ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別』1996年①──地域社会学II2011年11月9日

今週の地域社会学IIで紹介した研究は、ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別──仕事がなくなるとき』(1996年)です。アメリカのシカゴの都心部にある貧困地区が舞台です。先週の『タリーズコーナー』に引き続き、貧しい黒人たちの生活が研究内容の大きな部分を占めています。

1950年代には活気のあふれていたシカゴの都心部も、ウィルソンらが調査をしていた1980年代には、殺人などの犯罪や麻薬の売買が横行する危険な地区に変貌を遂げます。その大きな要因は、When Work Disappearsという原題のとおり、大都市中心部に仕事がなくなったことでした。サービス経済化やグローバル化といったアメリカ全体の産業構造の変化にともなって、かつて都心部に立地していた製造業が消えます。それとともに、そうした工場で非熟練労働に就いていた黒人たちが大量に失業したのです。

こうした社会環境のなかでは、「やればできる」という自己効力感を得ることができません。頑張っても頑張らなくても、「まともな仕事に就けない」という結果は同じだからです。せっかく就いた仕事も、労働条件は良くありません。自己効力感のない都心部の黒人たちは、そうした仕事に耐えられず、無断欠勤したり、雇い主とトラブルとなったりします。当然、雇い主のほうも、「あの地区の黒人は、二度と雇うまい」となります。そのため、よけいに黒人たちは仕事から排除されてしまうのです。

都心部の黒人が貧困から抜け出せないのは、それまで、白人による人種差別の結果と見られたり、黒人特有の文化の結果と見られたりしてきました。それに対して、ウィルソンは、産業構造の変化による「仕事の消失」に、その原因を求めました。人種差別や黒人文化のように見えた現象も、実は、仕事の消失によって生み出された2次的なものにすぎなかったのです。

こうしたことがらを、10年にわたる大規模かつ総合的な社会調査によって説得的に解き明かしたのが『アメリカ大都市の貧困と差別』です。ウィルソンが60歳のときに出版された本書は、研究者として脂ののった彼がもてる力をすべてつぎ込んだ渾身の作品と言えるでしょう。


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講義ノートテキスト版
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20111109地域社会学II(ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別』)

ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別』1996年

原題
 Wilson, William Julius, 1996, When Work Disappears: The World of the New Urban Poor, New York: Alfred A. Knopf.


調査地・時期・対象・手法
 調査地:アメリカのシカゴの都心部
 時期:1986年から1993年
 対象:貧困状態にある人びと、特に黒人
 手法:サーベイ調査、インタビュー調査、参与観察などを組み合わせた総合的な地域調査


著者のウィルソンについて
 1936年生まれ。アフリカ系アメリカ人
 1966年、ワシントン州立大学で博士号取得
 1972年、シカゴ大学の教員になる
 1996年、ハーバード大学教授、『アメリカ大都市の貧困と差別』出版(60歳)
 元アメリカ社会学会会長。数多くの受賞歴。政府などの各種委員会の委員。
 著作
 1973年、『権力・人種差別・特権──理論的・社会史的パースペクティブにおける人種関係』(Power, Racism and Privilege: Race Relations in Theoretical and Sociohistorical Perspectives)
 1980年、『人種の重要性の衰退──黒人と変わりつつあるアメリカの諸制度』(The Declining Significance of Race: Blacks and Changing American Institutions, 2nd ed.)
 1987年、『アメリカのアンダークラス──本当に不利な立場に置かれた人々』(The Truly Disadvantaged: The Inner City, The Underclass, and Public Policy)
 1996年、『アメリカ大都市の貧困と差別──仕事がなくなるとき』(When Work Disappears: The World of the New Urban Poor)
 1999年、『人種的な分断に橋をわたす──不平等と連立政治の高まり』(The Bridge Over The Racial Divide: Rising Inequality and Coalition Politics)
 2010年、『人種だけではない──インナーシティにおいて黒人であり貧困であること』(More than Just Race: Being Black and Poor in the Inner City)


『アメリカ大都市の貧困と差別』の目次
 第1部 新たな都会の貧困
 第1章 制度化されたゲットーから職なし状態のゲットーへ
 第2章 社会の変化と無防備な居住区
 第3章 ゲットー関連行動と機会の構造
 第4章 消えゆく都市中心部の家族
 第5章 人種の意味と意義──雇用者と都市中心部の労働者
 第2部 社会政策への異議
 第6章 貧困と福祉に関するアメリカ的信条体系
 第7章 人種的反目と人種に基づいた社会政策
 第8章 より広範なビジョン──全国民を視野に入れた社会政策の選択肢


『アメリカ大都市の貧困と差別』の内容紹介
ウィルソンの基本的な主張(平川 2010)
 製造業から情報・サービス業への産業構造の変化と経済のグローバル化といったアメリカ国民全体に関わる構造転換の影響がもっとも先鋭的に現れたのが、都市中心部のアンダークラスである。
 現状認識──大都市中心部における貧困と問題の多発
 大都市中心部の黒人居住区に住む黒人貧困層では、犯罪、未婚女性の婚外子出産、女性世帯主家族、福祉依存などさまざまな問題が生じている
 住民たちは地域に愛着をもっていない
 マクロな社会構造的な要因──製造業のマニュアル職の減少
 人種差別の影響はかなり弱まっている
 1970年代以降顕著になった黒人内部での階層の二極化
 近年のアメリカ社会における経済変動の影響が大きい
 サービス経済化やグローバル経済化によって、従来黒人低所得層が就いていた製造業(工場)のマニュアル職が減少した
 ミクロな社会心理学的な要因──自己効力感のなさ
 黒人貧困層に見られる「自己効力感」なさ
 自己効力感:特定の状況において、特定の目標を達成する能力が自分にはあると確信できること
 「生まれた時から貧しくて、その後もずっと、失業・無業状態が深刻な環境で暮らさなくてはいけない場合、何事かを達成しようという気力自体がなくなってしまう」(Wilson 1996: 77)
 社会的な孤立によって、社会で成功しているモデルが身近にない
 アメリカ社会の主流をなす人びとや制度との日常的な関わりないという「社会的孤立」によって、態度と行動が安定した仕事を長く続けるのに向かないものになる。
 「無気力のゲットー」
 こうした自己効力感のなさが貧困地区全体に蔓延する
 ただし、こうした自己効力感のなさは、社会構造的要因がもたらした深刻な失業・無業状態に起因している
 「貧困の文化」のような自動的に存続していく文化の影響ではない
 黒人の自己効力感のなさが、雇用者が黒人を仕事から排除することを正当化する(一種の悪循環。予言の自己成就)
 伝統的なブルーカラー職種の喪失 → 都心部の黒人男性の高い職なし、低賃金、高転職率、仕事は女性向けのサービス部門の職種に限られる → 黒人男性の自分の雇用に対する不安と不満(自己効力感の低下) → 黒人男性の苛立ち → 黒人男性と雇用者の衝突 → 不安定な職歴と相まって黒人男性は望ましくない労働者という雇用者の評価を生み出す → インナーシティにおける黒人男性の雇用機会をますます減少させる (ウィルソン 1999: 218)
 黒人女性の社会的孤立 → ホワイトカラー職への移動を妨げる労働文化への参入 (ウィルソン 1999: 219)
 問題解決に向けた提言──特定の「人種」に限定しない教育と職業訓練
 黒人を特別に重視する社会政策であるアファーマティブ・アクション・プログラムを批判
 特定の「人種」を優遇する社会政策は、他の人びとの反発を招き、失敗しやすい
 黒人貧困層だけでなく、白人貧困層などのマイノリティにも恩恵がおよぶ「十分な職業訓練と教育を保障することのできるプログラム」が必要である。

現状認識──大都市中心部における貧困と問題の多発
 都市中心部における仕事の消失
 「多くの都市中心部のゲットーに住む成人の大半がほぼ通年にわたって仕事をしていない状態にあるのは、20世紀になって今が初めてである」(ウィルソン 1999: 13)
 シカゴの都市中心部の衰退
 「たとえばシカゴのサウスサイドにあるウッドローン居住区には1950年代には800を超える商店および工場があった。今日、残っているのは約100のみと推定され、それらの多くは「従業員が一人ないし二人に過ぎない小さな飲食店や床屋、中古品店」にとって代わられている」(ウィルソン 1999: 32)
 「かつては活気あふれた街路──住民たちはそれほど昔ではない、ラッシュアワーに混雑がひどかったので電車の駅まで肘で人をかき分けねばならなかった時代を覚えている──今やその外観は空虚で爆撃を受けた戦場のようである。商店街は黒焦げの店の長いトンネルや、割れたガラスが散らばる空き地、電車の高架橋の陰で朽ちるにまかせた荒れ果てた建物に変わり果ててしまった」(ウィルソン 1999: 32)
 「私は本当にぎょっとしました。私が幼いころ63番通りを歩けばほしいものは何でもそこにありました。でも今こうして大人になって自分の子どもを連れて戻ってみると、そのような店はすっかり消えてしまいました……そして……家は、みんな引っ越してしまい、いたるところに空き地があります」(ウィルソン 1999: 32-3)
 都心部の住民は、自らの居住区を住むのに好ましい場所とは認識していない。望んで住んでいるというよりは、「ここしか住むところがない」という半ば強制的なもの。
 「私たちのUPFLSの全般的調査における黒人の回答者たちは居住の場所として自分たちの居住区を評価するよう求められたとき、彼らの地域が住むのによい場所ないしたいへん良い場所であると答えたものは3分の1にすぎず、自分たちの居住区が住むのに望ましい場所と感じている者は国勢調査区分域のゲットー貧困地域の回答者の18%にすぎなかった」(ウィルソン 1999: 33)
 「いやなんです、私はこの居住区が好きではないんですよ。多くの友だちが殺されたりしました。この居住区で多くの殺人を見ましたよ。ひどいもんだ」(ウィルソン 1999: 35)
 「ゲットー貧困地域の回答者では自分自身の居住区に住むことを希望したものはわずか23%にすぎなかった」(ウィルソン 1999: 40)
 「ここは私が引越して来たときに住むことができた唯一の場所だったのです」(ウィルソン 1999: 40)
 「私がここに引っ越して来た理由は家賃です。とても安かったんです。それにガス料金や電気代も心配する必要がなかったですし。いえ、こんな所に住みたくはないですよ」(ウィルソン 1999: 41)
 こうして都心部に貧困者が集中する
 「1959年には、合衆国の貧困者のうち大都市圏の中心都市に住むものはわずか3分の1にすぎなかった。1991年までにこの国の貧困者の半数近くが中心都市に住むようになった」(ウィルソン 1999: 41)
 貧困の集中がもっとも急速に起こったのは黒人居住区
 「貧困の集中化が最も急速に起こった地域の多くがアフリカ系アメリカ人の居住区だった」(ウィルソン 1999: 42)
 「ゲットーに居住するアフリカ系アメリカ人の数は1980年から1990年までに3分の1以上増加し、600万人近くに達した。これらの増加分の大半は貧困者である。ゲットー地域に居住する大都市圏の黒人人口は、3分の1あまり(37%)から半分近く(45%)へ急増した」(ウィルソン 1999: 44)

今日の都心部貧困地区の問題の多くは仕事がないことに起因する
 ゲットーの諸問題は、単なる貧困の結果ではなく、極度の持続的な職なし状態によって生じている。
 仕事がない → 地域の社会組織の崩壊 → 犯罪・家庭崩壊・福祉依存などの問題
 「社会解体論」の図式
 「シカゴの貧しい居住区の住民たちによって報告された諸問題はただ単に貧困の結果として起こったものではない。極度の持続的な職なし状態の出現と、居住区や家族および個人に対するその阻害的影響をもたらしうる、はるかに破壊的な何かが起こってきたのである」(ウィルソン 1999: 48)
 「職なし率が高い居住区には集中した貧困という特徴も見られるが、居住区の貧困率が高くても、その住民が働いてさえいれば社会組織上の諸問題は誘発されにくい」(ウィルソン 1999: 56)
 社会組織とは、ある居住区の住民が社会的コントロールを維持し、共通の目標を認識しうる範囲のことである
 「私が社会組織と言う場合、ある居住区の住民が効果的な社会統制を維持し、彼らの共通の目標を認識しうる範囲について言及している」(ウィルソン 1999: 53)
 「居住区の社会組織には次の三つの主要な特徴がある。(1)社会的ネットワークの広がりや強さ、そして相互依存、(2)居住区の諸問題に取り組む際に住民が行使する集団的な監督の範囲と彼らが引き受ける責任の程度、(3)自発的・公的な諸組織への住民参加の割合」(ウィルソン 1999: 53)
 高レベルの職なし状態は、犯罪、暴力、薬物取引、家庭崩壊を誘発し、社会組織を損なう
 「高いレベルの職なし状態に侵されている居住区で経験されやすいのは、低レベルの社会組織である」(ウィルソン 1999: 53)
 「多くの研究で明らかにされたように、都市中心部の住民の間に適切な雇用の機会が減少すると、麻薬販売への誘因が増加してきた」(ウィルソン 1999: 53)
 「クラック・コカイン取引に関わる暴力的な人々は居住区の社会組織に強力な衝撃を与える。高率の職なし状態と不十分な経済的機会、それに高い居住流動性にさいなまれる居住区では、不安定な麻薬市場とそれに関連した暴力犯罪を制御できない。非公式の社会統制が弱体化するにつれ、行動を規制する社会過程も変化する」(ウィルソン 1999: 54)

マクロな社会構造的な要因──製造業のマニュアル職の減少
 近年のアメリカ経済において、ハイテク産業やサービス業は拡大したが、ブルーカラー職をもたらす工場、運輸業、建設業は低成長のままだった
 「アメリカ経済がハイテク産業やサービス業において急速な拡大を経験した一方、伝統的に男性が占めるブルーカラー職をもたらす工場や、運輸業、それに建設業における成長は、労働年齢人口の増加に追いつかなかった」(ウィルソン 1999: 60)
 「北部の中心都市では従業員の平均的学歴が低い産業では一貫して雇用が減少し、労働者が高いレベルの教育を有する産業では雇用増が見られること、である」(ウィルソン 1999: 68)
 アメリカにおける大量生産システムの衰退によって、低熟練の職が女性の雇用に有利なサービス部門に限られるようになったことが、これらの変化をもたらした
 大量生産システムの衰退 → 低熟練で就ける職がサービス部門に限定 → 女性の雇用は比較的安定しているのに対して男性には仕事がない
 女性は、低熟練のサービス業に雇用されやすい
 「これらの変化は合衆国における大量生産システムの衰退に関係している」(ウィルソン 1999: 61)
 「このシステムにおいては正規の教育をあまり受けていない労働者が就くことが可能なブルーカラー職が多くあった。今日、学歴と経験が乏しい労働者のための新たな職のほとんどはサービス部門であり、そこでは比較的女性が多く雇われる」(ウィルソン 1999: 61)
 産業再編は、ゲットーの黒人男性が父親と同じブルーカラーの職に就くことを不可能にした
 「シカゴにおける『都市の貧困および家庭生活に関する研究』(UPFLS)のデータが示すのは、学校通学者以外の都市中心部の黒人男性がいくら自分の父親が雇用されていた産業におけるブルーカラーの職を獲得しようと努めても、その努力は産業再建によって挫かれた、ということである」(ウィルソン 1999: 65-66)
 1980年代、大学卒業者の相対的減少と貧しい移民の流入は、低熟練労働者と高学歴藤堂者の賃金格差を拡大した
 「不利な立場にある労働者の相対的な経済的地位の低下をもたらしてきた要因は経済再建といった需要サイドの要因にのみ帰せられはしない。1980年代に拡大した賃金格差は次に挙げる供給サイドの2要因が及ぼした作用でもある──それは大学卒業者の供給の相対的減少と貧しい移民の流入である」(ウィルソン 1999: 70)
 産業再編によるマイナスの影響をもっとも受けたのは、都心部に住む黒人である
 「都市中心部の雇用に対する産業再建のインパクトがはっきりと表れたのは都市の黒人に対してだった」(ウィルソン 1999: 72)
 「実際、私たちの研究においてメキシコ系その他の民族集団と比べて、黒人は男女とも友人が職場の閉鎖によって職を失ったと答えることが多かった」(ウィルソン 1999: 72-3)
 雇用の郊外化は、都心部の職なし問題を悪化させた
 「雇用の郊外化が産業の再建と同時に進行し、都市中心部の職なし問題を悪化させ、職への接近を制限してきた」(ウィルソン 1999: 75)
 「過去20年間にわたって、シカゴ大都市圏で新たに生み出された職の60%が北西部の郊外地区であるクック郡およびデュページ郡で創出されたものだった。これらの地域でアフリカ系アメリカ人は人口のわずか2%しか構成していない」(ウィルソン 1999: 75)
 都心部にますます貧困が集中した理由は、(1)職がない状態、(2)非貧困黒人家庭の外への移動、(3)非貧困白人およびその他の黒人以外の家庭の脱出、(4)これらの地区に住む間に貧困になった住民の数の増加、(5)それらの地区への貧しい人びとの移動(内への移動)、(6)コミュニティの高齢化、である
 「『真に不利な人々』(引用者注:翻訳は『アメリカのアンダークラス』というタイトル)の中で、職なし状態の影響に加えて、都市中心部の居住区は次の諸点を含む別の理由によってますます貧困の集中を経験してきた、と私は主張している。(1) 非貧困黒人家庭の外への移動、(2)非貧困白人およびその他の黒人以外の家庭の脱出、(3)これらの地区に住む間に貧困になった住民の数の増加、である。集中化する貧困の増大に関する付加的な研究によって、もう一つの要因が示唆される。それは貧しい人々の居住区への移動(内への移動)である。さらにもう一つ別の要因も負荷されるべきである。それはコミュニティの年齢構成の変化である」(ウィルソン 1999: 82)
 1990年、ゲットー住民の8分の7(87.5%)は、人種的マイノリティ集団に属する。その大半はアフリカ系アメリカ人だが、ヒスパニック系も相当数含まれる
 「1990年に大都市圏のゲットーに居住する人の8人に7人はマイノリティ集団に属し、大半がアフリカ系アメリカ人だった。しかしこの数字には相当数のヒスパニック系も含まれている」(ウィルソン 1999: 93)
 都心部のアフリカ系アメリカ人とメキシコ系移民を比較すると、アフリカ系アメリカ人の居住区のほうが、貧困の度合いが集中し、職のない水準が高く、社会組織が低い
 「このように、都市中心部のアフリカ系アメリカ人が貧困の集中が高いか極めて高い地域に目立つのに対して、都市中心部のメキシコ系移民は貧困の度合いが緩やかな地区に住んでいる可能性がより高い。より重要なのは、都市中心部のメキシコ系移民の居住区は、同等のアフリカ系アメリカ人の居住区に比べて職なし水準は低く、社会組織は高いという特徴をもっている」(ウィルソン 1999: 94)
 黒人貧困地域の住民は、ある種の社会的制約に直面している。こうした社会的制約は、ゲットーに関連した行動と態度を生み出す。これらの行動と態度は、ゲットーの住民の経済的周縁化を助長する
 「合法的な雇用が少ししかなく、職に関する情報ネットワークが不十分で、学校が貧弱な居住区では結果的に仕事の消失が起こる。すなわち、職が見つかりにくくなれば、また友人や隣人が職を見つけるのを助ける機会があってもまれにしかなくなれば、さらに若者たちに労働力への最終的な参入を準備させるが国が崩壊ないしその質の低下が起これば、多くの人々は公的な経済の中で働こうという発想はついには失う。彼らはもはや働くことが自分の生活にとって規則的で規範をもたらす力となることを期待しなくなる。(中略)このような環境によって、その住民は非合法的な収入源に依存するようになり、それによって正規の労働市場への結合感もさらに弱まるだろう」(ウィルソン 1999: 95)
 「他方、都市中心部で公的な労働市場との関係を維持する人──すなわち、たいていの場合は低賃金の職種で雇用される人──の多くは、実際、困難にもかかわらず働いている」(ウィルソン 1999: 95)
 ゲットーの住民の多くは、職なし率の高い貧困の陥った居住区に住むことによる社会的・文化的影響をはっきり理解している。社会的に成功したモデルがないので、子どもが自分の将来に希望がもてない。犯罪の差異的接触理論。
 「基本的には、もし育った居住区で見るものといえば否定的なものばかりなら、肯定的なものは何も見ないのだから、否定的になるんじゃないですか」(ウィルソン 1999: 98)
 「このあたりの子どもが何を目にするかを考えればね。彼らが目にするのは麻薬中毒なんですよ。ほかに何を見るっていうんですか。そう、彼らが見るのは殺し屋や、輪姦集団なんですよ。そんな子どもたちが本当に誰を手本にできるんですか」(ウィルソン 1999: 99)
 「彼らは毎朝早起きをして仕事や学校へ行く人を見ることはありません」(ウィルソン 1999: 100)
 「子どもがもっと学校へ行って教育を受ける気になっている環境の中にいなくてはだめですよ、中退して麻薬を売るんじゃなくてね」(ウィルソン 1999: 101)
 ゲットーの文化は、ゲットーに関連する要素もあるが、主流社会の要素も優勢である
 「圧倒的な貧困にもかかわらず、都市中心部のゲットー居住区の住民は個人のイニシアティブに関する基本的なアメリカ的価値観を損なうよりもむしろ補強する発言をしている」(ウィルソン 1999: 114)
 「ほとんどすべての黒人の回答者が単純な勤労は成功するのに大変重要またはある程度重要であると感じていた」(ウィルソン 1999: 114)
 「都市中心部のゲットーにはクリフォードのような人、困難にめげず、多大な個人的犠牲を払って主流文化の規範と忍耐の観念にみあった生き方をするべく苦闘する人々が多くいる」(ウィルソン 1999: 117)
 「彼は男らしくて、一生懸命働いていい気分で家に帰ってきたいのです」(ウィルソン 1999: 117)

ミクロな社会心理学的な要因──自己効力感のなさ
 不安定な仕事と低賃金は、自己効力感を低下させる (ウィルソン 1999: 126)
 「不安定な仕事と低賃金によって引き起こされる経済的圧力の増大は感情的な落ち込みをもたらし、自分の子どもと子どもの環境に行使しうると自らが確信する影響力に関して親たちが抱く自己効力感を低下させる傾向がある」(ウィルソン 1999: 126)
 「職なし状態は新たな貧困居住区の成人住民の大半を苦しめているので、自己効力感についての問題は、個人の能力に疑問を抱くことによってよりも、環境的制約を知覚することから派生しやすい、と私は考える」(ウィルソン 1999: 127)
 「貧困の中で育ち、職なしやその他の問題にさいなまれる環境で生活すると動機付けを維持するのが困難になる」(ウィルソン 1999: 128)
 「がっかりさせられると、まあ──どれほどがんばったかはともかく、がっかりさせられると、中途半端な状態まで引き戻されるんです。また自信を高めなくてはいけませんし、またエンジンをかけなくてはいけませんからね」(ウィルソン 1999: 128)
 「ときどき試してみては、言うんです、『試すのに疲れた』って」(ウィルソン 1999: 129)
 「彼らは報われない職探しのプロセスにいらだっている」(ウィルソン 1999: 129)
 都心部に暮らす黒人家庭は、他の民族集団に比べて、両親がそろっていることが少ない
 「シカゴの都市中心部の居住区で子どもと一緒に暮らす黒人家庭のうち、夫と妻がそろっているのは今日ではわずかに4分の1にすぎず、これに対して都市中心部のメキシコ系家族では4分の3、白人家庭では半数以上、プエルトリコ系家族では半数近くである」(ウィルソン 1999: 141)
 「貧困率が40%以上の国勢調査区分域では、子どもと暮らす黒人家庭で夫婦がそろっているのはたったの16.5%にすぎない」(ウィルソン 1999: 141)
 片親家庭で暮らす子どもたちは、恵まれない環境で育つ
 「合衆国内の継続的な貧困家庭(10年間に8年以上にわたって貧困ライン未満の収入しかない家庭と定義される)は女性が世帯主である傾向があり、非老齢者の黒人女性が世帯主である家庭はすべて継続的な貧困家庭のうちの31%を占める」(ウィルソン 1999: 146)
 「母親だけの家庭出身の子どもは学校中退者になり、若年の成人期の賃金は少なく、生活保護受給者になる可能性が高い」(ウィルソン 1999: 147)
 「黒人の片親世帯で育った娘は、夫婦がそろった世帯で育った娘よりも、自分自身が片親世帯を確立する可能性が高い」(ウィルソン 1999: 147)

仕事からの排除
 都心部の黒人の母親は、社会的に孤立して育児をすることが多い
 「他のエスニック集団に比べて、都市中心部の黒人の母親たちは自分以外に大人が存在しない世帯に住み、したがってより多くの子育ての困難に直面する可能性が高い」(ウィルソン 1999: 148)
 「幼い子どもを持つメキシコ系の女性は同様の黒人女性よりも友人や親戚に定期的に保育してもらえる確率が目立って高い」(ウィルソン 1999: 148-9)
 社会的に孤立した育児は、都心部の黒人の母親が仕事に就くことを妨げる
 「大人が一人しかいない世帯で幼い子どもを育てる割合が黒人の母親において高いことは、労働力との結合性の問題にも影響を与える。もしシカゴの都市中心部に住む独身の母親が共住世帯──すなわち、2人以上の大人を含む世帯──に住み、非公式の子育ての支援を受ければ、労働力に参入する機会はかなり高まる」(ウィルソン 1999: 149)
 雇用者は、他の民族集団よりも、黒人が労働の資質と倫理の面で劣っていると判断している
 「多くの雇用者が都市中心部の労働者──特に若い黒人男性──を、教育がなく、不安定で、非協力的で、不誠実だと見なしている」(ウィルソン 1999: 171)
 「黒人はヒスパニック系みたいに──あるいはイタリア系、あるいは誰と比べても──勤勉じゃないんです」(ウィルソン 1999: 173)
 雇用者が黒人の労働適性を否定的に見なす理由には、都心部における文化的・家庭的影響への懸念がある
 「また別の雇用者は主張した。最も貧しい居住区の黒人は『文化的に働く準備ができていない』と」(ウィルソン 1999: 176)
 「それは……黒人の子どもたちが持たずに育つ価値観のせい、つまり価値観の欠如のせいだと思います……なんで職場に毎日来なくてはいけないのかとか、そもそもなぜ働かなくてはいけないのか、彼らには全然分かってはいません。彼らはある方式の中にいるのです……その中で多くの人が働いていないのを彼らは目にしています」(ウィルソン 1999: 177)
 「雇用者の間で最も広く信じられているのは、都市中心部の社会的混乱は黒人たちが住む環境の相関的要素である、ということである」(ウィルソン 1999: 177)
 「雇用者の中には都市中心部の特定の地区は避けるべきだと指摘する人もいた」(ウィルソン 1999: 178)
 雇用者が都心部の労働者を雇いたくない場合に、雇用へのアクセスを制限する方法は、(1)面接試験をもちいる、(2)地域を限定して求人の広告を新聞に載せる、(3)広告せずに従業員に紹介してもらう、(4)求人情報を知らせる学校を限定する、(5)福祉プログラムからの採用を避ける、などである
 「労働経験が乏しく、白人の中産階級的世界となじみが薄い都市中心部の黒人の求職者は、典型的な採用時の面接試験にも苦労する可能性が高い」(ウィルソン 1999: 202)
 「技能試験においては、典型的な面接試験でなされる主観的な評価よりも偏見が少ない」(ウィルソン 1999: 202)
 「もし雇用者が採用活動を特定の居住区や学校に限定し、エスニック系新聞もしくは居住区の新聞に限定的ないしもっぱらそれらに募集広告を掲載すれば、都市中心部の住民はしばしば無視される」(ウィルソン 1999: 203)
 「新聞に広告を掲載していた市内の雇用者の約3分の2が、主要新聞の代わりに、ないしそれに加えて、エスニック系新聞や、居住区新聞、あるいは郊外系新聞に広告を掲載していた」(ウィルソン 1999: 203)
 「求職者予備軍を選抜する一つの効果的な方法は、募集広告をシカゴの各新聞に掲載するのを避けることである。シカゴ市内にある会社の雇用者の40%以上が彼らの初任レベルの職の募集広告を新聞に掲載していない。また広告を地元紙に掲載していた雇用者の多くにしても、そうするのはたいてい非公式の従業員紹介ネットワークで応募者が十分に集まらなかったことが判明した後だった」(ウィルソン 1999: 203)
 「雇用者による選抜の一つの方法は学校の立地と質を絞り込むことである。かなりの数の雇用者がシカゴの公立学校の教育について言及した。それは圧倒的に黒人が占め、否定的なシグナルとなってしまっており、それゆえ市内公立学校出身の求職者の多くが対象からはずされ、代わりにカトリック学校、あるいは郊外の学校出身者に代えられる」(ウィルソン 1999: 204)
 「福祉プログラムや集の雇用サービス・プログラムからの採用も拒んでいる。UPFLSの雇用者調査によれば、市内にある会社の雇用者で福祉事務所から採用しているのは16%にすぎず、州の雇用期間から採用している雇用者は3分の1にすぎない」(ウィルソン 1999: 205)
 「市内の雇用者のうちで都市中心部の居住区の雇用者は選抜的採用への依存度が最も高かった。彼らは地元紙にあまり広告を掲載せず、学校を通じて採用することも少なく、もっぱら非公式な雇用ネットワークに依存していた」(ウィルソン 1999: 206)
 「市内の多くの雇用者によって実施される選抜的採用によって結果的に多くの都市中心部の黒人がシカゴにおける職からシステマティックに排除されている。(中略)このような刊行は資質の高い労働者を採用するために必要であると雇用者は説明するが、実際には巧妙に都市中心部の黒人を採用応募者予備軍から排除することが意図されている」(ウィルソン 1999: 207)
 貧しい国からの移民は、悪い労働環境に寛容なため、より労働倫理を示す
 「『移民、とりわけ第三世界の移民は』しばしば『厳しい条件と低賃金で、昇進の機会が少なく、アメリカ生まれの労働者を思いとどまらせるような、その他の悪条件により寛容であり、それゆえその他の労働者よりよい「労働倫理」を示す』であろう」(ウィルソン 1999: 213)
 「民族誌的サンプルにおける黒人とメキシコ系の人々との相違が鮮明なのは私たちのサンプルのメキシコ系の人々が最近の移民であるからである」(ウィルソン 1999: 213)
 「自らの生活水準を改善したいという希望を抱いて、貧しい経済を離脱してより発展した経済に向かう移民は、地元出身の労働者が嫌悪し、あるいは拒絶するようになった種類の雇用を喜んで引き受ける傾向がある」(ウィルソン 1999: 214)
 居住区の貧困化と家庭への支援の弱さは、黒人女性が高い報酬の職に就く能力を身につけるのを妨げる (ウィルソン 1999: 219)

問題解決に向けた提言──特定の「人種」に限定しない教育と職業訓練
 黒人貧困層だけでなくそれ以外の貧困層や中産階級まで恩恵がおよぶような全国民を対象とした社会政策を実施して、貧困層の底上げをはかる。「全国民が対象」というロジックでなければ、社会の合意は得られない。
 「それにもかかわらず、人種よりも必要に基づいた国民医療や学校改革、職業訓練のように、全く人種に偏らないと正確に表現することができ、人種的マイノリティに強力かつ積極的に影響するけれども、支配的な白人住民の大規模な層にとっても同じように利益になるようなその他のプログラムが存在する。全国世論調査の結果は、そのようなプログラムを含む包括的な社会権のイニシアティブへの支持において、新たな連合ができる可能性を示唆している。もしそのような連合が試みられるならば、おそらく次の二つのことを行う新たな公的レトリックを特徴とするべきであろう。(1)貧困者のみでなく、労働者階級や中産階級をも苦しめている諸問題に焦点を当てること。(2)たんに住民の真に不利な層だけでなく、社会のすべての集団の社会的、経済的改善を促進するような統合的プログラムを強調すること、である。結局、都市中心部の貧困者の職なし状態は、グローバル経済を含む経済組織の変化にかなりの程度由来する経済的周縁化の最も極端な形態を表しているのである」(ウィルソン 1999: 301)
 都心部の貧困問題を解決する枠組み──長期的解決策と即効的解決策
 「長期的解決のための私の枠組みは、よい職を生み出し、労働者の間で増大しつつある賃金の不平等と闘うという問題に取り組むために二つのタイプの関係──すなわち雇用と教育、家庭援助システムの間の関係と、大都市を舞台とした都市と郊外の関係──の概略を示す。当面の即効的な解決策のための私の枠組みは、不利な立場に置かれた成人の間の職なし状態を緩和するために、現在のプログラムを改正するかまたは新しいプログラムをつくり出す方法を説明する。それぞれの枠組みは公共部門と民間部門の双方を含むプログラムの統合を伴っている」(ウィルソン 1999: 301)
 長期的解決策(1)──教育改革(誰もが質の高い教育を受けられるようにし、さらに、学校から仕事への移行をスムーズにする)
 「合衆国は日本やドイツのような民主主義的工業国から学ぶことができる。これらの国々は、中等学校を卒業する前に高度の学習成果の基準を満たすことを若者に要求したり、このような全国基準を満たす責任をそれぞれの学校に負わせる政策を含め、「高い水準の思考能力」をもった労働者の数を増加させることを意図した政策を進展させてきた」(ウィルソン 1999: 307)
 「公立学校における学習成果の全国基準のシステムと学習システムを強化するための家庭政策とを結びつければ、合衆国における学校から仕事への移行をきわめて容易にするであろう。「どの工業国と比べても、アメリカにおける学校から仕事への移行のプロセスは最悪である」とレイ・マーシャルは述べている」(ウィルソン 1999: 315)
 長期的解決策(2)──都市と郊外の統合と協力(統一的な都市政策の実施)
 「合衆国のように都市の中心が衰退するままに放置してきた民主主義的工業国は、他にはない。(中略)実際、ヨーロッパの都市の中心部は住むためにきわめて好ましい場所であり続けているが、それはよりよい公共交通機関、より効果的な都市開発プログラム、そして不利な立場にある生徒もより広く利用できる良質の公教育が存在するためである」(ウィルソン 1999: 318)
 「都市と郊外の協力という目的を達成するために進められる改革は、大都市行政部をつくりだす提案から大都市の税基盤の共有(最近ミネアポリスとセントポールでおこなわれている)、共同の大都市計画、そして各コミュニティが合意に達しない場合、共通の問題の解決策を練り上げるための地域の権威をつくりだす提案にまで及んでいる」(ウィルソン 1999: 320)
 即効的解決策(1)──生活基盤の安定
 最低賃金の上昇(EITC給与所得免税措置)
 全員加入の医療保険
 即効的解決策(2)──仕事を見つけやすくする仕組み
 公共交通システムの改善
 職業斡旋センターの設置
 即効的解決策(3)──雇用の創出
 ローズベルト政権期の雇用促進局(WPA; Works Progress Administration)に似た仕組みを作る
 「社会基盤の整備による生産性の向上」と「雇用の創出」の一石二鳥を目指す
 失業者向けに最低賃金の公共サービス職の創出
 「デイケアの助手や放課後学校の体育館や公園を管理することのできる運動場の補助係のような仕事である」(ウィルソン 1999: 330)
 「これには通常の基幹施設整備、1日に1回ではなく2回の街路清掃、週1回ではなく2回のゴミ収集、土曜日と夜間の図書館開館、公営の公園や運動場、その他の公共施設を魅力あるものにし、その利用を確実に促すようなレベルと頻度で清掃すること、そして近隣の全ての子どもたちのために安全で大人が責任をもつレクリエーションをできる限り増やした公共の運動場の監督が含まれるだろう」(ウィルソン 1999: 338)
 さまざまな立場の人が相乗りできる提案であることが重要
 「私が概略を示した解決策は、改革連合に適しており、それによって採択が容易になるような政策の枠組みを提示する考え方とともに発展した。長期的解決策は、公立学校における学習効果の全国基準のシステム、学校における学習システムを強化するための家庭政策、学校から仕事への移行の全国的なシステム、そして都市と郊外の統合と協力を促進する手段の開発を含んでいるが、これはアメリカの広範な諸集団の利益となるものであり、その支持をえることができるだろう。当面の解決策は、就職情報斡旋センターや助成金を支給されたゲットー相乗り用のカープールの育成からWPA型の職の創出までに及ぶが、これは定収入のアメリカ人により関係が深いものの、あらゆる人種的、階級的背景をもったアメリカ人が支持する傾向のある一種の機会拡大型プログラムである」(ウィルソン 1999: 343)


②へ続く
http://r-takayama.at.webry.info/201111/article_3.html



"ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別』1996年①──地域社会学II2011年11月9日" へのコメントを書く

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