調査票の作成2(回答選択肢と翻訳)────国際社会学I2012年6月5日

6月5日の授業では、前週に引き続き、調査票の作成時に注意すべき点について説明していきました。回答選択肢をつくる際にいちばん重要なのは、「相互排他的で網羅的」という点です。

ところで、国際社会学Iの授業では、国際比較を目的とした調査票調査を取り上げています。そこで避けて通れないのが「翻訳」です。単なる誤訳はもってのほかですが、言葉は文化でもあるので、文化的な考え方の違いがそこに表れます。同一の意味になるようにバック・トランスレーションという方法が考案されていますが、元の調査票と翻訳された調査票を完全に同じ意味にするのは至難の業です。


講義ノートはこちら(MS Word, 34Kb)
https://dl.dropbox.com/u/22647991/20120605%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6I%EF%BC%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%A5%A8%E3%81%AE%E4%BD%9C%E6%88%902%E2%94%80%E2%94%80%E5%9B%9E%E7%AD%94%E9%81%B8%E6%8A%9E%E8%82%A2%E3%81%A8%E7%BF%BB%E8%A8%B3%EF%BC%89.docx

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講義ノートテキスト版
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20120605国際社会学I
調査票の作成2──回答選択肢と翻訳

回答選択肢作成の原則(大谷他 2005: ch4)
① 自由回答は避ける
② 回答選択肢は相互排他的で網羅的につくる
③ 回答選択肢数は多すぎず、少なすぎず
④ 該当する選択肢を一つだけ選んでもらう


自由回答は避ける(大谷他 2005: 115)
 選択回答と自由回答
 選択回答:調査対象者にこちらが用意した回答選択肢のなかから選んでもらう
 自由回答:調査対象者に自由に回答してもらう
 自由回答による回答者の負担
 自由回答は、対象者に負担をかけるので、ほとんどの人は書いてくれない
 自由回答による調査者の負担
 調査票調査は数量的な把握や分析を目的とする
 選択回答は数字にしやすいが、自由回答は数字にしづらい
 したがって、数字しづらい自由回答を避ける
 プリコーディングとアフターコーディング
 コーディング:回答結果を分類し、数字に置き換えること
 プリコーディング:回答の「前」に、回答を数字にするルールを決めること
 アフターコーディング:回答の「後」に、回答を数字にするルールを決めること
 自由回答の結果をアフターコーディングするのは骨が折れる
 対処法
 十分な時間をとって検討して、想定される回答選択肢をすべて記載する
 例外:すべての質問が終わった後に、自由回答欄を設けて、任意でコメントを記入してもらう
 調査事態への質問、疑問や苦情、不満など
 調査方法の改善につながる貴重なデータとなる


回答選択肢は相互排他的で網羅的につくる(大谷他 2005: 107-9)
 相互排他性
 選択肢が意味する内容に重複があってはいけない
 網羅的
 想定されるすべての回答が事前に選択肢として用意されていなければならない
 相互排他的で網羅的でないNG例
 NG例:「あなたは、日用品を購入するにあたり、ふだん市内のどこで買物をしますか。1つ選んでください」(質問文例19)
 近鉄藤井寺駅周辺 (2)近鉄土師の里駅周辺 (3)近鉄道明寺駅周辺 (4)大型ショッピングセンター (5)スーパーマーケット (6)個人商店 (7)コンビニエンス・ストア (7)その他市外
 問題点
 藤井寺駅周辺のスーパーマーケットで買い物をする人は、(1)と(5)で迷ってしまう(相互排他的でない)
 大学生協で買い物する人は回答できない(網羅的でない)
 対処法
 相互排他性:場所の次元と店舗形態の次元で、回答選択肢群を分ける
 網羅性:可能な回答選択肢をじっくり検討する(プリテストなどの実施)


回答選択肢数は多すぎず少なすぎず(大谷他 2005: 111)
回答選択肢の数
 選択肢を3つ以上用意することが普通だが、多くてもせいぜい10個程度に抑える
 人間が短期に記憶できるものの数は7つ前後と言われる
 電話調査のように回答者に選択肢リストを提示できない時はできるだけ少なく
 「はい」「いいえ」の二択で答えられるようにする
 名義尺度の選択肢では、回答が最も多くなると予想されるものは初めに置かない
 特に自記式のときは、2番目以降の選択肢を読んでくれない可能性あり
 自記式とは、回答者自身が回答を記入すること。調査者が回答者の回答を記入するのは、他記式。

回答選択肢の正確さと回答者の負担
 調査する側は回答の精密さを求めるが、それは回答者の負担になりかねない
 信頼性は高いが、正確さに欠ける令
 「風呂場の体重計の目盛りを2㎏減らしておくと、体重は毎日同じ値になるが、その値は常に誤っている。信頼性が正確さを伴うわけではない。」(バビー 2003: 139)
 精密さと正確さ
 年齢なら「40代」よりも「41歳」のほうが精密である
 一般には、精密ではないより精密であるほうが良い
 しかし、「40代」という精密さで調査目的を果たせるならば、それ以上の精密さを求める必要はない
 精密さと正確さの違い
 「ただし、精密さと正確さは異なる。ある人を「関東出身」と記述することは、「東京都出身」というより精密ではない。しかしその人が実際は神奈川県出身だとしよう。この記述は、精密さは劣るが、現実を正確に反映している。」(バビー 2003: 138)


該当する選択肢を一つだけ選んでもらう(大谷他 2005: 112-3)
選択個数の大原則は1個
 回答者にも分析者にもやさしくない個数制限はしない
 制限連記法=選択肢数を制限しているもの
 特に重要なものを3つ選んで番号に○をつけてください
 特に重要なものを3つまで選んで番号に○をつけてください
 特に重要なものを順に3つまで選んで回答欄に番号を記入してください
 制限連記法の問題点
 回答者に大きな負担をかける
 3つも該当するものないかもしれない。
 単純集計もクロス集計も意味がよくわからなくなる
 選び方のパターンが多くなって、集計作業が大変になる


「どちらともいえない」への対処(岩井・保田編 2009: 96-98)
意識を尋ねる質問の回答選択肢は中心点をもつべきか
 日本人は「どちらともいえない」と答える人が多い
 日本人は賛否を明確にする回答を好まない
 従来、こうした日本人の回答傾向から、日本における調査では、「どちらともいえない」などの中心点を設けないスケールが望ましいと考えられてきた
 政府による世論調査および研究機関による社会調査のいずれでも、中心点のない4点尺度が一般的に使用されてきた
 しかし、国際比較調査では、中心点のあるスケールも多い
 表1:国際比較調査における意識項目の選択肢の特徴(岩井・保田編 2009: 96)
 欧米諸国を中心としたISSPでは、中心点をもつ5点尺度の使用頻度がきわめて高い
 さまざまな異質な文化圏を網羅するWVSでは、中心点のない2点尺度や4点尺度の割合が高い
 国際比較調査の場合は、中心点のある左右対称のスケールのほうが、対象者が自分自身の態度を位置づけしやすいという意見もある

EASSにおける意識を尋ねる尺度
 EASSでは、日本チームは中心点のない左右対称の4点尺度の使用を主張したが、他のチームは中心点を含んだ左右対称の5点尺度の使用を主張した。
 結果として、中心点をもつ左右対称の7点尺度が用いられた

EASSにおける比較実験調査の結果──7点尺度を採用した理由
 図1:同一の質問文に異なる選択肢で尋ねた場合の回答分布(岩井・保田編 2009: 98)
 同じ質問文に対して4種類の異なる選択肢を設定し、無作為に抽出された4つのグループの対象者に回答してもらっている
 回答結果の数値は、EASSの18の意識調査項目への回答結果を平均して表している
 結果
 中心点のある5点尺度と7点尺度を比較すると、5点尺度の場合に、中心点への回答が増加する傾向がある
 「どちらかといえば賛成(反対)」といった程度の弱い選択肢を組み込んだ7点尺度では、中心点への回答はいくぶん減少する。
 以上の結果から、EASSで7点尺度が採用された。


選択肢の翻訳(岩井・保田編 2009: 99-101)
図2:6つの国・地域の回答分布(岩井・保田編 2009: 100)
 WVSとISSPの両方で尋ねられた同一の質問文の回答分布
 質問文「A working mother can establish just as warm and secure a relationship with her children as a mother who does not work.」
 回答選択肢
 WVS「Strongly agree / Agree / Neither agree nor disagree / Disagree / Strongly Disagree」の5点尺度
 ISSP「Strongly agree / Agree / Disagree / Strongly Disagree」の4点尺度
 結果
 同じ質問にもかかわらず、日本とスウェーデンで回答分布が大きく異なる

表2:6つの国・地域の選択肢の訳語(岩井・保田編 2009: 101)
 日本の例
 ISSP:Strongly agreeを「そう思う」、Agreeを「どちらかといえばそう思う」と訳している
 WVS:Strongly agreeを「強く賛成」、Agreeを「賛成」と訳している
 「ISSPの日本の回答分布において、Strongly agreeに多くの回答が集中しているのは、程度の強い賛成度を示すStrongly agreeを中程度の賛成度を示す「そう思う」と翻訳しているためだと考えられる。」(岩井・保田編 2009: 101)
 「国際比較調査を分析する読者の方は、是非、原文調査票(source language questionnaire)だけではなく、実際に各国・地域で使用された訳文調査票(target language questionnaire)を調べ、適切な翻訳がおこなわれているかどうかをチェックしてほしい。」(岩井・保田編 2009: 101)


質問文の翻訳(日本語質問文を英語翻訳する場合)(吉野 2010: 81-9)
基本的な手順(図2.1質問文翻訳検討の手順)
 (1)日本語の質問文を作成する
 (2)質問の意味やねらいなどを十分に考えて英語の質問文に翻訳する(直訳ではなく意訳する)
 (3)英語圏で調査経験の豊かな専門家に英語質問文を検討してもらう
 (4)<バック・トランスレーション>原日本語質問文をまったく知らない翻訳の専門家に英語質問文をできるだけ英文に忠実に日本語に翻訳してもらう(意訳ではなく直訳する)
 (5)原日本語質問文と再翻訳日本語質問文を比較・検討する
 質問の意味は損なわれていないか
 質問の意図は損なわれていないか
 日本文として両者の食い違いはどうか
 言外の意味、ニュアンスなどの食いちがいはどうか
 (6)両者に違いがなければ、日本語質問文に対応する英語質問文ができたと判定する

質問文翻訳の具体例
 (1)原日本語質問文
 「つぎのうち、大切なことを2つあげてくれといわれたら、どれにしますか」
 a. 親孝行 73.2%
 b. 恩返し 45.8%
 c. 個人の権利を尊重すること 37.7%
 d. 個人の自由を尊重すること 36.6%
 (2)原日本語質問文を英語に翻訳
 (アメリカ生まれの米日語バイリンガルに翻訳を依頼)
 「If you were asked to choose the two most important items listed on his card, which two would you choose? Just call the letters.」
 a. Filial piety / Love and respect for parents
 b. Repaying people who have helped you in the past
 c. Respect for the rights of the individual
 d. Respect for the freedom of the individual
 cとdは、本来、欧米の政治や歴史のなかから生まれたものなので、翻訳はストレートにできる。
 aとbは、日本的な色彩の濃い表現なので、翻訳は説明調のかみくだいた表現になっている。
 (3)<バック・トランスレーション>英語質問文を日本語に再翻訳
 (日本生まれの日米語バイリンガルに翻訳を依頼)
 「つぎのうち、大切なことを2つあげてくれといわれたら、どれにしますか。」
 a. 親孝行、親に対する愛情と尊敬 77.7%
 b. 助けてくれた人に感謝し、必要があれば援助する 56.8%
 c. 個人の権利を尊重すること 25.2%
 d. 個人の自由を尊重すること 32.8%
 cとdは、もとの日本文とまったく同じに戻った。
 aは、もとの日本文にあった「親孝行」を含めて、英語に翻訳した際に付け加わった「親に対する愛情と尊敬」という「親孝行」の説明が追加されたかたちになった
 bは、もとの日本語の「恩返し」が消えて、英語に翻訳した際に意訳された「過去に助けてくれた人に報いる」がさらに意訳されて「助けてくれた人に感謝し、必要があれば援助する」になった。
 翻訳で説明口調になることはよくある
 「一般に、翻訳・再翻訳の過程で、もとの言語特有の言い回しは消えて、説明口調になることはよくあることである」(吉野 2010: 85)

原質問文と再翻訳質問文の比較実験調査
 日本人(成人)から1000~2500人規模の無作為抽出標本を二つとる。
 二つの標本は統計的に同質と考えられる。
 サンプルAに「もとの日本語質問を米訳し、それを日本語へ再翻訳した質問文」(バック・トランスレーション)をたずねる。サンプルBには「もとの日本語質問文」をたずねる。
 上記の回答選択肢a~dの横のパーセンテージは、この比較実験調査の結果
 実験結果
 aは、4.5%の差で、統計的な標本誤差なども考えに入れると、大きく違っているわけではない
 bは、11.0%も違っている。意味は同じようでも表現が少し違うと、回答は11.0%も違ってくる。
 調査AとBでまったく同じ表現であったcとdも、bの効果のためか、違いが出てきており、特にcは12.5%も違ってきている
 「本質的な意味の差はなさそうでも、少しの表現、言い回しの違いで、同じ日本語の質問でも回答結果が10%から15%くらい違ってくることもある」(吉野 2010: 86)
 「日米比較で、回答結果に10~15%差があったとしても、それが日米の国民の意識の本当の差なのか、翻訳上の言い回しの微妙な差で生じたものか、ただちには判定しがたい」(吉野 2010: 88)

言葉の壁は越えられないのか
 個々の質問の回答分布では差が出ても、複数の質問群による解析をすれば、分析結果が安定する
 「ところが、質問の一つ一つの回答分布を単独に比べるのではなく、調査票全体の質問群(数問以上)に対する、いくつかの国全体の回答データを総合して、それを解析すると、話は全く異なる」(吉野 2010: 88)
 「つまり、個々の質問を単独で比べると、質問の聞き方の多少の表現の違いで無視できないような回答結果の差が生まれることもあり、データの信頼性(安定性)は怪しいこともある。しかし、多数の質問に対して、複数の国々の回答結果のデータの全体のパターンを眺めると、多少の表現の違いの効果などは、ほとんど無視でき、安定した結果が得られるのである。」(吉野 2010: 88-9)


参考文献
 吉野諦三・林文・山岡和恵, 2010, 『国際比較データの解析』朝倉書店
 岩井紀子・保田時男編, 2009, 『データで見る東アジアの家族観──東アジア社会調査による日韓中台の比較』ナカニシヤ出版.
 バビー, E., 2003,『社会調査法1──基礎と準備編』培風館, 3-27.
 大谷信介他, 2005, 『社会調査へのアプローチ──論理と方法[第2版]』 ミネルヴァ書房.









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