010, 「大都市の社会・空間構造とコミュニティ」浅川達人・玉野和志『現代都市とコミュニティ』放送大学教育振興会, 60-71.



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