富山病院看護学校社会学20110706(都市化にともなう地域社会における相互扶助の崩壊)

7月6日の授業では、先週視聴したNHKスペシャル「80年ぶりの大屋根ふき──白川郷『結』復活の記録」(50分)(2001年5月19日放送)を題材に、ユイのような相互扶助の仕組みが成り立つ条件を考えていきました。

金銭や物での相殺を許さない対等な労働力交換であるユイでは、同じライフスタイル(合掌の屋根をもつ)をもち、村に長く暮らすこと(屋根の葺き替えが村で一巡するまで村に居続ける)が必要になってきます。しかし、産業革命後、人びとが土地に縛られずに生活できるようになり、交通手段の発達によって移動が容易になると、ユイの基盤であった生活の同質性と定住性は成り立たなくなります。

異質性と移動性の高い都市的な環境では、ユイに替わって「貨幣と市場」が人びとの生活資源を獲得する仕組みになります。貨幣と市場という仕組みは、質が違い比較不可能なものを、価格という共通の尺度に置き換え、交換可能にします(同質性の崩壊を克服)。また、サービスと貨幣の交換は、その場で、非常に短期間におこなわれます(定住性の崩壊を克服)。

都市化という社会の大きな流れから見ると、ユイのような相互扶助の仕組みの崩壊はいわば必然です。かつて地域社会でおこなっていた相互扶助は、今や家族の範囲に狭まったと言えるでしょう。しかし、その家族も、どんどん縮小しています。

次回7月13日の授業では、日本の家族の現状に迫っていきます。



講義ノートはこちら(MS Word, 28Kb)
http://dl.dropbox.com/u/22647991/20110706%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E7%97%85%E9%99%A2%E7%9C%8B%E8%AD%B7%EF%BC%88%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%9B%B8%E4%BA%92%E6%89%B6%E5%8A%A9%E3%81%AE%E5%B4%A9%E5%A3%8A%EF%BC%89.docx


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講義ノートテキスト版
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20100706富山病院看護

都市化にともなう地域社会における相互扶助の崩壊

授業のねらい
 先週視聴したNHKスペシャル「80年ぶりの大屋根ふき──白川郷『結』復活の記録」(50分)(2001年5月19日放送)を題材に、村落的環境における生活様式から都市的環境における生活様式への変化を理解する。
 結論:都市的環境が中心となった現代社会においては、「助け合い(お互い様)の精神」は、なかなか成立しにくい


番組の構成と意図
 番組に登場する二つの対照的な家族
 長瀬家
 番組の主人公
 ユイによる合掌造りの家の茅葺き屋根の葺き替え
 村落的環境における生活様式を象徴
 池尾家
 長瀬家のユイによる茅葺き屋根の葺き替えの「すばらしさ」を際だたせるために、長瀬家の対照として紹介された家族
 屋根の葺き替えに3000万円かかることが判明して、茅葺き屋根の葺き替えを、泣く泣く断念した
 村落的環境から都市的環境への生活様式の変化を象徴
 合掌の家が減ってきたという歴史の流れから考えると、池尾家のように、合掌の屋根の葺き替えを断念した家族が多数派。
 世界遺産登録(1995年)後、ユイによる屋根の葺き替えは、一軒もない
 村人総出の屋根の葺き替えは、30年ぶり
 このNHKの番組が成立するのは、池尾家に象徴される歴史の流れに、長瀬家がストップをかけて、ユイによる屋根の葺き替えを復活させたから


「ユイ」の定義
 田植や稲刈り、屋根ふきや家の普請などにおいて、地域社会内の家相互間で行われる対等的な労力交換・相互扶助──農村で多い相互扶助の仕組み
 一人前の人間が1日提供してくれた労力に対しては、かならず1日の労働で返済することが基本で、金銭や物で相殺することを許さない
 ビデオのシーン
 「結帳」で、誰が労力を提供してくれたかを記録
 「結願い」で、家一軒一軒にお願いに回る
 モヤイ(催合):各家から資材と労働力とを対等に提供しあい、漁獲物も平等に分配する──漁村で多い相互扶助の仕組み
 特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい。湯浅誠氏
 ユイは義務的な性格を持つ
 ビデオのシーン
 人足割の寄合で職人の発言
 職人「来てもらうことできんにゃ、頼むよりしょうがないことやでな。一日いくら稼ぎにいきゃもらえる役を、ただでしてくれるやでな、結とは言いながらも。一般の人が入っているということは、特にそうなんじゃ。合掌なら結で返せるけど、借りっぱなしになるでな」
 職人「まずは、一軒二軒入ってみて、そのつらさを知れよ」
 職人「なかなか、難しい、今は。あせらんでいうても、やらなければならないことはやらないといけんでな」
 職人「日頃の行いというのもあるわけよ。実際、長い伝統で来てるんやで、先祖がどうやったこうやったということがからんでくるんやで、ほんとうのことは」
 ユイとボランティアは違う
 ボランティアの3要素
 自発性:誰かから言われてやるのではなく、自分から進んで行う
 無償性:物やお金をもらうことを目的としない
 公共性:自分のためでなく、みんなのため、社会のために行う
 ユイは、自発性が成り立たない


なぜ「ユイ」は成り立たなくなったのか
なぜ、人間は、社会を形成するのか
 自分一人ではまかなえない生活資源を獲得するため
 人間は一人では、自分の生活に必要なもの(生活資源)すべてをまかなえない
 その不足分をまかなうために、複数の人間と関係をもたざるを得ない → 社会の成立
 不足分のまかない方にパターンがある = 社会のあり方にもパターンがある
 「ユイ」は、そのまかない方の一パターン
 合掌造りの屋根という生活資源を獲得するのに、業者に頼んで3000万円払うか(池尾家)、それとも、ユイにお願いするか(長瀬家)
 社会が存続する条件=「互酬性」(ごしゅうせい、give & take)
 与えたものと受け取ったものが等しくなくてはならない
 誰かが与えっぱなしだったり、受け取りっぱなしだったりすると、人間関係が破綻する
 与えたものと受け取ったものは、必ずしも同じものでなくてもよい

「ユイ」が成り立つ条件=人口の同質性と定住性
 同質性
 同じもの(行為)によって互酬性が成り立つ
 定住性
 長い期間を通して互酬性が成り立つ。
 ビデオのシーン
 長瀬家の屋根ふきは、80年ぶり

都市的環境の成立にともなう「ユイ」の崩壊
 「ユイ」が崩壊する条件=都市的環境の成立
 近代化(市民革命、産業革命、人口爆発、交通・通信手段などの発達)によって人口の移動性が増大→ 都市的環境の成立 → 人びとの同質性と定住性の崩壊 → ユイの崩壊
 都市的環境
 さまざまな場所からさまざまな文化をもった大量の人びとが都市の狭い空間にやってきた結果、ライフスタイルの異なる人が隣り合って暮らす環境が生まれる。さらに、隣に住む人が、気がつくとどこかに引っ越し、いつの間にか、違う人が隣で暮らしているような移動性の激しい環境。
 同質性の崩壊
 別の場所で生まれライフスタイルの違う人が隣り合って住む
 例:茅葺き屋根とトタン屋根
 ビデオのシーン
 結願いのシーン
 トタン屋根の家の人「20年くらい前は、しょっちゅう頼まれたんですけど。ここ10年くらい前からは、トタン屋根の家にはほとんど頼まれないことが多いですね」
 このトタン屋根の人は、話している言葉から推察すると、白川郷生まれの人ではない。
 定住性の崩壊
 一つの場所に留まる時間が短くなる
 長い間、村に留まり、自分の屋根ふきを手伝ってくれる可能性があるから、他人の屋根ふきを手伝う
 ビデオのシーン
 長瀬家の長男の善治郎さんも、高校は、白川郷から出ていた。そのまま、就職、結婚すれば、白川郷に戻ってくることもなかっただろう。
 助け合い(お互い様)の精神の崩壊
 都市的環境では、異なる生活様式をもつ人びとが隣り合って暮らし、いつの間にか、どこかに行ってしまう。
 このような環境においては、隣人に対して、「自分と同じだ」と共感するのは困難
 長瀬家の当主「この屋根は、長瀬家のものであって、長瀬家のものではない」。このセリフは、「村人=自分」という感覚にもとづく「助け合い(お互い様)の精神」を表現している。しかし、都市的環境では、こうした感覚は成り立ちにくい
 このような状況では、お互い様という感覚は生まれにくく、助け合おうという動機づけも薄れる → 隣人に対する無関心や不寛容 → 逸脱者の排除
 社会規範を変えて逸脱を解決する方法もとりにくくなる

都市的環境における「ユイ」に代わる生活資源の獲得法の創出=「市場と貨幣」
 短い期間のうちに違うものの交換で互酬性が成り立つ仕組みの必要性
 ユイによる生活資源の獲得に代わって、貨幣と市場という仕組みが中心になる
 貨幣と市場という仕組みは、質が違い比較不可能なものを、価格という共通の尺度に置き換え、交換可能にする(同質性の崩壊を乗り越える)
 サービスと貨幣の交換は、その場で、非常に短期間に行われる(定住性の崩壊を乗り越える)。


まとめ
 村落的環境(同質性高、移動性低)──かつての社会
 人と人が直接的にかかわりあって生活資源を獲得する生活様式が発達する
 都市的環境(同質性低、移動性高)──現在の社会
 人と人がシステム(貨幣と市場など)を介して間接的にかかわりあって生活資源を獲得する生活様式が発達する
 人びとの関わり合いが間接的になっているので、なかなか感情移入ができない。
 そのため、助け合い(お互い様)の精神も成り立ちにくい


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