富山病院看護学校社会学20110720(孤立した子育ての病理)

前回の7月13日の授業では、「家族規模の縮小」という話をしました。それを受けて、今回の7月20日の授業では、そうした状況が孤立した子育ての環境をもたらし、病理的な現象を引き起こしかねないという話をしました。病理的な現象の一つは、児童虐待です。将来看護師になるみなさんなので、児童虐待防止法が「早期発見の努力義務」「通告義務」などを定めていることも伝えました。

もう一つの病理的な現象は、共依存的な親子関係です。いわゆる「過保護」です。これは、一見「子思いの母、母思いの子」といううるわしい関係のように見えるのですが、実は、互いを束縛する非常に窮屈な人間関係です。共依存は、もともとアルコール依存の治療現場から出てきた考え方です。「酒におぼれて暴力をふるう夫から、早く離婚して逃げればいいのに」と周りの人間が思っても、妻は「私がいなくなったら、この人はダメになる」と思い込んで、逆に献身的に尽くす。そうした妻たちのなかに「存在論的な不安」があることに気づいたことが、共依存という考え方につながりました。

講義は7月20日で最後でした。次回7月27日は試験です。半年間お世話になりました。みなさん、試験、頑張ってくださいね。



講義ノートはこちら(MS Word, 183Kb)
http://dl.dropbox.com/u/22647991/20110720%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E7%97%85%E9%99%A2%E7%9C%8B%E8%AD%B7%EF%BC%88%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AA%E5%AD%90%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%81%AE%E7%97%85%E7%90%86%EF%BC%89.docx


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講義ノートテキスト版
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20110720富山病院看護

孤立した子育ての病理

授業のねらい
 先週見たように、日本の家族は、規模が縮小傾向にある。
 また、日本は、女子の年齢階級別労働力率のグラフがM字型になることからわかるように、女性に育児の負担が集中しやすい。
 先々週見たように、都市化のなかで、地域社会の助け合いの精神も廃れつつあるように見える。
 以上のような状況のなか、育児中の母親が孤立しやすく、病理的現象が生じやすい


孤立した子育ての病理
 母子カプセル、母子癒着
 一日中、母親と子どもが一緒に居て、周りから孤立している状態
 育児不安や育児ノイローゼは専業主婦に多い
 専業主婦のほうが、家にこもりがちになり、孤立した子育てをおこないやすい
 資料:厚生省『厚生白書(平成10年度版)──少子社会を考える』
 「1997(平成9)年の経済企画庁の調査によると、第一子が小学校入学前の女性のうち、子育ての自信がなくなることが『よくある』又は『時々ある』と答えた者の割合が、有職者で半数、専業主婦では7割にも達している」(p.84)

http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaz199801/b0029.htmlより転載)


http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaz199801/b0029.htmlより転載)


児童虐待
 孤立した子育てのなかで、かわいいはずのわが子を虐待してしまう親がいる
 平成22年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数
 5万5152件(速報値、宮城県・福島県・仙台市を除く)
 258件(富山県のみ)
 児童虐待の相談件数は、増加の一途(平成12から22年までに3万7427件増加)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001jiq1-att/2r9852000001jj3c.pdfより転載)
 注意:上記は、あくまで「相談件数」のなので、「児童虐待の発生件数」とは必ずしも一致しない
 児童虐待はタブーであり発見されにくいので、「児童虐待の発生件数」が「相談件数」を上回る可能性もある。

「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年施行)
 児童虐待の類型(第2条)
 身体的虐待
 「児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」
 例えば、一方的に暴力を振るう、食事を与えない、冬は戸外に締め出す、部屋に閉じ込める。
 性的虐待
 「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」
 例えば、子供への性的暴力。自らの性器を見せたり、性交を見せ付けたり、強要する。
 ネグレクト(育児放棄、監護放棄)
 「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること」
 例えば、病気になっても病院に受診させない、乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置、食事を与えない、下着など不潔なまま放置するなど。
 心理的虐待
 「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力、その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」
 例えば、言葉による暴力、一方的な恫喝、無視や拒否、自尊心を踏みにじる。
 早期発見の努力義務(第5条)
 「学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」
 通告義務(第6条)
 「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」


共依存
 一見良好な母子関係も、子どもに悪影響をおよぼす可能性がある
 密着しすぎる母子関係の病理を生み出す一要因として、病的な共依存関係を理解してもらう
 もともとは、アルコール依存症の夫と妻の関係を説明する概念として考案された

資料を読んでもらう(西尾 1999: 71-6)──5分間
 対照的な二組の親子
 洋一の母親のケース(共依存的な親子関係)
 生まれつき身体の弱い息子の洋一に対して、母親は並々ならぬ愛情を注ぐ
 しかし、洋一が小さい頃から、母親は「あんたは病気なんだから、そんなことしちゃダメ」と言って、彼がしたがることにことごとく反対する
 東京の大学へ進学することも母親が反対し、洋一は地元の大学に入学する
 地元以外の会社への内定も母親が勝手に断り、洋一は、母親のコネで地元の会社に就職する
 洋一は38歳だが、結婚もせずに、母親と二人で暮らす
 エドナのケース
 エドナは初期のアルツハイマー病。息子のチャックは弱視。
 チャックの視力が落ちることを知ると、専業主婦だったエドナは美容学校に通い出す。一緒に居ると、チャックを過保護にしてしまうと考えたため。
 エドナは美容院で働き始める。チャックが自動車修理工になりたいと言ったので、エドナはチャックと一緒に全米中を探して、ついに、目の不自由な人のための自動車修理工養成所を見つける。
 完全に失明したチャックは、国から身障者に出される援助金も受け取らずに、シアトルで修理工として生計をたて、自立した生活を送る。

共依存
 定義:自分の存在価値を証明するために、自分の世話を必要とする人を必要とする状態およびその病理
共依存の模式図













共依存の病理
 (1)個性の抑圧
 互いを縛り付けて各自の個性を発揮できずに苦しいが、共依存的な関係を解消すると互いに生きていけないため、離れられない
 互いに依存することによって一心同体となり、各自の個性が発揮できない状態
 母親:洋一の世話ばかりしていて、自分の可能性を実現することに、自分のエネルギーを費やしていない
 洋一:母親の意向を気にして、自分がやりたい仕事を諦め、母の決めた会社に勤める
 関係の解消=死
 関係を解消すると、世話をされているものは、世話を受けられなくなって、肉体的な「死」を迎える(洋一)
 関係を解消すると、世話をしているものは、自分の存在価値に対する不安を解消できなくなって、精神的な「死」を迎える(母親)
 (2)支配
 相手の依存を利用して、相手をコントロールする
 「その人の世話をし、情緒的な支えになって、その人が自分なしではやっていけないところまでもっていく」(斉藤 1998: 57-8)
 「その人が自分なしではやっていけない」という必要性が、自分の存在証明となる
 「人を頼らせ、自分から離れないようにして、相手を支配し、ペット化する」(斉藤 1998: 59)
 世話をしている相手が、自分から離れれば、自分の存在価値を証明できなくなる。したがって、相手が逃げないように、相手が自立することを阻止する。
 (3)自己欺瞞
 他人の世話をすることを欲しながらも、無意識のレベルでは、その献身が裏切られることを期待
 「それがほんとうに息子の幸せになることだと信じ込んでいて、自分では必死に守ってやっているつもりなのです。子どもにとってほんとうの幸せとはなにかということが完全に抑え込まれていて、自分でもわからなくなっています」(西尾 1999: 72)
 共依存的な育児
 子どもが大人になって自立するために世話をしていながら、無意識のレベルで、子どもが大人にならず自立しないことを望んでいる
 ダブルバインド的状況
 志保子の母親のケース

まとめ
 孤立した子育ては児童虐待や共依存的関係などの問題を生みやすい
 社会に開かれた育児が求められている。

参考文献
 西尾和美, 1999, 『機能不全家族──「親」になりきれない親たち』講談社.
 斉藤学, 1998, 『アダルト・チルドレンと家族──心のなかの子どもを癒す』学陽書房(学陽文庫).








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