社会学総論20110708後半(アドルノ『権威主義的パーソナリティ』)

7月8日の社会学総論(後半)は、社会心理学的研究という観点から、アドルノ『権威主義的パーソナリティ』(1950年)を紹介しました。この調査は、「態度尺度の構成」「質問紙調査」「面接調査」の3つの部分から成ります。可能なかぎり数量的な分析をおこなおうという方針の一方で、質的データによる分厚い記述も魅力的な研究です。「ファシズムが二度と台頭しないように」という実践的な志向も明確で、まさに「アドルノその他のフランクフルト学派の『批判理論』とサンフォード、フランケル=ブランズウィックなどカリフォルニア大学バークレー・キャンパスにおける『世論』研究グループの経験主義的技法とのたぐいまれな、そしてある意味で幸運な統合」(訳者「解説」520頁)と言えます。調査の進め方についても詳細が記されており、よく練られた調査プロジェクトであったことがわかります(訳書25-45頁)。

ところで、来週7月15日は予定を変更して、「調査票調査(SSMとJGSS)」を紹介します。


講義ノートはこちら(MS Word, 34Kb)
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講義ノートテキスト版
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2011070802社会学総論(アドルノ『権威主義的パーソナリティ』)

アドルノ『権威主義的パーソナリティ』1950年
──社会心理学的研究

社会心理学的研究
 態度尺度
 人びとの態度を数量的に把握するためのものさし
 態度:情況に対応して自己の感情や意志を外形に表したもの。表情・身ぶり・言葉つきなど。また、事物に対する固定的な心のかまえ・考え方・行動傾向をも指す。(『広辞苑』第6版より)
 例:性格検査、適職適性検査
 態度尺度の例
 リッカート尺度
 質問:あなたは、「特定の生き方にはまらず、柔軟な生き方をしたい」という意見に賛成ですか、反対ですか。
 回答:1.賛成 2.やや賛成 3.やや反対 4.反対
 オズグッドSD尺度
 ガットマン尺度
 サーストン尺度


調査企画──調査の動機と社会的意義
 ナチスによってドイツを追われた怒りとファシズムへの危機感
 ナチス・ドイツ(1933年成立)の迫害のために、ドイツからアメリカに逃げざるをえなくなった学者たちが、ニューヨークの社会研究所(the Institute of Social Research)に集結
 「「私たちはみんな、ヒトラーとファシズムを叩かねばならぬという観念に、いわばとりつかれていました。そして、それが私たちを結集させました。私たちはみんな、使命をもっているのだと感じていました」(アリス・マイヤー)」(田中 1980: 524)
 ファシズム
 「全体主義的あるいは権威主義的で、議会政治の否認、一党独裁、市民的・政治的自由の極度の抑圧、対外的には侵略政策をとることを特色とし、合理的な思想体系を持たず、もっぱら感情に訴えて国粋的思想を宣伝する。」(広辞苑)
 フランクフルト学派の批判理論──実践の重視
 「主体と客体の、思考と実践の分離を拒否し、認識対象は人間の社会的・歴史的活動の産物であるとし、「必然性」とは外的強制に対する傍観ではなく、人間の必要と理性による支配=「自由」の問題である」(新社会学辞典1223頁)
 フロム『自由からの逃走』1941年
 権威主義的パーソナリティをもつ人びとがファシズムを支持
 「フロムは権威主義的パーソナリティをもつドイツ下層中産階級(小店主、職人、ホワイトカラー)が、ヒトラーのファシズムを支持したのだという」(新社会学辞典383頁)
 「……人間が自由となればなるほど、そしてまたかれがますます『個人』となればなるほど、人間に残された道は、愛や生産的な仕事のなかで外界と結ばれるか、でなければ、自由や個人的自我の統一性を破壊するような絆によって一種の安定性を求めるか、どちらかということである」(フロム『自由からの逃走』)
 『権威主義的パーソナリティ』の研究目的
 自由と民主主義を守るためには、ファシズムを支持した人びとの権威主義的パーソナリティを解明する必要がある。
 「潜在的にファシスト的な個人、つまり反民主主義的な宣伝にとくに動かされやすい精神構造をもっている個人に向けられていた」(アドルノ 1980: 10)


調査設計
調査態勢
 アドルノ(T. W. Adorno)
 フランクフルト学派の批判的社会学の視座
 サンフォード(R. N. Sandord)
 カリフォルニア大学バークレー世論研究グループの実証的手法が結合
 アメリカユダヤ人協会(American Jewish Committee)
 財政的・組織的支援

調査仮説
 ファシズムを受け入れやすい権威主義的パーソナリティと呼べるパーソナリティ類型が存在する。権威主義的パーソナリティの特質を解明すれば、ファシズムを阻止することができる。
 権威主義的パーソナリティ=ファシズムを受け入れる準備態勢(潜在的な反民主主義的態度)
 パーソナリティには首尾一貫した諸類型がある
 「個人の政治的・経済的・社会的な確信は、あたかも「精神」や「心情」によって結びあわされているかのように、全体として首尾一貫したひとつのパターンを形づくることが多く、しかもこのパターンは彼のパーソナリティの深層にあるさまざまな傾向性を表現している」(アドルノ 1980: 10)
 準備態勢レベルの重要性
 「人びとは反民主主義的な宣伝へのひきつけられやすさにおいて、反民主主義的傾向を表すための内的な準備態勢においてさまざまに異なるのである。この国(アメリカ)におけるファシズムへの潜在的傾向を測るためには、この「準備態勢のレヴェル」でイデオロギーを研究することが必要である」(アドルノ 1980: 14)
 観察可能な意見などをデータとして利用して、パーソナリティの表層から深層の構造に迫る
 「このことは、集中的な調査・研究によって、すなわち人びとのパーソナリティの表層に表れているものの詳細な調査とその下層にあるものの徹底的な追求と似よって、初めて判明する」(アドルノ 1980: 15)
 権威主義的パーソナリティ研究の取っ掛かりとしての反ユダヤ主義
 「潜在的にファシスト的な個人の本性を追求しようとする私たちの研究は、反ユダヤ主義に着目することから始められた」(アドルノ 1980: 12)

調査の進め方
 調査対象者
 権威主義的パーソナリティの持ち主と、その比較対象としての権威主義的パーソナリティをもたない人
 権威主義的パーソナリティの持ち主を確定するために態度尺度を構成する(大学生に対する予備調査)
 大学生は知的水準や同質性が高く、予備調査に適していた
 質問票への回答
 面接による妥当性の確認
 予備調査によって調査方法が確立した後、大学生以外へ調査対象を広げ、質問票による大規模調査を実施する
 質問票に回答してくれた人のなかから、面接に協力してくる人を探す
 質問票と面接のデータにもとづいて、権威主義的パーソナリティの人とそうでない人を比較し、権威主義的パーソナリティの特質を解明する


データの収集──質問票法と面接の組み合わせ
態度尺度の構成
 リッカート法
 それぞれの質問項目に対して、プラス3点からマイナス3点まで得点をあたえる(7件法?)
 最初の質問票は、1944年4月にカリフォルニア大学心理学初級クラスの学生に配布された
 リッカートの弁別力法によって、弁別力の高い質問項目を選ぶ
 できるだけ少ない質問項目数で、回答者たちの態度を分類するため。
 質問項目が多いと、それだけ回答者の負担が増える。
 <形式78>の質問票(1945年1月から5月に実施)
 ファシズム尺度38項目
 反ユダヤ主義尺度10項目
 人種排外主義尺度14項目
 政治経済的保守主義尺度16項目

質問票法(質問紙法)
 質問票──3つの部分から成る
 事実に関する質問
 過去と現在における集団所属(教会、政党、職業)、収入など
 意見-態度尺度
 上述の態度尺度を使う
 投射的質問(投影的質問)
 最終的には8質問
 あいまいで情緒的な色合いの濃い刺激素材を提示して、自由に回答を記入してもらう。
 「もしもあなたがたった6ヶ月しか生きられず、あなたが望むものは何でもできるとしたら何をやるでしょうか」
 回答者が自ら回答を記入する(自記式)
 匿名で回答
 質問票の回答者数は2099人
 ランダム・サンプリングは意図しない
 調査の目的が、意見や態度の分布ではなく、意見や態度の間の関連であるため
 できるだけ多くの社会学的変数(政治・宗教・職業・収入・所属集団など)が含まれるように、さまざまな人人たちに協力を依頼する
 ただし、社会経済的には「中間階級」のみが調査対象
 大学生を対象に作成した態度尺度が、下層階級にはうまく適用することができなかった
 同様に、少数民族集団も対象から外す
 回答者のほとんどはサンフランシスコ湾周辺に住む
 当時、新しい住民が継続的にサンフランシスコ近辺に流入していたので、住民の多様性は比較的高いと言える。
 本来の調査目的は回答者に伝えない
 回答を誘導しないため、回答者には「現代のいろいろな争点に関する意見調査」と伝えた
 集合法
 調査対象者が会合で集まっているところに調査員が訪問する。会合の場で質問票を配布させてもらい、回答者に回答を記入してもらった後、質問用を回収する。
 集合法のため、回答率は90%を超える
 郵送法を試みた時は、回答率は20%にすぎなかった。しかも、回答を郵送してくれた人たちは、権威主義的パーソナリティではない人たちが多かった

面接法
 面接対象者の選定
 質問票の人種排外主義尺度で、高得点の25%(反民主主義的傾向の人)、および、低得点の25%(民主主義的傾向の人)
 質問票調査が終わった後、尺度の得点を算出する。もう一度、会合を訪問し、該当者に面接調査の協力を依頼する。
 面接を受けたのは150人
 「高得点男子」「高得点女子」「低得点男子」「低得点女子」の4つのグループが均等になるように配慮
 3ドルの報酬を支払う
 調査に2~3時間かかったので、3ドルの報酬を支払った。
 人種排外主義尺度で低得点の人(民主主義的傾向の人)は、自発的に協力してくれる人が多かったが、高得点の人(反民主主義的傾向の人)は、報酬の目当ての人が多かった。
 精神分析学的な面接の手法を使う(非指示的面接)
 9人の面接担当者は、すべて心理学的なトレーニングを受けた大学卒業者
 面接での質問内容
 イデオロギー部門──社会的な意見についての考え
 イデオロギー的なトピック(政治、宗教、少数民族集団、収入、職業)について、自発的かつ自由に話してもらう
 臨床-遺伝学的部門──個人的なことがらや思い(現在と過去)
 回答者自身の現状や過去について
 個人的な感情・信念・願望・恐れ
 回答者の子ども時代の環境観や自我観
 主題統覚検査(T.A.T.)法
 一連のドラマの絵をみせて、そのおのおのについて話をする
 ハーバード大学の研究グループが考案した代表的な投影法の一種で、いくぶんあいまいな絵画を見せて、そこに描かれている人物や状況から想像による物語をつくらせ、その内容におのずと現れるその人独自の人格特性を把握しようとする方法である。(日本大百科全書)


データの分析──量的分析と質的分析
量的分析
 質問票のデータを統計的に解析
 面接のデータも、可能なかぎり数量化をして分析

質的分析
 面接データを質的に分析(解釈)
 パーソナリティの要因連関図(マック=権威主義的パーソナリティの典型例)

分析の知見──権威主義的パーソナリティの特徴(田中 1980:510-20)
 高得点者(偏見的な人)は、自己の内部の衝動や受容できない傾性に気づきにくい。
 高得点者が自己の内部に抑圧されたままにしておこうとする傾性は、「恐怖」「弱さ」「受動性」「性衝動」、権威ある人びと(特に両親)への「攻撃的感情」である。これらを自己意識のなかへ統合できないので、自分自身の外部へ「外面化」する
 高得点者は、つねに外的規準へ順応することを駆り立てられる。外的規準(特に社会的地位)によって人びとを評価する。
 高得点者は、外的な権威によって隠微に支配された因襲的価値へ志向する。低得点者は、内面的で根本的な達成価値へ志向する。
 高得点者には、「外的強直」「弱い自我統合」「抑圧された衝動」という布置連関が生じる。
 極度の高得点者には、幼年期の両親による厳しいしつけが見いだされることが多い。それには、条件的な愛着がともない、限られた「是認された行動」へ子どもが依存する態度が生じる。
 高得点者が、その期待にかかわらず、現実に権力者集団の一員になっていることはほとんどない意識のなかで、下落していく脅威にさらされている。権力者への一体化を声高に主張するのは、「見放された人間」や「負け犬」と一緒にされる可能性からわが身を守るため。
 TATについて、高得点者は、外的影響もしくは個人によって統御不能な内面的傾性によって、登場人物たちの行動を説明することが多い(宿命論)。低得点者は、登場人物に同一化でき、想像力に富む。


調査結果の公表
 時代診断の書としての評価
 「第2次世界大戦後の民主社会の再建の原点にあって、表層的には民主的と見えるその担い手達の間に広く権威主義的パーソナリティが浸透していることを明らかにした」(矢澤 1998: 97)
 学問的影響
 『権威主義的パーソナリティ』について全面的な検討をおこなったChristie and Johoda eds., Studies in the Scope and Methods of “The Authoritarian Personalityが刊行される。
 「偏見研究の古典になった」(矢澤 1998: 96)



原典
 アドルノ, 1980, 『権威主義的パーソナリティ』(田中義久・矢沢修次郎・小林修一訳)青木書店(現代社会学大系第12巻).

参考文献
 矢澤修次郎, 1998,「アドルノ『権威主義的パーソナリティ』」『社会学文献事典』弘文堂, 96-97.
 Madge, John, 1962, "11 The Human Roots of Fascism," The Origins of Scientific Sociology, New York: Free Press, 377-423.
 田中義久, 1980, 「解説」アドルノ『権威主義的パーソナリティ』(田中義久・矢沢修次郎・小林修一訳)青木書店(現代社会学大系第12巻), 501-531.






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