リーボウ『タリーズコーナー』1967年──地域社会学II2011年11月2日

今週の地域社会学IIで紹介した研究は、リーボウ『タリーズコーナー──黒人下層階級のエスノグラフィ』(1967年)です。アメリカのワシントンDCにある貧しく社会問題が多発する黒人集住地区を舞台に、下層階級の黒人成人男性の生活実態を明らかにしています。リーボウの結論を一言でまとめるならば、「下層階級の黒人成人男性は、理想の『男らしさ』とそれを実現できない現実とのギャップによって自尊心を失っている。その結果、家族関係や友人関係が『はかない』ものになっており、生活が安定せず、貧困が継続する。その根本的な原因は、十分な賃金が保障された『まっとうな仕事』がないことである」となるでしょう。50年近い昔のアメリカの黒人の話ですが、現代日本の若年無業者層の現状にもつながりそうな内容です。

ちなみに、『タリーズコーナー』は、100万部近く売れており、社会学の分野ではめずらしい大ベストセラーです。また、著者のリーボウは、この本によって1967年にC・W・ミルズ賞を受賞しています。


講義ノートはこちら(MS Word, 33Kb)
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講義ノートテキスト版
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20111102地域社会学II(リーボウ『タリーズコーナー』)

リーボウ『タリーズコーナー』1967年

原題
 Liebow, Elliot, 1967, Tally's Corner: A Study of Negro Streetcorner Men, New York: Little, Brown and Company.
 2001年現在、アメリカで93万部が売れた(吉川 2001: iv)
 社会学の文献としては、リースマン『孤独な群集』に次ぐミリオンセラー
 1967年に、C・W・ミルズ賞を受賞


調査地・時期・対象・手法
 調査地:アメリカのワシントンDCの黒人集住地区(いわゆるスラム地区)
 人口密集地
 貧困、犯罪、児童遺棄、福祉依存の発生率が高い
 調査時期:1962年1月から1963年7月(約1年半)
 調査対象:低所得の黒人の成人男性(リーボウ 2001: 3-6)
 1963年には、貧困層は全人口の約25%となる。そのうち約30%が黒人。
 黒人貧困層は、何世代にわたって続く傾向がある。
 貧しい黒人家族の理解では、女性と子どもが重要視されてきた。
 黒人父親が不在である家族が多いため。父親が妻子を捨てる。
 公的扶助を受けるのが、黒人女性と子どもになり、行政等の第三者の目をひきやすい。
 調査手法:参与観察
 最初の12ヶ月は参与観察、終わりの7ヶ月は断続的な調査
 国立精神衛生研究所の資金(研究番号OM・278)を受けて首都地域衛生福祉局が実施した「コロンビア特別区における低所得家族の子育て行動の実践」という研究プロジェクトの一部として実施された。


著者リーボウについて(吉川 1998)
 都市人類学者
 1925年にワシントンDCで生まれ育つ。
 両親は東欧からのユダヤ系移民。父は、黒人居住区にある食料品店を営む。
 リーボウが幼い頃、学校と遊び場は白人と一緒だったが、客と近所の人たちのほとんどは黒人だった。
 高校を中退
 1942年、アメリカ海兵隊に志願し、南太平洋で従軍
 戦争から帰還後、ジョージ・ワシントン大学で英文学を専攻。
 さまざまな職を転々としながら、大学院で古代史の研究をする。
 食器洗い、墓地の区画販売、児童向け絵本の文を執筆など
 1950年代末、米国カソリック大学大学院で人類学の研究を始める
 1962年1月から1963年7月、『タリーズコーナー』に結実するフィールドワーク
 1963年、国立精神衛生研究所に勤める
 1966年、米国カソリック大学で博士号を取得(博士論文が『タリーズコーナー』になる)
 1967年、『タリーズコーナー』出版
 1993年、『ホームレスウーマン』出版
 1994年、前立腺がんで死亡(69歳)


『タリーズコーナー』の目次
 第1章 イントロダクション
 「下層黒人男性への視点」「調査データと記述の方法」「調査地点と登場人物たち」
 第2章 男たちと仕事
 「仕事をしない男たち」「低賃金の常勤職」「不安定な建設作業員」「自己実現の見込みのなさ」「どうして『その場しのぎ』になるのか」
 第3章 子どものいない父親
 「さまざまな父子関係」「子どもへの愛情と父子間の距離」「男女関係と父子関係」「父親としての男たち/息子としての男たち」
 第4章 夫と妻
 「男女関係と結婚」「男たちの結婚観」「なぜ結婚はうまくいかないのか」「男の弱さとしての性的不貞」「その他の観点」
 第5章 愛する者と搾取する者
 「語りのなかの搾取関係」「愛情を求める男たちの実情」
 第6章 友人とネットワーク
 「重なりあうネットワーク」「擬似血縁関係」「脆弱な友人関係」「タリーとリチャード」「タリーとエマ・ロウ」「タリーとロニー」「タリーとベス、アール、そしてルシール」「語られるだけの関係性」
 第7章 結論
 「本書が明らかにしてきたこと」「黒人下層階級問題のとらえ方」
 補論 フィールドでの経験を振り返って
 「背景」「フィールドワークに先だって」「フィールドにおいて」


『タリーズコーナー』の内容紹介
調査地点と登場人物たち(第1章)
 調査地点
 ニュー・ディール・キャリーアウト・ショップ(キャリーアウトと略)という店(雑貨小物と持ち帰り用軽食を売る)
 「キャリーアウトは一週間、毎日オープンしている。二交代制の二人のウェイトレスは、ほとんどいつも男性、女性、子どもたちにコーヒーを注いだり、ソーダの瓶を空けたり、ハンバーガー、ポテトフライ、ホットドッグ、「ハーフ・スモーク」、「サブマリン」[サンドウィッチ類のこと]を調理していた。座る場所がないため、食べ物は持ち帰りにするか、立ったまま食べる。しかし10×12フィート[約3×3.7メートル]の客用スペースには壁で仕切った空間があり、もたれかかる場所があり、キャリーアウトの売り上げと社交に役立っていた。タバコの自動販売機やジュークボックスの上を使って、キャリーアウトに住むバンドゥードゥルという名のナンバーズマン[違法賭博屋]が、近所の他のナンバーズマンと会計を確定するために毎日来る白人ナンバーズ・バッカー[賭博元締め]とお金の精算をしている」(リーボウ 2001: 13-4)
 キャリーアウトの前の広いコーナーの歩道
 「この場所に、あるいは店の前の広いコーナーの歩道に、この地域に住む20人ほどの男たちが定期的に「何の努力も要らない社交」に集まってくる。彼らは、どう考えても一つの集団とは言えない。8~10人、あるいはそれより少数の男たちがいつでもそこにいる。そこには参加すべきことはなく、義務もなく、仲間であるかどうかを云々する者もまったくいない。そのうちの何人かは、その中の数人に対して簡単な挨拶を交わす以外には口をきいたこともない。(中略)彼らはここで食べたり飲んだり、くつろいだ会話を楽しんだり、何か起こっていないかをたずねたり、ふざけたり、女性を見てひやかしたり、「何かが起こること」を見物し、時間を過ごすために来るのである」(リーボウ 2001: 14-5)
 その他、ストリートコーナー、裏通り、細い路地、玉突き場、酒場、近隣の個人の家など
 調査地の範囲は、キャリーアウトを中心に1~2ブロック以上は広がらなかった(リーボウ 2001: 179)
 登場人物たち
 ワシントン第2地区の街角を生活基盤として暮らす24人の黒人男性
 職業:非熟練の現場作業者、臨時の日雇労働者、小売業やサービス業の単純作業者、失業者
 年齢:20代前半から40代中盤まで
 家族:ある者は独身で、ある者は結婚している。妻子と暮らしている者もいれば、そうでない者もいた。

知見(第7章)
 下層階級の黒人成人男性は、理想の「男らしさ」とそれを実現できない現実とのギャップによって自尊心を失っている。その結果、家族関係や友人関係が「はかない」ものになっており、生活が安定せず、貧困が継続する。その根本的な原因は、十分な賃金が保障された「まっとうな仕事」がないことである。
 ストリートコーナーの黒人男性の日常世界は、自己完結したものではない
 「彼らの内部世界は、必要なものがすべて揃っていて、自生的で、自立したシステムだというわけではない」(リーボウ 2001: 157)
 黒人男性の内部世界は、「雇用」を通して大きな社会とつながっている
 仕事が、自己意識や家族関係・友人関係のあり方に大きく作用する
 経済と家族
 若い下層階級の黒人は、20代前半で結婚する。
 彼らは、公的・法的に結婚して、家族を支える大黒柱になりたがる。それが「一人前の男」の証。これは、中産階級の男性の価値観と変わらない。
 しかし、彼らの就くことができる仕事は、非熟練で低賃金の不安定な仕事ばかりで、やりがいもなければ、昇給もない。
 経済的な家族の大黒柱になれない。妻子から当てにされない。
 妻子に暴力をふるうのは、力を見せつけて、経済的に果たせなかった「男の沽券」を守るため。
 家族生活に失敗し、自尊心が傷つけられる。
 妻子を捨てて家出をしたり、仕事を辞めたりする。
 ストリートコーナーは、自信を失った男たちの楽園である。
 「生活経験にこれ以上耐えられなくなり、失敗が約束されている者にとって、ストリートコーナーは、どこにもまさる楽園となっているのである。ストリートコーナーでは、失敗は架空の成功へと合理化され、弱さが魔法をかけられたように強さに転換される」(リーボウ 2001: 161)
 経済と友人
 理想の友情とは、「忠義に基づいて、気前よく、お金、モノ、サービス、感情的な援助の動きが自由に交わされ、互いに援助し合うシステム」(リーボウ 2001: 163)のように考えられている。
 しかし、慢性的にモノが不足しているので、うまい儲け話があっても、友人に秘密にせざるを得ない。
 大きな経済的困難に陥った友人を助ければ、自分も困難に陥り共倒れになるので、見捨てざるを得ない。
 かけがえのない友人を裏切ったという後ろめたさ → 自尊心を失う
 その反動で、友情を過剰に表現する
 「まるで個人関係のもろさを予期しているかのように、そしてそれがもちこたえ、何とか引き延ばされているあいだ、できるだけ多くを手に入れるために、男たちはそれぞれの関係を最大限の激しさで、単なる顔見知りから友人へ、友人から親友、恋人へと急いで格上げする」(リーボウ 2001: 163)
 「はかなさはストリートコーナーの世界の最も際立っていて、広く行き渡った特徴と言える」(リーボウ 2001: 163)
 安定しないその場かぎりの家族関係や友人関係
 来る者は拒まず、去る者は追わず
 ストリートコーナーには、常に、他所で行き詰まった新しい人がやってきて、また、ここで行き詰まった人が去っていく。
 ストリートコーナーはバラバラな個人の世界
 「このように、このストリートコーナーの世界は、下層階級の居住地における「みんな一緒にここにいる」という感覚を成員たちが共有した、緊密に結ばれた紐帯という、旧来の特徴描写にはまったくそぐわないものである」(リーボウ 2001: 164)
 ガンズの描いた「仲間集団社会」とは対照的な世界。したがって、タリーズコーナーの世界は、スラムと呼んで良いかもしれない。
 下層階級の黒人の世界は、特別なサブカルチャーではなく、大きな社会の一部である。
 「この観点からみると、ストリートコーナーの男たちは、独自の文化的伝統を保持しているようには見えない。彼らの行動は自分たちのサブカルチャーの具体的な目標や価値を求めていたり、モデルを模倣しているようにはとうてい見えず、むしろより大きな社会の多様な目標を実現しようと試みて、それに失敗し、自分にも他人にもその失敗をできるだけごまかそうとしているように見える」(リーボウ 2001: 164)
 ルイス「貧困の文化」への反論?
 黒人家族において世代を超えて貧困が続くのは、文化伝達ではなく、親子ともども大きな社会のメカニズムによって貧困に陥っているから
 「だが、かれらが変わっていく可能性に関して、より重要なことは下層階級の黒人の父親と息子の(あるいは母娘の)類似性は、「文化伝達」なのではなく、息子が、父親とほとんど同じ理由で、家を出ると同じ地域で同じ失敗を独自に経験するということである。直接の自己継続的な文化伝達のプロセスであるかのようにみえているものは、少なくともそのいくらかの部分は、機械的ともいえる経緯で個々別々に類似性を作りだしている、むしろ単純な社会のメカニズムなのである」(リーボウ 2001: 167)
 黒人の貧困問題を解決するには、文化という文脈ではなく、経済・政治・福祉という文脈に位置づける必要がある
 「こうした見方をすることは、問題を過小にするわけではなく、むしろこの問題を経済、政治、社会福祉という扱いやすいコンテクストに位置付けるものである。実際こうした見方によって、貧困問題は、下層階級の黒人を「アメリカ人のメインストリームに乗せよう」という試みの、適切なターゲットとなる」(リーボウ 2001: 167-8)
 家族を養うのに十分な賃金の得られる仕事に就くための教育や訓練の機会が保障されるべきである
 「子どもや若年者には、仕事・職歴を勝ち取るための技能と訓練を与えることができる良い学校と良い教師が必要であり、かれらを信じ、かれらが自分自身の力を信じるようになることを助ける教師がいなければならない。成人が家族を養うことができて、若者たちが変化した現実を実感でき、若者も法人も変化を経験して、自分たちの暮らす世界の既得権を獲得することができるために、家族を養うのに十分な賃金が成人世代に対して確保されなければならないのである」(リーボウ 2001: 168-9)


<原典>
 E・リーボウ, 2001, タリーズ コーナー──黒人下層階級のエスノグラフィ』(吉川徹監訳)東信堂.

<参考文献>
 Montgomery, James D., 1994, "Revisting Tally's Corner: Mainstream Norms, Cognitive Dissonance, and Underclass Behavior", Rationality and Society 6(4): 462-88.
 大橋健一, 2002, 「<書評> エリオット・リーボウ著『タリーズコーナー : 黒人下層階級のエスノグラフィ』」『日本都市社会学会年報』 20: 220-222.
 吉川徹, 2001, 「訳者による序」E・リーボウ『タリーズコーナー──黒人下層階級のエスノグラフィ』(吉川徹監訳)東信堂, iii-viii
 吉川徹, 1998, 「訳者解説」E・リーボウ『ホームレスウーマン──知ってますか、わたしたちのこと』(吉川徹・轟里香)東信堂, 397-411.


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