質的データの収集1(イントロダクション)──地域社会学II2011年12月7日

これまで地域社会学IIの授業では、具体的に6つの調査研究の事例を紹介してきました。12月7日からは後半に入り、そのような調査研究がどのように行われているのか、質的調査法という研究の舞台裏を見ていこうと考えています。後半初回のこの日は、そのイントロダクションとして、まず5段階の調査プロセスを確認しました。その後、ガンズ『都市の村人たち』に収録されている「付録 本研究で用いられた方法について」の部分を紹介して、調査研究が具体的にどのように進められているのかを見ていきました。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
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講義ノートテキスト版
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20111207地域社会学II(質的データの収集1イントロダクション)

質的データの収集1(イントロダクション)

調査研究のプロセス
 第1段階:調査企画
 調査のねらいや目的、仮説などを明確にする。
 日常の素朴な疑問を、いろいろな情報を集めながら、より明確な「調査の問い」(=仮説)へ練り上げていく段階
 人と議論する
 インターネットで検索する
 本を読む
 過去の調査を調べる、など
 第2段階:調査設計
 調査の目的を達成するために、データを収集する具体的な段取りを考える。
 「具体的に」とは、「だれが、だれに、いつ、どこで、どんなデータを、どのように収集するのか」ということ
 そして、そのように集めたデータをどのように分析するのか、見通しを立てること
 第3段階:データ収集
 実際にデータを集める。実査。
 データ収集の手法
 公式統計
 ソーシャル・サーベイ
 インタビュー
 参与観察
 ドキュメント調査
 第4段階:データ分析
 データを整理・比較・分析することによって、調査対象者たちが送っている社会生活のパターン(規則性)を見いだす=理論を生みだす
 量的分析
 データを数字に置き換えて分析する
 質的分析
 数字に置き換えられないデータ(文章、図絵、音など)を分析する
 第5段階:調査結果の公表
 新聞・雑誌記事、調査報告書、論文、著書など
 研究会、学会大会、講演会など
 インターネット
 調査は試行錯誤の連続
 上記の5段階は、なかなか順番どおりには進まない
 量的調査にくらべ質的調査のほうが順番どおりにならない傾向が強い
 質的調査に試行錯誤はつきものだが、ポジティブに考えれば、「状況に合わせて融通が利く」「柔軟性が高い」とも言える


質的調査の実際──ガンズ『都市の村人たち』を例に
調査の概要
 参与観察法
 調査時期:1957年10月から1958年5月(8ヶ月)
 調査地:アメリカのボストン中心部に位置する「ウェストエンド」地区
 スラムと呼ばれる低所得者層が多く住む地域
 調査時期:1957年10月から1958年5月(8ヶ月)
 ガンズが30歳の頃
 調査対象:ウェストエンド地区に暮らす「イタリア系アメリカ人」

調査の進め方(ガンズ 2006: 313-30)
 フィールドへの参入──案ずるより産むが易し
 「ウェストエンド社会へ参入する問題は、特に悩ましかった」(ガンズ 2006: 316)
 社会調査になじみのないウェストエンド住民にどのように受け入れもらうか。
 自分のような調査者に対して、ウェストエンド住民は疑いの目を向けないだろうか。
 「結局、この問題はほとんど自然に解決した。ホワイトの身に起こった幸運な事件と同じようなことが今回も起こったのである。妻と私は、隣人のひとりに歓迎され、隣人たちと仲良くなった。その結果、かれらは晩の集まりの多くに私たちを招待し、他の隣人、親類、友人たちに紹介してくれた」(ガンズ 2006: 316)
 「ホワイト」とは、『ストリート・コーナー・ソサエティ』の著者ウィリアム・F・ホワイトのことである。ウェストエンド地区の隣のノースエンド地区でイタリア移民街の参与観察を行っている。ホワイトの場合は、ドック(仮名)という青年がインフォーマントになってくれて、ノースエンドの街を案内してくれた。
 「時がたつにつれて、私は集会やインフォーマルな面接で出会った他のウェストエンド住民とも、ほとんど同じような方法で仲良くなった。かれらもまた、親類や友人を紹介してくれた」(ガンズ 2006: 316)
 ガンズが仲間集団社会と表現したイタリア移民たちの社交性の高さが、ガンズがフィールへ参集することを容易にしたかもしれない。
 知り合いが知り合いを紹介してくれたり、知り合いの知り合いが知り合いを紹介してくれて、顔なじみの人が少しずつ増えていった。
 フィールドでの自己提示の仕方──ウェストエンド地区の近年の歴史を調べる研究者
 「結局、私は近隣地区の研究をしていること、とくにその機関と組織の研究をしていることを人びとに告げた。私はまた、かれらが歴史「研究」にはなじみがあることにすぐさま気がついたので、それからは私の研究はこの地域の最近の歴史であると説明することにした」(ガンズ 2006: 317-8)
 社会調査の倫理上、必ず、調査対象者に自分が研究者(調査者)であることを明かした上で、調査の目的・手法・公表方法などを説明する必要がある
 しかし、参与観察の場合、詳しい説明は、場の円滑なやりとりを阻害したりすることがあるので、調査対象者が受け入れやすい簡略な説明になることもありうる。
 主なアプローチ法(ガンズ 2006: 314)
 (1)ウェストエンドの施設の利用
 地区の施設を利用しながら、住民の行動を観察
 (2)会合、集会、公共の場所への出席
 傍観者として参加して観察
 (3)隣人や友人とのインフォーマルなおしゃべり
 ガンズと妻は住民たちと仲良くなり、おしゃべりや社交活動に加わる
 (4)コミュニティの職員とのフォーマル、インフォーマルな面接
 セツルメントなどの職員から話を聴く
 (5)インフォーマントの利用
 インフォーマント(情報提供者)になってくれた何人から情報を得る
 (6)観察
 常に目を見開き、耳をそばだてて、学ぼうとした。
 上記(1)~(3) では、意識の上では「調査者」であっても、表面上は調査者ではなく「参与者」としてふるまう。
 上記(4)~(5)では、意識の上でも表面上でも、「調査者」としてふるまうことができる。
 上記(6)は、常に「調査者」である意識を忘れなかったということ
 基本的な調査の進め方(ガンズ 2006: 314)
 上記の6つのアプローチ法を使って積み上げたデータは、フィールドノーツに書きつけ、日誌にした。
 後に、調査報告書を書くために、フィールドノーツのコーディングをおこなった。
 データの収集──フィールドノーツの執筆
 「データのじっさいの分析はきわめて簡単である。私は自分の観察や面接が完了した直後に、そこで思いついた一般化とともに、できるだけ早く記録し、それをフィールド日誌とした」(ガンズ 2006: 321)
 フィールでノーツに書くべきこと=事実関係+解釈やアイデア
 事実関係
 見たこと、聞いたことなどを、5W1Hを意識しながら、ありのまま記録する
 5W1H=Why, What, Who, Where, When, How
 時間が経っても観察した場面をリアルに思い出せるように、メモではなくきちんとした文章で書く。
 解釈やアイデア
 フィールドノーツは記録すること自体が目的ではなく、社会学的な洞察を行って調査報告書を作成するのが最終的な目的である。フィールドノーツを書く過程で思いついた解釈やアイデアは、調査報告書を書く際に参考になる。
 要するに、思いついたことを何でも書いておく。とりあえず記録しておいて、後で情報を整理するという考え方で良い。
 データの分析──インデックスカードによるフィールドノーツのコーディング作業
 「この研究を書くことになってから、私はその日誌を何回も読み直し、それから一般化とそれを支持する観察結果をインデックスカードに書き付けた。結果的に、私は2千枚以上のカードを手にしていた」(ガンズ 2006: 321)
 「つぎに私は、それらのカードをさまざまな見出しによって分類した」(ガンズ 2006: 321)
 「カードの内容をさらに要約し、ノートのページに、主要な一般化とその他の考えを書き並べた」(ガンズ 2006: 322)
 「最初の報告書は、1959年に、これらのノートをもとにして書いた」(ガンズ 2006: 322)
 「私は、本書を書くまえに、日記を読み直し、さらにノートをつけた。その結果、最初の報告書の諸章を拡張し、書き直すことになった。そして、新しい結論部分の章と再開発についてのエピローグを付け加えた」(ガンズ 2006: 322)


参考文献
 ハーバート・J・ガンズ, 2006, 『都市の村人たち──イタリア系アメリカ人の階級文化と都市再開発』(松本康訳)ハーベスト社





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