富山病院看護学校社会学20110518(予言の自己成就)

先週はバタバタしていて、授業内容の更新ができませんでした。
ほぼ一週間遅れで掲載します。

「予言の自己成就」という命題は、社会学の定番です。その内容は「ある状況が起こりそうだと考えて、人びとが行動すると、そう思わなければ起こらなかったはずの状況が、実際に実現してしまう」と言うものです。

社会現象の根拠は、よく考えると、曖昧なことが多いです。「みんながそう思っているから、そうなのだ」というくらいの根拠しかないことも、稀ではありません。しかしながら、根拠が曖昧でも、社会はそれなりに安定して動いています。それが可能なのも、この「予言の自己成就」のメカニズムが社会のなかで働いているからです。

授業では、1973年12月に発生した「豊川信用金庫の取り付け騒ぎ」を例に、予言の自己成就を紹介しました。
この事件はたいへん有名なので、テレビ番組などでも扱われています。
Youtubeにこの事件を取りあげた番組の動画がありましたので、参考までにURLを貼っておきます。

豊川信用金庫事件(Youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=EFZbVhOv5nA

講義ノートはこちら(MS Word, 29Kb)
http://dl.dropbox.com/u/22647991/20110518%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E7%97%85%E9%99%A2%E7%9C%8B%E8%AD%B7.docx


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講義ノートテキスト版
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20110518富山病院看護
予言の自己成就

予言の自己成就(作田・井上 1986: 80-5)
 「ある状況が起こりそうだと考えて、人びとが行動すると、そう思わなければ起こらなかったはずの状況が、実際に実現してしまう」
 ポイント
 最初は、予言の真偽は不明でも、結果として、予言が成立する
 予言とは?
 現在または未来についての不確実な事象に関して見解を表明すること


予言の自己成就の一例
 「あの子は、君に気があるらしいよ」(=予言)という一言
 その一言ゆえに、うわさの相手を注意して見る
 注視してみると、彼女と目の合う回数が多いような気がする
 「君に気があるらしいよ」という一言の結果、彼女のほうを見る回数が増えているのだから、当たり前かもしれない
 「君に気があるらしいよ」という一言は、本当だったんだと勘違いする
 ここでデートに誘わなければ「男が廃るよな」と勘違いが勘違いを呼ぶ
 デートに誘ってみると、彼女がオーケーしてくれた
 彼女は単に暇だったのかもしれないし、たまたま彼氏とケンカをしていたのかもしれない。しかし、男は勘違いしているから、ますます「君に気があるらしいよ」という最初の一言が本当に思えてくる
 「アバタもエクボ」
 愛すれば欠点まで好ましく見える意味
 その気になると、何でも、自分の都合のいいように思えてくる
 男の積極性に押されて、女のほうも、まんざらでもない気分(=その男に気のある状態)になってくる
 最初は、真偽が不確かな「君に気があるらしいよ」という一言が、結果として、正しくなる


豊川信用金庫倒産騒ぎを例に、予言の自己成就を説明する
 新聞記事を見てもらう(朝日新聞1973年12月15日朝刊)

銀行という商売
 銀行の儲け方
 一般の人から、低利子で預金してもらう
 その預金を、高利子で企業などに貸し付ける
 利子の差額分を、銀行は利益とする
 銀行のリスク
 一般の人びとから集めた預金は、いつでも引き出せる
 企業に貸し付けたお金は、長期間にわたって返済される
 短期間で返さなければいけないお金と、長期間経たないと返ってこないお金のアンバランス
 → このため、大勢の一般の人が預金を下ろしに行くと、銀行は支払い不能になる

事件の舞台である愛知県宝飯郡小坂井町の様子(当時)
 人口1万9千人
 町の中心部は、狭い道路に沿って家屋が並ぶ街村
 よそ者が増えてきた
 最近、町のはずれに、紡績工場やソース工場ができる
 豊橋市や豊川市のベッドタウン化
 在日韓国人が多い
 豊川信用金庫小坂井支店は、町の中心部に位置
 農協と郵便局を除くと、金融機関は豊信だけ。「おらが金庫」
 世帯数4200の小坂井町で、預金口座数およそ1万

事件の経過(徳岡 1987: 2-6)
 概況
 1973年12月13日、「豊川信用金庫があぶない」あるいは「つぶれる」という事実無根のうわさによって、豊川信用金庫小坂井支店で取り付け騒ぎが起きる
 翌14日、このデマのため、多くの預金者が、小坂井支店を始め、本店、その他の8支店に押しかけ、パニックになった。
 15日には、マスコミのキャンペーン、日銀・大蔵省・警察などの懸命の努力によって、パニックは沈静化に向かった。
 13日から17日までの間に、「異常に」引き出された預金高は、およそ20億円、のべ人数(口座数)にして6600に達した。豊川信用金庫の総預金量は、360億円(1973年11月末時点)。
 デマ伝達の過程
 発端は、女子高生のたわいない冗談(12月8日)
 12月8日朝、国鉄飯田線で通学途中の三人の女子高生A・B・Cが就職の話をしていた。豊川信用金庫に就職が内定していたAに、Bが「信用金庫は危ないわよ」と冗談を言った。
 この冗談を、Cが真に受けて、下校後、寄宿先の豊川市国府のおばDに話した。CとDの会話で、信用金庫は、豊川信用金庫と特定される。
 うわさの潜伏期間(12月8日から12日)
 豊信に190万円の預金をしており、また、7年前、豊川市に本社をもつ「町の金融機関」の倒産で大きな損害を受けた経験をもつDは、不安になって、その8日夜、豊信本店近くに住む実兄の妻Eに、「うちの近所に豊川信用金庫があぶないといううわさがあるが、本当かどうか調べてほしい」と電話する。
 Eは、9日夜、近くの美容院に行ったとき、そこの女主人Fにうわさを伝えた。
 Fは、自宅に遊びに来ていた妹Gに話す。
 Gは、翌日10日、里帰りをしたとき、親との茶飲み話で、このうわさを話題にした。ちょうどそのとき、小坂井町のクリーニング店主Hが、ご用聞きに来て、親子の会話に加わった。
 Hは、帰宅後、妻Iにうわさを伝えた。このときは、HとIは、どちらも半信半疑だった。
 うわさの拡大(12月13日午前)
 13日、午前11時半頃、クリーニング店に知人が電話を借りに立ち寄った。この知人は、自宅に電話をし、「豊川信用金庫にすぐ行き120万円おろすように」と指示をした。この知人の電話は、純粋な商用のもの。
 この電話を何気なく聞いていたIは、夫Hの聞いてきたうわさは本当だったのかと早合点する。
 Iは、出先のHを呼び戻し、豊信から自分たちの預金180万円を引き出すとともに、日頃お世話になっているお得意様にご恩返しをするのはこの時とばかりに、手分けをして電話をした。また、近所に出向いて、得意先・友人・知人に、「善意」でうわさを伝えまくった。
 取り付け騒ぎへ発展(12月13日午後)
 13日正午すぎ、豊信小坂井町支店では、預金の払い戻しを求める人の多さに首をかしげていた。「豊川信用金庫が危ない」といううわさが町に流れていることを銀行側が知った頃には、預金引き下ろしのために銀行にタクシーで乗り付ける人が出ていた。
 タクシー運転手の話
 昼頃の客:「豊川信用金庫が危ないらしい」
 2時半頃の客:「危ない」
 4時半頃の客:「つぶれる」
 夜の客:「もう明日はあそこのシャッターはあがるまい」
 13日、小坂井支店から、59人が約5000万円の預金を引き下ろした。
 うわさがうわさを呼ぶ──銀行側の打つ手も焼け石に水(12月14日)
 翌14日朝、小坂井支店の前には、開店前から20人くらいの預金者の列ができていた。
 銀行の「当銀行の安全性について、常務理事が2階で説明します」という張り紙は、「倒産整理の説明会」と客から誤解された。
 短時間のうちにできるだけ多くの客に払い戻しをしようと、万単位の金額にしたところ、「1万円以下は切り捨てになるそうだ」とうわさされた。
 利子計算に時間がかかるから、とりあえず元金だけを返したところ、「利子を払えないのはやっぱり経営がおかしいからだ」とうわさされた
 手元の現金がなくなったので、東海銀行から現金を回してもらうと、「よその銀行に助けてもらわなければならないのか」と言われる。
 雑踏整理と警戒のために派遣された警官を見て、「銀行の立ち入り捜査が行われている」と曲解された
 通常の閉店時間が迫ったため、並んでいる客に翌日の整理券を渡すと、「倒産する会社からこんなものもらって何になる」と怒鳴られる
 14日、小坂井支店では、夜10時過ぎまでかかって、1650件、4億9000万円を預金者に払い戻した
 騒ぎの沈静化(12月15日)
 15日、警察発表によって沈静化。

結論
 「豊信が危ない」という予言をきっかけに、豊川信用金庫が倒産しそうだと考えて人びとが預金をおろしに行くと、そうした予言がなければ、倒産とは無縁だった豊信が、実際に倒産しかけた


豊川信用金庫の例から学ぶべきこと
(1)相互因果性の認識(徳岡 1987: 26-33)
 予言と人の行動が、互いに他の原因となる
 予言にもとづいて人は行動し、人の行動によって予言が正しいように見える
 自然現象に対する予言と社会現象に対する予言の違い
 自然現象に対する予言には、予言によって自然が動くことはあり得ない=相互因果性が成り立たない
 ノストラダムスが、地球が滅びるといっても、地球がその予言を真に受けることはない=予言の自己成就は起こらない
 社会現象に対する予言の自己成就
 第1段階:予言によって、人が動く
 第2段階:動いた人によって、予言が本当らしく見えるようになる
 第3段階:本当らしく見えるようになった予言によって、さらに多くの人が動く
 その他:うわさに尾ひれがつく
 ピグマリオン効果(教育学)
 教師による成功の期待 → 生徒のやる気を生む → 生徒のさらなる成功 → 教師によるさらなる成功の期待
 教師による失敗の期待 → 生徒のやる気を阻害 → 生徒のさらなる失敗 → 教師によるさらなる失敗の期待
 患者に病名を告知することは、ピグマリオン効果を生むかもしれない
 差別の例
 白人の偏見と黒人の水準は、互いが他の原因となる=相互因果性
 白人の黒人に対する偏見→黒人の低生活水準(低所得水準→低生活水準→低教育水準→賃金獲得能力の低さ)→白人の黒人に対する偏見を支持する

(2) 意図せざる結果の認識
 誰も豊信を倒産させようとは、思っていない
 「豊信があぶない」という電話をした人も、善意から電話をしている
 意図せざる結果:善が悪を生む、悪が善を生む
 豊信の例は、善が悪を生む例
 陰謀理論:悪が悪を生む、善が善を生む=常識的な思考パターン
 町の長老・評論家・オピニオンリーダー「この裏には、必ずもっと組織的な陰謀がある」
 派生的デマ
 朝鮮人が豊信に融資に行ったが断られ、腹いせにデマを流した
 同様に、「××部落」、紡績工場の労働組合
 「社会は、個人の総和以上の存在」=社会の創発特性

(3)複眼的視点(徳岡 1987: 18-20)
 事実を知るためには、複数の情報ソースからデータを集め、総合的に判断する必要がある
 事例:『火星からの侵入』というラジオドラマが全米でパニックを引き起こす
 1938年10月30日夜、コロンビア放送は、ウェルズ作『宇宙戦争』をラジオドラマとして放送
 『宇宙戦争』は、トム・クルーズ主演、スティーブン・スピルバーグ監督で、2005年に映画化
 少なくとも600万人が放送を聞き、100万人が火星人の侵入におびえ逃げまどった。
 パニックに陥らなかった人
 他のラジオ局でも、火星人侵入のニュースを伝えているか確認した。


参考文献
 作田啓一・井上俊編, 1986, 『命題コレクション社会学』 筑摩書房.
 徳岡秀雄, 1987, 『社会病理の分析視角──ラベリング論・再考』 東京大学出版会.
 伊藤陽一・小川浩一・榊博文, 1974, 「あるデマの一生」 『文藝春秋』(1974年4月号)

社会病理の分析視角―ラベリング論・再考 (現代社会学叢書)
東京大学出版会
徳岡 秀雄

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