社会階層と社会移動全国調査(SSM)──国際社会学I2012年5月8日

5月8日の授業では、「社会階層と社会移動全国調査」 (Social Stratification and Social Mobility; SSM)を取り上げました。SSM調査は、1955年から10年間隔で実施されている伝統ある日本の階層調査です。1995年調査までは日本だけを調査対象としていましたが、2005年調査では韓国と台湾が加わりました。

そのねらいの一つは、先週の授業で取り上げたEASSと同様に、類似性の高い東アジア諸国における階層構造の細かい差異を見ていこうというものです。もう一つのねらいは、社会階層や社会移動の「東アジアモデル」を構築するというものです。近代化は、社会階層や社会移動に大きな影響をあたえます。近代化によって伝統的な身分制度が破壊され、平等な社会が目指されるからです。この近代化を欧米諸国は長い時間をかけて達成しましたが、日本を始めとする東アジア諸国は短時間でおこないました。こうした「圧縮された近代化」という条件が欧米の社会階層や社会移動とは異なる「東アジアモデル」というものを形成しているかもしれないという予測にもとづいています。残念ながら、授業では「東アジアモデル」についてふれられませんでしたが、たいへん興味深い問題設定だと思われます。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
http://dl.dropbox.com/u/22647991/20120508%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6I%EF%BC%88%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E9%9A%8E%E5%B1%A4%E3%81%A8%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%A7%BB%E5%8B%95%E5%85%A8%E5%9B%BD%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%89.docx

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講義ノートテキスト版
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20120508国際社会学I(社会階層と社会移動全国調査)

国際的な調査プロジェクト4──社会階層と社会移動全国調査

SSM調査の概要
 SSM調査とは、「社会階層と社会移動全国調査」 (Social Stratification and Social Mobility)の略称
 1955年以来、10年間隔で実施(直近の2005年は第6回目)
 1995年調査までは日本だけを調査対象としていたが、2005年調査では韓国と台湾も調査対象に加わる
 SSM調査全体を通した調査目的
 日本の社会階層はどのようになっているのか、また、階層の流動性は高いのか低いのか
 社会階層とは、社会的な資源(経済的資源・関係的資源・文化的資源)の不平等な配分にもとづく社会的な地位の異なる人びとが、複数の階層をなしてつらなる構造
 経済的資源:所得、資産
 関係的資源:人脈、威信、意思決定への参加
 文化的資源:学歴、知識
 SSM調査では、主に「職業」によって社会階層を考える
 組織
 制度化された調査主体はなく、10年ごとに調査チームが形成される


2005年SSM調査
公式ウェブサイト
http://www.sal.tohoku.ac.jp/coe/ssm/index.html
 ただし、現在はアクセスできない

調査概要(質問紙法にもとづく社会調査データベース; SRDQより)
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/metadata.cgi?lang=jp&page=s_view&sid=168
 調査票
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/PDF/SSM2005.pdf
 調査報告書
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/metadata.cgi?lang=jp&page=refs&rid=2559
 調査結果の分析
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/sv/catalog?category=objectid:/2073649
 研究経費(2004年から2007年の4年間)
 3億4892万円

韓国と台湾を加えた二つの理由(佐藤 2011)
 階層構造について日本と欧米諸国を比較する研究は盛んだが、日本と東アジア諸国を比較する研究は少なかった
 社会階層や社会移動の「東アジアモデル」を構築したい
 時間をかけて産業化や近代化を遂げてきた欧米諸国にくらべ、東アジアは短時間でそれを成し遂げてきた。そうした圧縮型経済発展を遂げた東アジア諸国では、欧米諸国とは異なる社会移動のパターンが見られる可能性がある

2005年SSM調査における困難(佐藤 2011)
 サンプリング枠組みの違い
 問題:日本と台湾は個人をサンプリングの単位にしたが、韓国は世帯がサンプリングの単位になっている
 韓国では、訪問した世帯で直近に誕生日を迎える人を調査対象とした。そのため、世帯構成によって個人の抽出確率が異なってくる
 対処:ウェイトを算出して、それを各サンプルに付与した
 職歴データの収集
 職歴データとは、初職から現職にいたるまでのすべての職業経歴の情報。SSMでは、転職だけでなく、内部昇進や役職の変化、従業上の地位の変化など、詳細な職歴データを収集。
 問題:日本では年単位で収集しているが、台湾は月単位で収集している。
 対処:年単位にデータをそろえるため、台湾の月単位の情報は落とさざるをえない
 職業コードの違い
 回答者に仕事の内容を自由に答えてもらい、後でSSM職業分類にもとづいた職業コードをつける(アフターコーディング)
 問題:日本のSSM職業分類は、日本の国勢調査の職業分類に準拠しており、国際標準職業分類には準拠していない。韓国では、国際標準職業分類をもちいてきた。
 対処:日本、韓国、台湾の職業データに国際標準職業分類にもとづいた職業コードを割り当てた。
 さらなる問題:国際標準職業分類で職業コードを割り当てると、日本のSSM調査で時系列分析ができなくなってしまう
 さらなる対処:2005年のデータは、同じ職業に両方のコードを割り当てた
 SSM職業コードと国際標準分類コードは必ずしも一対一対応しないので、慎重に議論を重ねて対応関係を確定した
 非正規雇用の意味の違い
 問題:韓国では、正規雇用-非正規雇用の区別が日本よりも複雑。従業上の地位、とりわけ正規雇用-非正規雇用の区分は、各国の労働市場の構造によって大きく規定されている
 対処:各国の専門家と意見を交換しながら、できるだけ比較可能な分類を構成

日韓台の国際比較の調査結果(佐藤 2011)
 報告書
 有田伸編, 2008, 『東アジアの階層ダイナミクス』(2005年SSM調査シリーズ13)
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/PDF/2005%20SSM%20Report%20Vol.13.pdf
 石田浩編, 2008, 『Social Stratification and Social Mobility in Late-Industrializing Countries──後発産業社会の社会階層と社会移動』(The 2005 SSM Research Seies 14)
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/PDF/2005%20SSM%20Report%20Vol.14.pdf
 調査結果の概要
 個人所得と主観的階層意識の規定構造は日韓台で類似している
 職業、従業上の地位、従業先種別、企業規模、教育年数の影響力は3カ国であまり違いはない
 ただし、企業規模の影響のあり方は3カ国で異なる
 日本と台湾では、企業規模300人ないし1000人が影響の違いがもっとも顕著に出る区分点になる
 韓国では、それが5人から30人となっている
 教育について、日本の女性を除いてMMI仮説が妥当する
 MMI仮説(Maximally Maintained Inequality仮説)
 教育機会の拡大はまず上位階層の子弟に利用され、彼ら・彼女らの進学率が飽和状態になると、その次の階層の子弟が利用できるようになる
 高学歴化のスピードとは関係なく、出身階層による教育達成格差が安定である
 既婚女性の就業パターンの日韓比較
 韓国では4年制大学を卒業することは雇用者として就業する確率を高めているが、日本ではそのような傾向が見られない
 韓国では高い学歴が正規雇用への就業を促進するが、日本ではそのような効果が見られない


2005年SSM調査結果の紹介
有田「東アジアの社会階層構造比較」(有田 2011)
 方法
 日韓台のデータについて、対数変換した個人所得、ならびに、10段階の主観的地位評価を従属変数とする回帰分析を男女別におこなう
 個々の条件に関する複数のダミー変数をモデルに追加することで、モデルの決定係数がどれだけ上昇するのかを規準として、それぞれの条件の効果の大きさを捉えていく
 所得に対する効果(表2)(有田 2011: 280)
 男性──指標性(最初に追加)
 日本では、年齢と職種の効果が大きい
 韓国では、年齢と職種の効果に加え、教育の効果が大きい
 台湾では、年齢や教育(さらには企業規模)の効果も小さくないが、相対的には職種の効果が圧倒的に大きい
 男性──独自性(最後に追加)
 日本では、年齢の効果が非常に大きい
 台湾では、職種効果が年齢効果を上回る
 韓国では、日本に似ているが、教育が職種と同様に強い独自効果をもつ
 企業規模、雇用形態、従業上の地位が所得に及ぼす独自効果を見ると、いずれも日本においてもっとも大きく、それに韓国、台湾が続く
 女性について
 韓国と台湾では、女性の所得の規定構造は男性と大きく変わらない
 日本女性の場合、所得にもっとも大きな影響を及ぼすのは職種と雇用形態であり、男性に関して強い効果が認められた年齢と企業規模の影響は非常に弱い
 主観的地位評価に対する効果(表3)(有田 2011: 282)
 男性について
 日韓台3カ国とも、所得が圧倒的に大きな影響を及ぼしている
 韓国では、学歴のもつ独自の効果が大きい
 台湾では、職種のもつ効果も大きい
 日本では、年齢のもつ効果が大きい
 女性について
 台湾と韓国の女性は、男性と比較的似通っている
 日本女性は、各条件の効果が他の社会に比べて小さく、モデル全体の決定係数自体が小さい
 女性本人の職業や所得よりも、配偶者の職業や所得のほうが強く作用している可能性がある
 まとめ──日韓台の社会階層構造
 「台湾は、職種の効果が圧倒的に強い社会であり、職種が決まれば、所得、主観的地位評価の散らばりのかなりの部分が説明されることになる。またこれらの規定構造に男女間で大きな違いのないのも特徴といえよう。」(有田 2011: 284)
 「韓国においても職種の効果は強いが、韓国社会の特徴は、何よりも学歴の効果の強さに求められよう。」(有田 2011: 284)
 「日本男性の場合、強い年齢の効果を除けば、韓国、台湾のように何か特定の条件が他を圧倒するほどに強い影響を及ぼしているとは言い難い。むしろ企業規模、雇用形態の効果が他の社会よりも大きいことともあいまって、日本では職種や雇用形態、企業規模、さらに個人の学歴がそれぞれ比較的強い影響力を持つことになるのである。ただし日本の女性に関しては、年齢や企業規模が所得に及ぼす効果は弱く、主観的地位評価に対しても本人の職業条件や属性が与える効果は総じて小さい。」(有田 2011: 284)

中尾「地位達成モデルの東アジア国際比較」(中尾 2011)
 ブラウとダンカンの地位達成モデル(アメリカ、1960年代)
 個人の社会的地位を従事する職業の地位ととらえ、帰属的な要因(出身階層:父親の教育程度と職業的地位)と業績的な要因(本人の教育程度)の双方が地位達成に対して影響力をもつことを示す
 個人の職業的地位は、本人の教育程度と最初に就いた職業の地位に大きく規定される
 父親の教育程度と職業は、息子の職業に直接強い影響は示さないものの、息子の教育程度に強く影響を与える
 方法
 日韓台のデータについて、ブラウとダンカンのモデルにもとづいてパス解析をおこなう
 男性の分析結果
 日本:出身階層が子どもの学歴を大きく規定する。現職は本人の教育程度に影響され、初職の地位に大きく関連する
 初職の規定力の強さは年功序列制の強い日本の特徴
 韓国:日本男性と似ているが、父親の職業がいずれの変数にも有意な直接的効果をもたない
 台湾:本人の学歴が現職を規定する割合が、日韓よりも高い。初職の現職に対する規定力は日韓よりも弱い
 父学歴が本人学歴に与える効果は韓国が高い
 女性の分析結果
 比較的、国ごとの男女差は小さい
 日本:父親の学歴の効果が大きい
 父学歴が息子に与える影響が娘に与える影響よりも弱い。
 父学歴から娘現職への直接効果がみられた
 まとめ
 「まず男性については、出身階層の影響力は韓国が一番強く、次に日本、そして台湾が3カ国の中では一番弱くなっている。ただしこれは、父親の学歴に関していえることではあるが、父親の職業についていえることではない。」(中尾 2011: 298)
 「次に、女性の地位達成過程について、女性の場合も日本においては、父親の学歴が大きな規定要因となっているのは男性と同様である。そして、その影響は韓国でさらに大きく、台湾が一番小さく現れている。父親の職業の影響については、日本が一番大きく、次に台湾、最も小さいのが韓国という点についても、男性のモデルと同様である。」(中尾 2011: 298)
 「本章では、最も基本的なBlau-Duncan地位達成モデルを用いて国際比較を試みた。これらの分析を通じていえることがいくつかある。まず、このモデルは確かに頑強ではあるが、東アジア3カ国の国際比較をするには不十分だといってよいだろう。なぜならば3カ国の違いは、ここで扱った変数以外の多数の要因に現れている可能性があるからだ。」(中尾 2011: 299)


参考文献
 佐藤嘉倫, 2011, 「社会階層・社会移動調査をめぐる国際比較の困難性と可能性」『社会と調査』 7: 12-7.
 有田伸, 2011, 「東アジアの社会階層構造比較──報酬・地位の違いを生み出す変数は何か?」石田浩・近藤博之・中尾啓子『現代の階層社会2──階層と移動の構造』東京大学出版会, 273-87.
 中尾啓子, 2011, 「地位達成モデルの東アジア国際比較」石田浩・近藤博之・中尾啓子『現代の階層社会2──階層と移動の構造』東京大学出版会, 289-300.



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