多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」

前回のブログ記事では、多様な教育機会確保法(義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律)の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」(第1条)と「基本理念」(第2条)について見てきました。今回のブログ記事では、「国の責務」(第3条)、「地方公共団体の責務」(第4条)、「財政上の措置等」(第5条)について見ていきたいと思います。

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html


なお、条文案(未定稿)については、下記のサイトで見ることができます。

多様な教育機会保障(仮称)法、未定稿条文案が発表(不登校新聞)
http://futoko.publishers.fm/article/9058/

条文(未定稿)(ますます不登校の子どもが追いつめられる!? 9・9「多様な教育機会確保法案」緊急大検討会)
http://150909.jimdo.com/%E6%9D%A1%E6%96%87-%E6%9C%AA%E5%AE%9A%E7%A8%BF/



多様な教育機会確保法
「(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念にのっとり、多様な教育機会の確保に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、第二条の基本理念にのっとり、多様な教育機会の確保に関する施策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(財政上の措置等)
第五条 国及び地方公共団体は、多様な教育機会の確保に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めるものとする。」



第3条と第4条は、国と地方公共団体が、第2条の基本理念に則って施策を実施する責務を負うことを規定しています。

しかし、その実施の責務を負う施策に関する「財政上の措置等」(第5条)については、「施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めるものとする。」と「努力義務」にとどまっています。2015年5月27日の座長試案でも「努力義務」でしたが、今回の条文案でも「努力義務」のままです。

施策を実施する責務を国と地方自治体が負いながら、その施策を実施するのに必要な財政上の措置とその他の措置が「努力義務」というのは、理解に苦しみます。十分な予算がなければ、十分な施策もできないだろうと思います。このように考えると、市町村教育委員会が個別学習計画を認定した後は、国や地方公共団体は、不登校の子どもたちの義務教育にお金をかけずに、「保護者と民間団体に丸投げ」するつもりではないかと疑いたくなります。


ところで、義務教育の制度では、子どもの義務教育を受ける権利を保障するために、保護者に就学義務を負わせます。さらに、この就学義務を保護者が履行できるように、国や地方公共団体に学校設置義務や就学保障義務を負わせています(憲法26条、教育基本法4条・5条・16条、学校教育法6条・19条・38条・49条、など)。義務教育制度において、子どもの教育を受ける権利、保護者の就学義務、国や地方公共団体の学校設置義務・就学保障義務はセットです。こうした権利と義務の考え方にもとづいて、子どもたちは、無償で義務教育を受けられるのです。

したがって、多様な教育機会確保法案第5条の財政上の措置等が「努力義務」になっていることは、こうした考えになぞらえば、国や地方公共団体が義務教育について負っている「学校設置義務」や「就学保障義務」を曖昧にするものだと言わざるをえません。


この点について、馳議員の公式ブログによると、8月11日の総会に出席した議員から「④フリースクールの設置義務規定を置けないか?」という意見が出たようです。この意見は、まさに、この第5条(財政上の措置等)における「学校設置義務」と「就学保障義務」の曖昧化に反対する意見で、十分に検討と議論をしてほしいところです。

8月11日(はせ日記)
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12060893942.html


現在、文部科学省が設置している「不登校に関する調査研究協力者会議」では、「不登校児童生徒への支援に関する中間報告」の取りまとめで、「教育支援センター(適応指導教室)の拡充」が議論されています。多様な教育機会確保法が成立すれば、教育支援センターも義務教育としてみなされうるので、これまで適応指導教室がもっていた「学校復帰」(再登校に向けた指導)という目的は取り下げてもよいはずです。多様な教育機会確保法によって教育支援センターが学校復帰や学習指導要領にこだわらずに自由な教育を実施できるようになれば、それは「公立のフリースクール」と言ってもよいのではないでしょうか。


しかし、文部科学省が2015年に実施した「教育支援センター(適応指導教室)の実態調査」によれば、教育支援センターを設置していない都道府県・市区町村教育委員会等は730あり、未設置率は40.3%にも及びます。つまり、設置状況に大きな地域格差があります。

この法律が多様な教育機会の確保をうたうのであれば、最低限、教育支援センターが未設置の教育委員会に設置を義務づけてもよいのではないでしょうか。このまま財政上の措置が不十分であれば、民間のフリースクール等は有償にならざるをえないので、経済的に厳しい家庭の子どもは通えません。そうしたなか、無償で誰でも受け入れる教育支援センターは「学校外の義務教育におけるセーフティネット」という役割を担うことになるだろうと思うからです。

そして、このブログの前々回・前回の記事で主張したように、この教育支援センターにも「どの子どもも、義務教育を受けるのに、同額の税金を使ってもらえる」という原則を適用すべきだろうと考えます。つまり、教育支援センターに、「在籍する子どもの数×年間100万円」という予算をつけてほしいと思います。ただし、教育支援センターには、民間のフリースクール等の授業料が払えない経済的に厳しい子どもが多数集まる可能性も高いので、所得の再分配という観点から、一人あたり100万円を超える税金を投入してもよいように思います。

不登校に関する調査研究協力者会議(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html



ここまで、財政上の措置が不十分になりそうな点について、いろいろと批判をしてきました。しかし、今後の希望がないわけではありません。それは、次のような附則第2項の定めです。

「(検討)
2 政府は、速やかに、多様な教育機会の確保のために必要な経済的支援の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」

これは、学校外の義務教育に対する経済的支援の検討と実施を政府に求める条文です。非常に画期的だと思います。

2015年5月27日の座長試案2頁の図における右下隅の「経済的支援 家庭に対する経済的な支援を行う。※具体的仕組みはさらに検討。」の部分を条文化したものだと思われます。多様な教育機会確保法成立後に政府が新たな法律をつくって経済的支援の具体的な仕組みが確立すれば、この条文は不要になります。そこで、附則に盛り込まれたのだろうと思います。


経済的支援の対象者・団体や金額などはわかりませんが、その検討と実施は、多様な教育機会確保法成立後の「政府の宿題」になるということです。公の支配に属しない教育等への公金支出を禁じた憲法第89条の規定があるので、経済的支援の対象は、団体や機関ではなく、子ども本人(あるいは、就学義務を負う保護者)になるのではないでしょうか。しかし、私立学校に対して政府が経済的支援をする私立学校振興助成法のように、学校法人を対象とする助成金制度もあります。

日本国憲法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

私立学校振興助成法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S50/S50HO061.html


また、附則第2項の条文には「速やかに」という文言があります。しかし、具体的な期限が切ってあるわけではないので、経済的支援がいつ実現するかは定かではありません。ちなみに、私立学校振興助成法が制定されたのは、私立学校法の制定後26年経った1975年でした。


財政上の措置や経済的支援が不十分であれば、多様な教育機会確保法によって生み出される新しい学校外の義務教育の多くは「有償」になりかねません。多様な教育機会確保法は、第一条に「義務教育の段階に相当する普通教育を十分に受けていない者に対する当該普通教育の多様な機会の確保」と掲げているように、社会的に不利な立場にある子どもの救済や支援を目的としています。それにも関わらず、経済的に厳しい家庭の子どもが、この法律が創り出す新たな教育の機会を利用できないのであれば、まったくの本末転倒です。

「有償」の義務教育は、日本国憲法にも、教育基本法にも、子どもの権利条約にも反します。附則第2項の「速やかに」が有言実行であることを祈ります。




<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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