デュルケム『自殺論』(公式統計)──社会学総論2012年4月20日

先週4月13日の授業は、私が担当する社会学総論(社会調査編)の進め方を話しただけだったので、本格的な内容は本日4月20日からとなります。昨年度と同様に今年度も、社会学的な調査研究の古典を紹介することで、社会調査の概要を知ってもらおうと考えています。ちなみに、この社会学総論は、社会調査士資格のA科目に認定されています。

ということで、授業内容は昨年度とほぼ同一になります。授業の予習をしたい人は、このブログに掲載されている社会学総論の授業を参考にしてください。

社会学総論
http://r-takayama.at.webry.info/theme/097622123b.html


講義ノートはこちら(MS Word, 34Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZgY5biCKEqg-2G39mMQ

昨年度の講義ノートはこちら
http://r-takayama.at.webry.info/201106/article_13.html

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講義ノートテキスト版
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20120420社会学総論(デュルケム『自殺論』)

デュルケム『自殺論』1897年──公式統計の利用

公式統計
 デュルケム『自殺論』は、公式統計をもちいた初めての本格的な社会学的研究
 公式統計とは、「行政や公共団体などが職務遂行のために作成し、公表する統計」
 「官庁統計」とも呼ばれる
 冊子体、CD-ROM、インターネットを介して公開される
 日本の公式統計は、総務省統計局が管轄
 総務省統計局HP:http://www.stat.go.jp/
 日本政府が収集している統計を広く公開
 日本の公式統計の代表例は「国勢調査」
 日本における自殺の公式統計:「人口動態統計」(厚労省)、「自殺統計」(警察庁)
 「自殺の統計」について紹介したホームページ(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/index.html


調査企画──調査の動機と意義
社会問題としての自殺
 世紀末である19世紀のヨーロッパで、自殺に対して大きな関心がもたれていた。
 世紀末という時代の雰囲気
 ある世紀の末期。特に、一九世紀末、フランスに始まり、ヨーロッパ各国に広まった懐疑的、退廃的な思潮の傾向がみられた時代。その病的な傾向。また、ある社会の没落期に現われる病的な傾向。(日本国語大辞典より)
 自殺は一種の文明病という見解が存在
 「自殺が増えている。現在の社会の進歩は、人びとに幸せをもたらすのか」。

社会学的方法の実証
 『社会学的方法の規準』(1895年)で示した社会学的方法を具体的に「自殺」に適用してみせる
 社会学的方法:ある「社会的事実」を別の「社会的事実」で説明する
 社会的事実
 「個人にとって外在的であり拘束的な行為・思考・感覚のプログラム」(竹内 2008: 32-33)
 「個人意識の総和によっては説明不可能であり、固有の(sui generis)実在であり、特別な法則にしたがい、ひるがえって個人を規定するもの」(竹内 2008: 33)
 「社会的事実」としての自殺率
 各社会において自殺率は安定している。各社会に固有の自殺率がある=社会的事実
 統計がかかげる自殺の「動機」は信憑性に乏しい。「動機」は、自殺の原因というよりも「きっかけ」にすぎない。デュルケムは、動機の向こう側にある「一般的な状態」に自殺の原因を求める。
 この「一般的な状態」こそが、「集合意識」や「社会的事実」と呼ばれるもの
 「統計数値にあっては、各人の動機など個人的な事情は相殺されるから、それによって集合意識の一定状態を直接観察することができる」(大村 1993: 52)
 デュルケム以前にも、自殺の統計をもちいた研究は多数存在していた。
 デュルケム『自殺論』の前半は、社会学の立場から、こうした既存の研究(精神疾患説、環境説、模倣説)を批判している。


調査設計──データ収集の段取り
19世紀末には各国の公式統計が利用可能
 19世紀には、各国が自殺統計を定期的に公表するようになっていた
 各国の人口センサスの開始年
 アメリカ 1790年
 イギリスとフランス 1801年
 ドイツとカナダ 1871年
 インド 1872年
 オーストラリア 1911年
 日本 1920年
 韓国 1925年
 中国 1953年
 センサス(census)
 人口調査、国勢[市勢]調査、全数[個体数]調査(リーダーズ英和辞典第2版)


データの分析──共変法
 共変法(きょうへんほう)
 J・S・ミルが『論理学体系』(1843年)のなかで定式化
 「ある現象がある様式で変化をするときにはつねにもう一つの現象が何らかの様式で変化しているならば、後者は前者の原因もしくは結果であるか、あるいは、何らかの因果関係によって前者と結びつけられている」(新社会学辞典306頁)
 「共変法は二変量相関関係に基づく因果関係推定の方法」(新社会学辞典306頁)
 六つの二変量相関関係
 (1)宗教と自殺
 カトリック教徒の多い国または州は、プロテスタントの多い国や州より自殺率が小さく、ユダヤ教徒の自殺率はカトリックよりもなお小さい。
 (2)仕事と自殺
 自由業の人や金利生活者など有閑階級の人びとは、他の職業の人たちに比べて、自殺率がむしろ大きい
 (3)性別と自殺
 女性は、男性に比べて、自殺率が小さい
 (4)家族と自殺
 年齢の影響を除去すると、既婚者は独身者より自殺率が小さい。また、既婚者の自殺免疫性は、家族の密度に比例する。
 (5)時代と自殺
 戦争のような政治的危機の時代に自殺率は低下する。
 (6)地域と自殺
 農村部諸州は、大都市をもつ州より自殺率が小さい。
 宗教をさらに詳しく見ると・・・
 教義上は、プロテスタントが自殺をもっともタブー視している。
 しかし、実際の自殺率は、プロテスタントがもっとも高い。
 したがって、教義には還元できない自殺を促す社会的な要因が存在する。
 それこそが「集団の凝集性」
 結論(自己本位的自殺)
 自殺率は、集団の「凝集性」(まとまりの強さ)に反比例して、増加する
 まとまりの弱い集団では、自殺が多い
 まとまりの強い集団では、自殺が少ない


結果の公表と提言──職業集団の再建
 調査研究の成果は『自殺論』として刊行された
 『自殺論』における自殺予防の提言
 中間集団である「職業集団」の再建をとおして、人びとのつながりを再生する
 職業集団:同じような仕事をする人たちの集団
 歴史上つねに存在し、どこにでもあり、人びとの生活全般にかかわっている
 「デュルケムは、この集団が、諸個人にとって身近な環境をなし、熱い仲間意識をつちかい、しかもその欲望への規制と、仕事への集団的方向付けをあたえてくれるものと期待している」(宮島 1979: 193)
 フランス革命(1789年)──自由・平等・友愛が旗印
 ギルド(同業組合)、教会、地域社会などの中間集団は、「個人の自由」を縛るものとしてフランス革命時に破壊された


『自殺論』の評価
公式統計は正しいか──データの問題点
 公式統計の暗数(dark figure)
 暗数とは、実際に現象が起きているにもかかわらず、その現象が、統計数値に反映されていない数
 実際の発生件数 = 統計数値 + 暗数
 例:車のスピード違反の統計は、実際よりも少ないはず。交通安全週間には、スピード違反の取り締まりが厳しくなるので、スピード違反の統計数値はあがっているはず。
 自殺統計にも暗数が存在する
 自殺はタブー視されるので、事故死として処理されるケースも多いと言われている
 「厚生労働省「人口動態統計」と警察庁「自殺統計」の違い」(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2010/pdf/pdf_honpen/h006_s.pdf
 バイアス(bias)
 データの「偏り」のこと
 調査票調査で生じる主なバイアスについては、谷岡(2000)を参照のこと

生態学的誤謬(ecological fallacy)──分析の問題点
 生態学的誤謬:地域単位の相関と個人単位の相関とが必ずしも一致しないので、前者によって後者を推論することは誤りである。
 分析の単位は、個人か、地域か。
 デュルケムは、地域単位(国や州)で相関を求めている。したがって、分析単位は「地域」。
 架空の例(カ=カトリック、プ=プロテスタント)
A国(カの国) B国(カとプ半々) C国(プの国)
人口 50万人 20万人 10万人
宗教 カ50万人 カ10万人
プ10万人 プ10万人
自殺者 5人
(カ5人) 3人
(カ3人) 2人
(プ2人)
自殺率(10万人あたり) 1人 1.5人 2人
 地域単位で集計した結論:プロテスタントの国のほうが、自殺率が高い
 個人単位による自殺率の再集計
 カトリック:自殺者8人÷人口60万人=人口10万人あたりの自殺率1.33人
 プロテスタント:自殺者2人÷人口20万人=人口10万人あたりの自殺率1人
 個人単位で集計した結論:カトリックのほうが、自殺率が高い


原典
 デュルケーム, 1985, 『自殺論』(宮島喬訳)中央公論社(中公文庫)

参考文献
 G・イーストホープ, 1982, 「第6章 測定と分析」『社会調査方法史』慶應義塾大学出版会, 153-157.
 竹内洋, 2008, 「3 エミール・デュルケーム『自殺論』」『社会学の名著30』筑摩書房(ちくま新書), 31-38.
 宮島喬, 1998, 「デュルケーム『自殺論』」『社会学文献事典』弘文堂, 26-27.
 大村英昭, 1993, 「5 自殺と社会──E.デュルケムの社会学」井上俊・大村英昭『改訂版 社会学入門』放送大学教育振興会, 48-58.
 Madge, John, 1962, "2 Suicide and Anomie," The Origins of Scientific Sociology, New York: Free Press, 12-51.
 宮島喬, 1979, 『デュルケム自殺論』有斐閣(有斐閣新書).
 谷岡一郎, 2000, 『「社会調査」のウソ──リサーチ・リテラシーのすすめ』文藝春秋(文春新書).
 大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋・永野武編著, 2005, 『社会調査へのアプローチ──論理と方法 第2版』ミネルヴァ書房.



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