多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」

これまでのブログ記事で、多様な教育機会確保法(義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律)の条文案(2015年8月11日付け未定稿)に示された「目的」(第1条)、「基本理念」(第2条)、「国と地方公共団体の責務」(第3条・4条)、「財政上の措置等」(第5条)「基本方針」(第6条)と「多様な教育機会の確保に関する施策」(第7~11条)について見てきました。今回のブログ記事では、「個別学習計画の認定と修正」(第12・13条)について見ていきたいと思います。


なお、条文案(未定稿)については、下記のサイトで見ることができます。

多様な教育機会保障(仮称)法、未定稿条文案が発表(不登校新聞)
http://futoko.publishers.fm/article/9058/

条文(未定稿)(ますます不登校の子どもが追いつめられる!? 9・9「多様な教育機会確保法案」緊急大検討会)
http://150909.jimdo.com/%E6%9D%A1%E6%96%87-%E6%9C%AA%E5%AE%9A%E7%A8%BF/


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多様な教育機会確保法(抜粋)

 (個別学習計画の認定)
第十二条 相当の期間学校を欠席している学齢児童又は学齢生徒であって文部科学省令で定める特別の事情を有するため就学困難なものの保護者(学校教育法第十六条に規定する保護者をいう。以下同じ。)は、文部科学省令で定めるところにより、当該学齢児童又は学齢生徒の学習活動に関する計画(以下「個別学習計画」という。)を作成し、その居住地の市町村(特別区を含む。以下同じ。)の教育委員会に提出して、その個別学習計画が適当である旨の認定を受けることができる。
2 個別学習計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 学齢児童又は学齢生徒及びその保護者の氏名並びに当該学齢児童又は学齢生徒の学習及び生活の状況に関する事項
二 学習活動の目標
三 学習活動の内容及びその実施方法に関する事項
四 当該学齢児童又は学齢生徒の保護者以外の者が個別学習計画に従った学習に対する支援を行う場合にあっては、次に掲げる事項
 イ 当該支援を行う者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
ロ 当該支援の内容及び実施方法に関する事項
ハ 当該保護者との連携に関する事項
五 その他文部科学省令で定める事項
3 市町村の教育委員会は、第一項の認定の申請があった場合において、当該申請に係る個別学習計画が次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、その認定をするものとする。
 一 当該個別学習計画に係る学齢児童又は学齢生徒が相当の期間学校を欠席しており、かつ前項第一号に掲げる事項が第一項に規定する特別の事情に該当すること。
 二 文部科学省令で定める事項を勘案して、当該学齢児童又は学齢生徒が学校に在籍しないで前項第三号に掲げる事項に従った学習活動を行うことが適当であると認められること。
 三 前項各号に掲げる事項が基本指針に照らして適切なものであること。
 四 前号に定めるもののほか、当該学齢児童又は学齢生徒の発達段階及び特性に応じつつ学校教育法第二十一条各号に掲げる目標を達成するよう定められていることその他の文部科学省令で定める基準に適合するものであること。
4 市町村の教育委員会は、第一項の認定(第十五条第二項の規定による認定の取消しを含む。)を行おうとするときは、教育学、心理学、児童の福祉等に関する専門的知識を有する者の意見を聴くほか、必要に応じ、相当の期間学校を欠席している学齢児童若しくは学齢生徒の学習活動に対する支援に係る実務の経験を有する者の意見を聴くものとする。

 (個別学習計画の変更)
第十三条 前条第一項の認定を受けた保護者は、個別学習計画の変更(文部科学省令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは、市町村の教育委員会の認定を受けなければならない。
2 前条第三項及び第四項の規定は、前項の認定について準用する。

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第12条は、「個別学習計画の認定」について定めています。

この個別学習計画は、保護者を中心に多くの懸念が寄せられています。2015年7月26日に開催された多様な学びを実現する会等による公開イベントにおいても、かなりの時間を割いて、この個別学習計画をめぐって意見交換がなされました。また、2015年7月30日開催の多様な教育機会確保法立法チーム第7回会合でも、個別学習計画の認定をめぐって議員間で議論になったようです。立法チームの座長を務める馳浩議員は、自身のブログで、

「そして、条文化に向けては、個別学習計画の認定という手続きが、議員間での論点となる。就学義務の特例を作る以上は、それに代わる公教育の担保が必要。そんなに高いハードルにしてはならないし、さりとて、何をしてもいいというわけにはいかない。現行のフリースクールを支援できるようにもすべきだし、まずは子どもの学習権の確保が重要。それ以前に、そもそも、不登校児を生み出さないような学校教育や、教育委員会の支援が必要。さて。」(7月30日(はせ日記))

と書いています。さらに、2015年8月11日に開催された超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充議員連盟合同総会でも、出席議員から「①個別学習計画のところと、みなし就学義務規定のところは外せないのか?」(はせ日記8月11日)という意見が出たようです。この個別学習計画は、今回の多様な教育機会確保法案をめぐる大きな論点の一つです。

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

7月30日(はせ日記)
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12056607703.html

8月11日(はせ日記)
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12060893942.html



第12条第1項は、個別学習計画認定の申請要件を定めています。

この第1項には「その居住地の市町村(特別区を含む。以下同じ。)の教育委員会に提出して、その個別学習計画が適当である旨の認定を受けることができる。」と書かれています。文末が「認定を受けることができる」となっていることから、個別学習計画の手続きが「強制ではない」ということがわかります。個別学習計画の作成や提出は、あくまで「保護者の自発的な意思」にもとづいて開始されるということです。

そして、保護者が個別学習計画を市町村教育委員会に提出できる要件として、(1)相当の期間学校を欠席、かつ、(2)文部科学省令で定める特別な事情、という二つをともに満たすことが定められています。


この文部科学省令は、多様な教育機会確保法の成立後に、新しく定められるものです(第21条)。法令の種類としては、「省令」と呼ばれるものです。省令は、国民の代表である国会(立法府)の定めた法律にもとづいて、各大臣(行政府)がその法律の具体的な施行方法を定めたものです。

憲法 > 条約 > 法律 > 政令 > 省令

という序列があります。

学校教育法(法律)について学校教育法施行規則(省令)があるように、多様な教育機会確保法(法律)の成立後に、「多様な教育機会確保法施行規則」といった名称の新たな省令を定めることになります(第21条)。つまり、多様な教育機会確保法という法律で、多様な教育機会の確保について大枠を定めて、細かい具体的な制度設計は、新しい文部科学省令に委ねるというかたちです。

法令の種類を知ろう①(国民生活センター)
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201208_13.pdf


肝心の文部科学省令がまだないので、「相当な期間学校を欠席」とは具体的には「何日以上の欠席」を指すのか、また、「特別な事情」とは具体的には「何か」という疑問には、今回の条文案からは答えられません。わかるのは、「欠席日数」と「特別な事情」の両方の要件を満たすことが、個別学習計画認定の申請に必要だということだけです。細かい規定は、文部科学省令を定めるための今後の議論に委ねられています。


さて、個別学習計画認定の申請要件の一つに挙げられた「欠席日数」ですが、私は、要件から外したほうがいいと感じています。というのは、「欠席日数」と「子どもが置かれた厳しい状況」は必ずしも比例しないと思うからです。

以前のブログ記事でも書いたように、多くの子どもは学校に行かねばならないと考えていて、しんどくても無理して学校に通い続けています。そのため、いよいよ学校に行けなくなったときは、心身ともに疲れ果てています。学校に行こうとしても、身体が動かないのです。

こういう経緯を経て学校に行けなくなった初日、欠席日数はわずか「1日」にすぎません。しかし、子どもの置かれた状況は「厳しい」と言えるのではないでしょうか。仮に個別学習計画提出の要件が「欠席日数30日」(文部科学省の不登校の定義より)となった場合、こうした状況に置かれた子どもは、手続きを開始するのにわざわざ29日間待つ必要が生じてしまいます。

また、いじめられている子どものなかには、「学校を休んだら自分の負けだ」と意地を張って、学校を休まない子どももいます。そういう子どもの存在を考えると、欠席日数が「0日」であっても、省令に定める「特別な事情」に該当するならば、個別学習計画の提出を認めたほうが良いように思います。学校でいじめられているのもかかわらず、そこに通い続けることは、命の危険につながります。

このように、子どもの状況に合わせた柔軟な対応を難しくする「欠席日数」という要件はなくしたほうが良い思います。

多様な教育機会確保法(仮称)案への関係者の期待①──心理的負担の解消(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_8.html



第12条第2項では、「個別学習計画に記載すべき事項」が定められています。

保護者が直接子どもの学習計画を実施する場合に記載すべき事項は、

・子どもと保護者の氏名
・子どもの学習と生活の状況
・学習の目標
・学習の内容
・学習の実施方法

です。
保護者が子どもをフリースクール等(個人を含む)に通わせて学習計画を実施する場合は、上記の事項に加えて、

・フリースクール等の名称、住所、代表者氏名
・フリースクール等の学習内容
・フリースクール等の学習実施方法
・フリースクール等と保護者の連携方法

を追加で記載する必要があります。

ただし、第5号に「その他文部科学省令で定める事項」とあるので、省令によっては、さらに記載すべき事項が増える可能性があります。



第12条第3項は、市町村教育委員会による「個別学習計画認定の基準」を定めています。以下の各号の規定を「すべて」満たす必要があります。

第1号:欠席日数と特別の事情が該当するか
第2号:学校へ行かずに個別学習計画を実施するほうが適当か
第3号:個別学習計画の内容が文部科学大臣の定める基本指針(第6条)に照らして適当か
第4号:個別学習計画は学校教育法第21条各号を達成できるか、その他の省令の基準に適合するか

この第3項も、第4号の最後に「その他の文部科学省令で定める基準に適合するものであること」と書かれているので、今後、認定基準が増える可能性があります。第3号にある「基本指針」も、これから定めることなので、具体的な内容は未定です。


第12条第4項は、個別学習計画を認定する際に「専門家の意見」を必ず聴くことを定めています。2015年5月27日の座長試案2頁の図にあった「教育支援委員会(就学指導委員会等)の審査」が該当すると思われます。しかし、条文案の文言を読むかぎりでは、必ずしも会議をする必要はなくて、専門家一人に意見を聴くだけでもよいのかもしれません。


第13条(個別学習計画の変更)は、個別学習計画の変更にも、第12条の認定手続きと同様な手続きが必要であることを定めています。計画の変更は簡単にできなさそうです。



この第12条第3項と第4項に定められた個別学習計画の認定手続きを見た私の第一印象は、「手間と時間がかかりそうだ」というものでした。そして、「保護者と市町村教育委員会の双方にとって、かなりの負担になりそうだ」というものです。


もちろん、個別学習計画の認定は、義務教育を受ける権利の保障という重大なことがらなので、慎重に審査をする必要があります。また、認定後に何か問題(児童虐待や死亡事故など)が生じれば、認定した市町村教育委員会も責任を問われる可能性があると思うので、そういう点でも審査は慎重にならざるをえないでしょう。

しかし、結果を待つ子どもと保護者の身になってみると、審査は迅速にやってほしいだろうと思います。子どもの成長は早いです。第12条第○項として「個別学習計画の認定結果は、受理した日から1ヶ月以内に保護者に通知するものとする。」といった規定を新たに設けることはできないでしょうか。



さて、具体的な審査手続きを想像してみます。あくまで「想像」です。

まず、個別学習計画に記載された「子どもの学習および生活の状況」が、省令の定める「特別の事情」に該当するか、実際に教育委員会が「調査」する必要があるだろうと思います。

教育委員会は、学校にお願いして、学校でのその子どもの様子をまとめてもらい、報告してもらうことになるのではないでしょうか。報告の依頼を受けた学校も、報告のために、クラスの担任や子どもたち、養護教諭、スクールカウンセラーなど関係者に話を聴く必要があるでしょう。審査結果に疑義が出された場合などに備えて、文書としてまとめる必要もあるでしょう。しかし、依頼された学校も、近年、多忙を極めています。「OECD国際教員指導環境調査」(2013年)によれば、日本の中学校等教員の1週間当たりの勤務時間は53.9時間で、参加国平均38.3時間を大きく超えています。

さらに、教育委員会は、申請を行った保護者と子ども本人から、直接、状況や事情、意向などをきちんと聴き取って、文書化する必要があるだろうと思います。第2条第1号に「義務教育の段階に相当する普通教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重し」と書かれているので、個別学習計画が子ども本人の意向や最善の利益にかなうかどうかは、認定の重要なポイントになるだろうからです。

そして、第2項第4号の「保護者以外の者が個別学習計画に従った学習に対する支援」をする場合は、「保護者以外の者」に関する調査も欠かせません。個別学習計画に記載された「保護者以外の者」が実在するのか。記載どおりの「支援の内容及び実施方法」が可能かどうか。「保護者との連携」がきちんととれているかどうか。一つ一つ調べていく必要があります。

以上のような情報収集の後、教育委員会は、保護者が作成した個別学習計画、学校からの報告書、子ども本人と保護者から聴き取った内容を記した文書、保護者以外の支援者に関する調書などを取りまとめて、どういう審査結果が妥当かについて原案を考えます。

その上で、第12条第4項に定められた専門家会議(教育支援委員会、就職指導委員会など)を開催して、審査結果原案の審議をお願いすることになるだろうと思います。この専門家会議の場で、教育委員会が事前に収集したさまざまな情報を参照しながら、個別学習計画が第12条第3項の第1号から第4号の認定要件をすべて満たしているかどうかを判定することになるでしょう。

これだけの審査手続きをすれば、すぐに1ヶ月くらいは経ってしまいそうです。当初の個別学習計画が認定されず、書き直して再提出ということにでもなれば、さらに同じくらいの時間と手間がかかってしまいます。

もし全国12万人の不登校の子どもが全員、個別学習計画を提出したら、全国の市町村教育委員会は、上記ような手続きを12万人分しなければならないことになります。これは、相当な作業量だと思います。審査をお願いする専門家に謝礼も支払わねばなりません。

OECD国際教員指導環境調査(国立教育政策研究所)
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/

先生の負担1位「国の調査」で皮肉(web R25)
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20150731-00043992-r25

「学校現場における業務改善のためのガイドライン」の公表について(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/07/1360291.htm



ところで、現行の制度でも、「いじめや不登校など」を理由とした学校(一条校)間の転校(就学指定校の変更)は認められています。手続きの実際は、下記のようになっています。

就学指定校の変更(富山市)
http://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/4150/1/230401.pdf

2.就学校の指定変更[いじめ、不登校等に関連した指定校変更](文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/06041014/005/002.htm

11.いじめ・不登校などの事情に配慮した指定校変更(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_12.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_13.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_14.pdf


学校教育法のもとで教育課程・教員・施設などが同じ基準で運営されている学校(一条校)間の就学指定校変更でさえ、かなり慎重に手続きがおこなわれていることがわかります。

学校外で義務教育の実施を認める個別学習計画の認定は、学校(一条校)間の就学指定校変更手続きよりも慎重におこなう必要があるでしょう。個別学習計画に書かれる学習の実施方法には、学校のような統一基準がなく、まさに千差万別だからです。その千差万別な個別学習計画を、第12条第3項の第1号から第4号の認定要件をすべて満たしているかどうかを判定するのは至難の業のように思われます。個別学習計画の審査の作業は、難航するのではないでしょうか。

審査の件数も問題となります。公立の小中学校間でいじめ・不登校を理由にした指定学校変更件数実績は、上記の資料によれば、静岡市や千葉市といった政令市でも、多くて年間20件程度です。不登校の小中学生の数は約12万人です。日本の人口が約1億2千万人なので、だいたい人口1000人に1人くらいの割合で不登校の子どもがいる計算になります。政令指定都市(静岡市も千葉市も政令指定都市))の要件である人口50万人で計算すると、不登校の小中学生は約500人です。8割の不登校の子どもの保護者が個別学習計画を提出したら、400件の審査をすることになります。これは、これまでの20倍です。もちろん、500人という数字は義務教育9年間の積み重ねなので、毎年新しく不登校になる小中学生は約50人と考えられます。それでも、これまでの2倍の数の、より困難な個別学習計画の審査をするのは、市町村教育委員会にかなりの負担となるように思います。


ところで、第12条第3項第4号の認定基準にある「学校教育法第二十一条各号に掲げる目標を達成」ですが、学校教育法第21条は次のようになっています。

「第二十一条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。」

学校教育法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO026.html


多様な教育機会確保法案は、これらの10項目の「達成」を求めています。


保護者の提出した個別学習計画がこうした学校教育法第21条各号を達成できると市町村教育委員会が判断するのに、いったい、どれくらいのページ数の個別学習計画が必要になるのでしょうか。

ちなみに、学校(一条校)において学校教育法第21条の各号を達成するために文部科学大臣が告示しているのが、学習指導要領です。学校教育法施行規則第52条に「小学校の教育課程については、この節に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。」と定めがあり、こうした学習指導要領に準拠した教科書をもちいて授業がおこなわれています(中学校については第74条)。下記のURLの通り、小学校学習指導要領は104ページ、中学校学習指導要領は108ページあります。

小学校学習指導要領(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/11/29/syo.pdf

中学校学習指導要領(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/__icsFiles/afieldfile/2010/12/16/121504.pdf


もちろん、多様な教育機会確保法の個別学習計画が、学習指導要領のようなものになると言っていません。参考までに、「学校の」学習計画はこうなっているということを例として示したかっただけです。学校関係者が個別「学習計画」と聞いたときに、こうした学習指導要領のようなものをイメージするかもしれないということです。


実は、第12条第3項第4号の「学校教育法第21条各号の達成」の文言の直前に、「当該学齢児童又は学齢生徒の発達段階及び特性に応じつつ」という限定があります。これは、「最終的には、学校教育法第21条各号を達成すべきだが、途中のプロセスは、子どもの状況に合わせて柔軟にしてよい」というように読めます。この限定の文言によって、個別学習計画が学習指導要領のようにはならないとは思います。だからと言って、標準的な個別学習計画が何ページくらいになるのかということもさっぱり見当がつきません。

しかし、一般的に考えて、分厚い個別学習計画のほうが、市町村教育委員会も認定を出しやすいでしょう。ページ数の少ない個別学習計画に認定を出して、後に、子どもの死亡事故などの問題が生じたら、市町村教育委員会の審査手続きが非難のやり玉にあがらないともかぎらないからです。「教委 子どもを見殺し ずさんな審査」といった新聞の見出しが目に浮かびます。


これまで見てきたとおり、第12条に定められた個別学習計画の認定の手続きを見るかぎり、保護者にとっても、市町村教育委員会にとっても、負担感がかなり大きいように感じます。



伝え聞くところでは、多様な教育機会確保法の立法チーム座長を務める馳浩議員は、学校外で学ぶ子どもたちに共感的で、できるだけ現状追認するようなかたちでの個別学習計画の認定を考えているようです。つまり、子どもの意思を尊重して、可能な限り、子どもが現在学んでいる状態を認めていくという意向のようです。例えば、馳議員は、自身のブログで、

「現状は、学校に復帰することを前提に、文部科学省からの通知などでフリースクールや不登校児への支援を対応している。この、「学校に復帰」を大原則にしていることに対する負担感を和らげるために、みなし制度として、フリースクールやホームワークや適応指導教室などの子どもの居場所を確保し、「そこで学んでいてもいいんだよ」との安心感を与える制度として、個別学習計画を市町村教委に認定させることをかませたわけだ。これで二重学籍の解消策。」(はせ日記7月2日)

と書いています。

しかし、法律は条文がすべてであるように思います。馳議員の思いはいつか忘れられ、法律の条文にしたがって粛々と手続きがおこなわれることになるのではないかと思います。今回の条文案を見るみるかぎり、個別学習計画の認定手続きは、保護者と市町村教育委員会の双方に大きな負担をあたえるように感じます。

7月2日(はせ日記)
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12046012832.html




何かよい対策はないでしょうか。


私が考えるのは、「学校以外で義務教育を実施できる教育機関の認定手続きを新たに創る。事前に認定された教育機関で学ぶことになっている個別学習計画は、子ども本人の意思を確認した上で、市町村教育委員会が自動的に認定する」という方法です。


多様な教育機会確保法案は、学校教育法の特例を認めるという位置づけの法律だと思います。現在の学校教育の制度上、義務教育の就学に関することは市町村教育委員会が所管しているので、義務教育の特例(多様な教育機会の確保)についての事務手続きも市町村教育委員会がおこなうことになるだろうと思います。そして、その事務手続きに必要な書類の一つとして「個別学習計画」を提出しなければならないことも、制度上、仕方がないでしょう。


しかし、個別学習計画の作成と審査を簡略化する方法はあると思います。その一つが「事前に教育機関を認定しておく」という方法です。事前に認定された教育機関で学ぶことになっている個別学習計画については、市町村教育委員会が、子ども本人の意思さえしっかり確認できれば、ほぼ自動的に認定するという取り扱いを認めるのです。こうすれば、保護者が作成する個別学習計画は、A4一枚両面程度で済むのではないでしょうか。また、市町村教育委員会の負担も、子どもの現状に関する調査と面談だけになるように思います。そして、こうした方法を可能にするには、

「第12条第○項 国等の認定を受けた教育機関で学ぶ個別学習計画ついては、市町村の教育委員会は、第12条第3項・第4項の規定によらずに認定することができる。」

といった内容の条文を、多様な教育機会確保法案に盛り込んでおく必要があると思います。


もちろん、教育機関の認定については、いろいろと懸念や不安があるところです。もしかすると、それぞれの教育機関がおこなっている学習内容の多様性を失わせてしまうかもしれません。国が認定する方法の他にも、こうした懸念を払拭するために、国から独立した認定団体を創設して、そこが教育機関を審査・認定するやり方も考えられます。また、認定手続きにともなって、教育機関の負担が増えることはまちがいありません。したがって、慎重な議論が必要です。


あるいは、国等から教育機関が「認定」を受けるというかたちに抵抗感があるならば、多様な教育機会の確保に関して教育機関と「国や地方公共団体と協定(もしくは契約)を結ぶ」というやり方でも良いのかもしれません。これならば、対等な立場になりますし、認定にくらべて協定内容の自由度も高いでしょう。もし、協定締結による認定手続きの簡略化を認めるならば、先の追加条文案は、

「第12条第○項 国または地方公共団体と多様な教育機会の確保に関する協定を結んだ教育機関で学ぶ個別学習計画ついては、市町村の教育委員会は、第12条第3項・第4項の規定によらずに認定することができる。」

という感じになろうかと思います。


ただし、「協定(契約)」で気をつけないといけないのは、協定の場合は、国や地方公共団体の行政側に「協定を結ばない自由」があるということです。つまり、「行政側が教育機関を選べる」ということです。

その点、「認定」のほうは、認定の要件さえみたしていれば、認定されるので、行政の恣意性は「協定」の場合よりも少ないと言えます。認定結果に疑義があれば、抗議もできるでしょう。

そう考えると、行政と考え方が近い教育機関は「協定」のほうが有利でしょうし、逆に、行政と考え方が遠い教育機関は「認定」のほうが有利でしょう。行政と考え方が遠いと、そもそも協定を結ぶための協議を門前払いされる可能性が強いからです。


このように考えると、「認定」と「協定」の両方の方法があってもいいのかもしれません。



いずれにせよ、このような提案をするのは、多様な教育機会の認定に関わる負担は、保護者が負うよりも、教育機関が負うほうが望ましいと思うからです。


まず、不登校で子どもが悩みや苦しみのなかにあるとき、保護者も同様に、悩みや苦しみの渦中にあります。また、多くの保護者は、子どもが学校に通ってあたり前だと思っているので、子どもが不登校になるまで、学校以外の学習の場についてほとんど知らないだろうと思います。そういう状況のなかで、保護者が、満足のいく個別学習計画を作成するのは、かなり難しいと思います。仮に、当初の個別学習計画が失敗だったと思っても、個別学習計画を変更するには、認定手続きをもう一度やりなおす必要があります(第13条)。

また、実際のところ、市町村教育委員会が個別学習計画の認定手続きを重ねていくうちに、教育機関についてホワイトリストやブラックリストが作成されていくはずです。一度調査した教育機関についてもう一度調査するのは時間や手間がもったいないからです。そして、こうしたリストは、しだいに、教育委員会のあいだで秘密裏に共有されていくかもしれません。もし、このような事実上の教育機関の認定がおこなわれるならば、事前に教育機関の認定をしてもさほど違いはないように思います。むしろ、明文化された認定基準にもとづいてオープンに教育機関を認定したほうが、恣意性を排除でき、公平であるようにも思います。

そして、何よりも、教育機関の認定ほうが、個別学習計画よりも件数が少なくて済むでしょう。12万人の不登校の子どもの保護者が全員、個別学習計画を提出すれば、12万件の認定作業が生じます。一方、学校以外の教育機関の数は、先日、文部科学省が発表した「小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査」によれば、調査対象となったフリースクール等の数は474箇所です。また、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によれば、学習塾の数は約1万箇所です。

小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tyousa/1360614.htm

特定サービス産業動態統計調査(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html

特定サービス産業動態統計月報(2015年6月分、経済産業省)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result/pdf/hv201506kj.pdf



この第12条(個別学習計画の認定)は、多様な教育機会確保法案の肝の部分であり、多くの議論を呼んでいるところです。具体的な手続きは、これから策定される新しい文部科学省令に委ねられていますが、今回の条文案を見るかぎりでも、かなり時間や手間のかかる負担感の強いものに思われます。

このままの個別学習計画認定の手続きでは、せっかく法律が成立しても、法律にもとづいて手続きをする保護者は少数にとどまるのではないでしょうか。それでは、この法案がかかげる「目的」(第1条))や「基本理念」(第2条)が台無しになってしまうように思います。


保護者の負担の少ない現実的な手続き方法を考えてほしいと思います。





<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html








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