コンウェルとサザーランド『詐欺師コンウェル』1937年──地域社会学II2011年10月19日

今週の地域社会学IIも、具体的な研究の紹介です。今回は、1905年から1925年頃のアメリカにおける職業的窃盗犯の世界を描いた『詐欺師コンウェル』(1937年)です。20年間窃盗をおこなってきたコンウェル(仮名)というベテラン窃盗犯の書いた手記を元に、社会学者のサザーランドが聞き取りや編集をおこなっています。生活史法という調査法に分類されます。また、映画『スティング』(1973年アカデミー賞7部門受賞)の元ネタの一つとも言われています。


講義ノートはこちら(MS Word, 29Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZ90XUo3swX7veCKOh


==========
講義ノートテキスト版
==========

20111019地域社会学II(サザーランド『詐欺師コンウェル』)

C・コンウェルとE・サザーランド『詐欺師コンウェル』1937年
原題
 Conwell, C. and E. Sutherland, 1937, The Professional Thief, Chicago: The University of Chicago Press.
 thiefの語には、「暴力的な手段を使わずに、スマートに他人の金品を奪う」という優美なニュアンスがある
 「”スィーフ“が裏の社会では、それだけでほめ言葉になる、「腕利きのプロの泥棒」というぐらいの特殊な意味で使われているからである」(コンウェルとサザーランド 1986: iii)

調査対象
 アメリカの1905年から1925年頃における職業的窃盗犯の世界(アンダー・ワールド=裏社会)
 前回の『ゲットー』は調査対象が空間的に明確に分けられた。しかし、今回の『詐欺師コンウェル』では地域対象が空間的に分けられない。


著者について(コンウェルとサザーランド 1986: vi-viii)
コンウェルの略歴
 1885年頃に、アメリカのフィラデルフィアで生まれる。家族の暮らし向きは良かった。
 青年時代に劇場で案内係をして、コーラスガールと一緒になる。二人で麻薬を吸うようになる。
 ポン引きになる。窃盗犯数人とつきあいができて、盗みの技を覚える。
 数年間、スリ、万引き、詐欺師として働く。アメリカのほとんどすべての都市、ヨーロッパの多くの都市で、盗みをする。
 20年間のアンダーワールド暮らしで、合計5年間、刑務所などに入る。
 1933年から死ぬまでは、まじめに働き、麻薬を使うこともなかった。

コンウェルの容姿や態度
 魅力的な人物。人間的にいいところがある。
 風貌や話し方は、弁護士、銀行家、商人として十分通じる感じ。
 リーダーに特有の決断力、独創性、力量。
 プロの窃盗犯としてはトップクラス。
 チック・コンウェルは仮名。chic(洗練された)、con(詐欺)、well(うまい)。

サザーランドの略歴
 Edwin Hardin Sutherland,1883年から1950年
 イリノイ、ミネソタ、シカゴの各大学の教授を歴任
 1935年から約10年間、インディアナ大学社会学部長
 1939年度、アメリカ社会学会会長。
 著作:『犯罪学』(1924年)、『ホワイトカラー犯罪』(1955年)、『犯罪学の原理』(1960年)など
 差異的(分化的)接触理論(theory of differential association)


調査方法(コンウェルとサザーランド 1986: v-vi)
生活史法
 生活史:「個人の生涯を社会的文脈において詳細に記録したもの」(『新社会学辞典』832頁)
 ライフ・ストーリー:「対象者の人生(の一部)を本人の後述や筆記をもとに調査者が再構成した作品」(『新社会学辞典』1457頁)
 ライフ・ストーリーは、対象者以外の人から得た対象者の伝記的情報や、個人的ドキュメント、さまざまな公文書などのデータを加えたライフ・ヒストリーとは区別される

手記の作成──コンウェルとサザーランドの共同作業
 サザーランドが用意した質問項目についてコンウェルが原稿を書く
 20週間、1週間に7時間ずつ、上記の原稿についてサザーランドとコンウェルが話し合う。その内容をサザーランドが、思い出せるかぎり逐語的に書き留める。
 サザーランドが、コンウェルの原稿と話し合いの記録を、重複を削り前後のつながりがあるように編集する。その際、コンウェルの考え方、態度、言い回しが活かされるように努めた。
 サザーランドが編集した原稿をコンウェルが読んで、訂正すべきところを指示する。サザーランドは、コンウェルの指示通りにすべて修正した。
 原稿が完成したのは、出版の7年前の1930年頃。

手記の検証──第三者の視点によって客観性を担保する
 コンウェルの体験による知見を補足し偏りを取り除くため、コンウェル以外のプロの窃盗犯4人と元刑事2人に原稿を見てもらった。
 原稿を使わずに、他のプロ窃盗犯数名、警備・警察機関の代表者数名、小売店の店員たちと、この原稿に含まれている考え方や問題について話し合った。
 プロの窃盗犯に関する出版物を使って、原稿の内容についてさらに詳しく検討した。
 以上の結果、基本的な点では、コンウェルの手記との矛盾点は見つからなかった。


『詐欺師コンウェル』の構成
はじめに(サザーランド)
<第1部 窃盗という仕事――あるプロの窃盗犯の手記>(コンウェルとサザーランド)
第1章 職業
第2章 一家
第3章 稼業
第4章 もみ消し
第5章 窃盗犯(どろぼう)と法
第6章 ビジネスとしての窃盗
第7章 窃盗犯(どろぼう)の社会生活と私生活
第8章 窃盗犯(どろぼう)と社会
<第2部 解釈と結論>(サザーランド)
第9章 解釈
第10章 結論
注(その他の職業的窃盗犯、元刑事、商店主、文献などによる補足説明)


職業的窃盗犯の手口の実例(第3章)
 電信(競馬)詐欺(コンウェルとサザーランド 1986: 55-58)
 役割分担をしながらチームでおこなう
 第1段階:カモの選択
 十分にお金を持っており、よこしまな方法で金儲けをしたがる人間を選ぶ
 第2段階:信用の獲得
 「指さし」や「財布落とし」という手法を通して、窃盗犯グループの一人が演じる競馬の偽コミッショナーが便宜を図ってくれることをカモに信じ込ませる
 第3段階:説得
 偽コミッショナーの情報によって大もうけできる姿を見せて、本当に大もうけできることをカモに納得させる
 第4段階:ジョイント、店
 詐欺をやるためだけに使われている賭博場にカモを連れ込む
 第5段階:証拠金を預けさせる
 賭け金の借用証書を使って大もうけしたという設定を作る。その上で、賭博場の支配人が負けたときのために借用証書の証拠金が必要だからとカモに言って、銀行に現金を下ろしに行かせる。下ろした現金を賭博場に預けさせる。
 第6段階:お金をまきあげる
 カモに勘違いをするように仕向けて、賭が外れるようにする。そのために、自然に勘違いするような状況を作り出し、賭が外れたのは自己責任だとカモに思わせる。
 第7段階:カモをなだめる
 カモが警察に行って訴えないように、詐欺グループの一人がなだめ役になり、「何とか二人で金を借りて負けを取り戻してやる」などと言いながら、カモを落ち着かせる。
 『詐欺師コンウェル』は、映画『スティング』(1973年アカデミー賞受賞)の元ネタの一つになっている
 「スティング(映画)」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0_(%E6%98%A0%E7%94%BB)


サザーランドによる職業的窃盗犯の基本的特徴のまとめ(第9章)
 基本的主張
 窃盗という職業は、他の一般的な職業と似ている部分が多い
 ただし、当然ながら、職業的窃盗犯を特徴づける諸点もある
 「第一に、窃盗業の特質は他の種類の比較的永続的な集団の特質と類似するところが多い。第二に、これらの特質の中にはプロの窃盗犯たちを多種の集団から明瞭に区別する要素がある。」(コンウェルとサザーランド 1986: 179)
 (1)専門技術
 医者や弁護士などと同様に、職業的窃盗犯にも独特の能力や技術が必要
 (2)地位
 窃盗犯の世界のなかには独特の評価基準があり、一人一人の窃盗犯は順位をつけられる
 (3)コンセンサス(合意、共通了解事項)
 共通の価値観や、ものの見方、哲学をもっている
 仲間内でのルールや助け合いの精神、裏社会への忠誠心などが存在する
 (4)差異的(分化的)接触(differential association)
 主に窃盗犯同士で関わり、「まっとうな」社会とは絶縁されている
 差異的(分化的接触)接触の理論
 サザーランドの犯罪社会学における基本的主張
 「犯罪行動は、パーソナルな集団における他の人々との相互作用を通じて「学習された」行動であり、人々が遵法的文化から隔絶され、犯罪的文化に接触することから犯罪行動は学習される」(『新社会学辞典』1300頁)
 犯罪の技術だけでなく、特殊な動機、衝動、合理化の仕方、態度なども学習される
 (5)組織
 以上の、専門技術、地位、コンセンサス、差異的接触は、職業的窃盗犯の世界が組織化されている証左
 職業的窃盗犯の世界が組織化していることによって、職業として永続的に窃盗を続けることができる



原典
 C.コンウェル・E.サザーランド, 1986, 『詐欺師コンウェル──禁酒法時代のアンダーワールド』(佐藤郁哉訳)新曜社.(=Conwell, Chic and Edwin Sutherland, 1937, The Professional Thief, University of Chicago Press.)

参考文献
 西川知亨, 2010, 「コンウェル、C./サザーランド、E.『詐欺師コンウェル』」小林多寿子編『ライフストーリー・ガイドブック――ひとがひとに会うために』嵯峨野書院, 152-155.




ライフストーリー・ガイドブック―ひとがひとに会うために
嵯峨野書院
小林 多寿子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ライフストーリー・ガイドブック―ひとがひとに会うために の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



スティング 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]
UPJ/ジェネオン エンタテインメント
2009-07-08

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by スティング 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


"コンウェルとサザーランド『詐欺師コンウェル』1937年──地域社会学II2011年10月19日" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント