質的データの収集4(ドキュメント)──地域社会学II2012年1月11日

1月11日の地域社会学IIでは、前回のインタビューの続きを話してから、質的データの収集法の三つ目として「ドキュメント」を取り上げました。ドキュメント(文書、記録)には、本、雑誌、行政文書、日記、手紙、統計、写真、絵画、音楽、ホームページ、ブログ、床の汚れなど、多種多様なものが含まれ、定義すれば「第3者によって既に記録され、物理的な媒体によって保存・表示されているもの」となります。このドキュメントの「過去に第3者が記録した」という特徴から、収集したドキュメントの質と内容について調査者が独自に判断する必要が生じます。この点が、ドキュメント調査の要点になります。次回1月18日からは、「収集した質的データをど、のように調査報告書へ仕立てていくか」という「質的データの分析」に入っていく予定です。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZ90wmz_EBxUS4ltKa


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講義ノートテキスト版
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20120111地域社会学II(質的データの収集4ドキュメント)

質的データの収集4──ドキュメント
ドキュメント調査の定義
 ドキュメント調査は、ドキュメントをデータとしてもちいた社会調査のすべてを指す。
 非常に幅広い定義
 ドキュメントの具体例
 本、雑誌、行政文書、日記、手紙、統計、写真、絵画、音楽、ホームページ、ブログ、床の汚れ、など
 ドキュメントとは、「第3者によって既に記録され、物理的な媒体によって保存・表示されているもの」
 「第3者」による記録
 参与観察やインタビューでは、調査者がデータ(フィールドノーツ、インタビュー記録)を作成するのに対し、ドキュメント調査では、調査者以外の第3者が作成したドキュメントをデータとして用いている
 第3者によって作成されているので、データとしてのドキュメントの質などを、調査者が独自に見極めることが重要になる
 「過去」の記録
 参与観察やインタビューでは、データのほとんどは「現在」に近い時点で作成されるが、ドキュメント調査では、「過去」のある時点で作成されたデータが多い
 ドキュメントの内容や意味をきちんと理解するためには、ドキュメントがどのように作成されたのか、その「文脈」をふまえる必要がある。
 「物理的媒体」による記録
 「紙」が多い。過去には、羊皮紙、木、石などにも記録された。
 最近では、コンピュータなどの電子媒体を利用したドキュメントが急増
 ドキュメント調査の重要性
 インターネットによって入手できるドキュメントの種類と数が飛躍的に増えた。多様な情報源を含むドキュメントを社会調査で用いないのは、たいへんな損失である


ドキュメントの質を見極める
 ドキュメントは第3者によって過去に記録されたものなので、データとして利用する調査者はドキュメントの質を見極める必要がある。
 質を見極めには、ドキュメントが記録・保存された際の5W1Hを考える
 Who(誰が) What(何を) When(いつ) Where(どこで) Why(なぜ)How(どのように)

ドキュメントの分類
 一次的、二次的ドキュメント
 記録された出来事と記録者の関係で分類
 一次的ドキュメント(一次資料)
 記録された出来事を実際に目撃した人が書いたり、集めたりした資料
 二次的ドキュメント(二次資料)
 出来事を目撃していない人が、出来事の後に書いた記録
 比較
 伝聞にもとづいて書かれた二次的ドキュメントは、一次的ドキュメントに比べて情報量が少なく不正確である可能性が高い
 公的、私的ドキュメント
 記録者の属性(公的な主体か、私的な主体か)で分類
 公的ドキュメント
 行政などの公的な主体が、主に、職務上の必要から作成するドキュメント
 最大のカテゴリーは、国や地方自治体が作成するもの
 出生、婚姻、死亡の届出や、警察、課税、住宅の記録など
 さまざまな公式統計が含まれる
 私的ドキュメント
 一般の人びとが、作成するドキュメント
 比較
 公的ドキュメントは作成の責任を問われる可能性があるので、私的ドキュメントに比べて慎重に書かれている可能性が高い。
 依頼型、非依頼型のドキュメント
 記録が調査者の依頼にもとづくかどうかで分類
 依頼型ドキュメント
 調査という目的を念頭に作成されたドキュメント
 非依頼型ドキュメント
 個人的な用途のために作成されたドキュメント
 比較(日記を例に)
 依頼型の日記は調査者が読むという前提があるので、非依頼型の日記にくらべ本音を出しづらいだろう

ドキュメントを情報源とする際の4つのポイント
 (1)真偽(authenticity)
 (2)信憑性(credibility)
 (3)代表性(representativeness)
 (4)意味(meaning)

(1)真偽(authenticity)
 そのドキュメント自体が本物か偽物かということ
 真偽を判定するポイント
 明らかな誤りを含む
 文体、内容、筆跡などが、ドキュメントの内部で一貫しない
 関連する他のドキュメントとの関係が、首尾一貫してない
 ドキュメントが、「整いすぎている」
 何人かの人の手によって、転写されたドキュメントかもしれない
 同じドキュメントにも、さまざまな版(修正版や第2版など)があることもある
 ドキュメントの管理者の利害が、ドキュメントに影響しているかもしれない
 電子媒体によるドキュメントは改変することが容易なため、改ざんしても証拠が残りにくい。

(2)信憑性(credibility)
 そのドキュメントが本物だとしても、そこに記録されている内容が、信頼できるかどうかということ
 信憑性を判定するポイント
 記録者は、信頼できるかたちで、受けとった情報を転記しているか
 その観察や記録は、どれほど正確か
 一次的ドキュメントか、二次的ドキュメントか、など
 他の情報源(他のドキュメント、インタビュー、参与観察など)をもちいて比較検討する

(3)代表性(representativeness)
 そのドキュメントが、調査対象の現象をどれくらい代表しているかということ
 ドキュメントの記録と保存における選択性の問題
 すべてのことが記録されたり保存されたりするわけではない
 ある種のドキュメントが、故意に破棄されることもある
 『アメリカの外交関係』という文書集では、ある種のドキュメントが系統立てて故意に破棄されている
 権力のある人に有利なことがらは、ドキュメントとして記録・保存されやすい
 情報公開のすばらしさ
 しかし、代表性が満たされていないとしても、過去のことがらについては、手に入るドキュメントから情報を得るほかない。
 現在のことがらについては、ドキュメント以外の方法(インタビューや参与観察など)も可能だが、過去については難しい。

(4)意味(meaning)
 調査対象について、そのドキュメントは何を意味するのか、何を教えてくれるのかということ
 ドキュメントの意味を読解するには「文脈」が重要
 意味=言葉+文脈
 言葉だけでは、真意が理解できない
 「ありがとう」と言っても、笑っているか笑っていないかで、真意が異なる。
 会話では文脈が共有されるので、真意が伝わりやすい。電子メールでは文脈が共有されにくいので、真意が伝わりにくい。
 電子メールにおいて、文脈を補う工夫としての顔文字
 「ありがとう(^^)」「ありがとう(-_-)」
 ドキュメントも文脈が共有されにくいので、ドキュメントが意味する内容を誤解する可能性がある
 ドキュメントの「意味」の解釈における3つのレベル
 (1)意図した意味
 ドキュメントの作者が伝えようと「意図した意味」
 作者は、ドキュメントを作成する際に、当時の社会や政治の文脈を考慮に入れながら、作成の必要性や個人的な思惑などから、ドキュメントのなかに、ある種の意味を込める
 (2)内的な意味(内容としての意味)
 テクストの内部で完結している「内的な意味」(内容としての意味)
 いったんドキュメントが作成されると、ドキュメントと作者の関係は切断され、ドキュメントのテクストは、それ自体が独立した独自の生命を帯びるようになる
 (3)受容された意味
 さまざまな状況のなかで、受け手によって構築され、「受容された意味」
 作者の手を離れ、保存されていたドキュメントは、発掘した人(受け手)の解釈によって、それまでとは別個の意味を帯びることになる
 そのドキュメントの意味は、自動的・受動的に受け手に伝わるようなものではなく、受け手の置かれた社会的・政治的文脈、受け手の思惑などから、受け手が構築するものである。

ドキュメント調査における困難
 ドキュメントが入手できない
 ドキュメントが存在しない
 第2次大戦の爆撃で消失
 ドキュメントの所在がわからない
 公文書館の所蔵目録の不備
 管理者がドキュメントへのアクセスを認めない
 海軍省の秘密保持のため、第3者に公開できない
 社会保障省に、90歳以上の人びとの名前の転記を拒否された
 ドキュメントの入手に費用がかかりすぎる
 ドキュメントの購入価格が高い
 調査地が遠く時間や交通費がかさむ
 入手したドキュメントが役に立たない
 ドキュメント自身が役に立たない
 国勢調査のデータの取り方が、時代とともに変化して、比較できない
 ドキュメントを使えるようにするのに手間がかかる
 手書きのドキュメントの判読
 暗号を使ったドキュメントの解読
 入手したドキュメントを公開できない
 関係者の思い出を傷つける
 一般の人びとの抗議を引き起こす


参考文献
 T・メイ(中野正大監訳), 2005, 『社会調査の考え方──論点と方法』 世界思想社.「第8章 ドキュメント調査──発掘と証拠」



社会調査の考え方―論点と方法
世界思想社
ティム メイ

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