多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」

報道でも伝えられているとおり、2015年8月11日に、超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充議員連盟合同総会が開催され、多様な教育機会確保法(義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律)の条文案(未定稿)の審査がおこなわれました。総会は、1時間程度だったようです。総会の最初に、夜間中学校等義務教育拡充議員連盟会長・超党派フリースクール等議員連盟幹事長で、多様な教育機会確保法の立法チーム座長を務める馳浩衆議院議員が、挨拶と条文案の説明をした後、出席議員による質疑応答・意見交換がおこなわれたということです。NHKによれば、議員連盟は、今後、教育関係者らからも意見を聞いたうえで、9月上旬に法案を取りまとめ、今の国会への提出を目指すということです。法案が成立した場合の施行日は、調整中ということですが、2017年4月1日が予定されています。馳議員によれば、条文案が審査されるのは、すでに立法チームで2回おこなっているので、3回目ということになるそうです。

8月11日(はせ日記)
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12060893942.html


なお、条文案(未定稿)については、下記のサイトで見ることができます。

多様な教育機会保障(仮称)法、未定稿条文案が発表(不登校新聞)
http://futoko.publishers.fm/article/9058/

条文(未定稿)(ますます不登校の子どもが追いつめられる!? 9・9「多様な教育機会確保法案」緊急大検討会)
http://150909.jimdo.com/%E6%9D%A1%E6%96%87-%E6%9C%AA%E5%AE%9A%E7%A8%BF/


総会で出された論点については、上記の馳議員の公式ブログ(8月11日)で紹介されています。法案の本質に関わる突っ込んだ意見も多数出されたようで、馳議員は、「条文審査らしいやりとりが展開」されたと総会を総括しています。



さて、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(多様な教育機会確保法案)です。目次は、

第一章 総則(第一条─第五条)
第二章 基本指針(第六条)
第三章 多様な教育機会の確保に関する施策(第七条─第十一条)
第四章 個別学習計画(第十二条─第十八条)
第五章 夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供等(第十九条・第二十条)
第六章 雑則(第二十一条)
附則

となっています。

このうち、今回のブログ記事では、2015年8月11日に公表された条文案の「目的」(第1条)と「基本理念」(第2条)について見ていこうと思います。



多様な教育機会確保法
「(目的)
第一条 この法律は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)及び児童の権利に関する条約等の教育に関する条約の趣旨にのっとり、義務教育の段階に相当する普通教育を十分に受けていない者に対する当該普通教育の多様な機会の確保(以下「多様な教育機会の確保」という。)に関する施策に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、基本指針の策定その他の必要な事項を定めることにより、多様な教育機会の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とする。」


第1条(目的)では、2015年5月27日公表の座長試案にはなかった「児童の権利に関する条約等の教育に関する条約の趣旨にのっとり」という文言が新しく入りました。


日本政府が批准している国際条約は、日本国内でも法的効力をもちます(憲法第98条)。法令は上位下位関係がはっきりありますが、一般に、

憲法 > 国際条約 > 法律(国内法) > 政令 > 省令

という関係にあると言われます。下位の法令が、上位の法令に反することはできません。


子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)は、18歳未満の子どもすべてを対象にした国際条約で、日本は1994年に批准しています。子どもの権利条約では、子どもに関するすべての措置がその子どもの「最善の利益」に照らしておこなわれるべき原則を規定(第3条)しています。その上で、教育についての機会の平等を達成するために、初等教育(小学生相当)の無償を定め、中等教育(中学生・高校生相当)を無償にする努力を求めています(第28条)。こうした教育が目指すべきものとして、

「(a) 児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(b) 人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。
(c) 児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。
(d) すべての人民の間の、種族的、国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること。
(e) 自然環境の尊重を育成すること。」

という5点を掲げています(第29条)。多様な教育機会確保法案は、外国籍の子どもに義務教育を受ける機会を保障しようとしています(第2条)。子どもの権利条約は、上記の第29条(c)(d)や第30条のように、各自の民族性(言語や文化など)を尊重した教育を求めています。

また、子どもの権利条約は、休息や遊びについての子どもの権利も認めています(第31条)。多様な教育機会確保法案の個別学習計画に対しては、「不登校の子どもにまず必要なのは、学習ではなく『休息』だ」という批判が保護者を中心に出されています。子どもの権利条約第31条は、子どもの休息を守る法的根拠をあたえてくれると思います。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html

子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳(ユニセフ)
http://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/syo1-8.htm


子どもの権利条約以外では、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」(日本は1979年に批准)の第13条などが該当すると思います。

また、2014年に日本が批准した「障害者の権利に関する条約」の第24条では、インクルーシブ教育の原則が定められています。これは、障害者が自分の生活する地域社会において他の者と同等の無償の初等教育や中等教育を、合理的な配慮のもとで受ける権利をもつというものです。このインクルーシブ教育の原則は、障害のある子どもだけでなく、すべての子どもにあてはまる原則のはずで、もちろん、不登校や外国籍、年齢超過の子どもにもあてはまるだろうと思います。


多様な教育機会確保法案は、これまで、「学校外で義務教育を認める特例」をめぐって議論されてきました。しかし、障害者権利条約が定めるインクルーシブ教育の原則が多様な教育機会確保法案のなかに明確に位置づけられれば、「既存の小中学校を多様化することで、不登校・外国籍・年齢超過の子どもたちを包摂する」という方向性も出てくるように思います。

多様な教育機会確保法における「財政上の措置等」(第5条)が「努力義務」になっているように、もし学校外の義務教育への財政措置等が難しいのならば、こうした「既存の一条校の多様化」も検討されて良いのかもしれません。実際、文部科学省も、これまで、教育課程を弾力化して不登校の子どもを受け入れる「不登校特例校」の設置などの努力をしてきました。多様な教育機会確保法案にインクルーシブ教育の概念を明記すれば、こうした方向性をさらに促進する法的根拠となるように思います。ちなみに、不登校特例校は、学校教育法上の学校であるため、中学校卒業者は高校の入学資格も認められますし、市町村立の学校であれば、標準的な職員は国庫負担の対象となります。こうした不登校特例校は、2015年現在、全国で11校あります。


国際人権規約(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html

障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)(文部科学省、2012年7月23日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/houkoku/1321667.htm

学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等について(通知)(文部科学省、2005年年7月6日)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/06041202.htm

不登校特例校一覧(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/06041202/002.htm



多様な教育機会確保法
「(基本理念)
第二条 多様な教育機会の確保に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。一 義務教育の段階に相当する普通教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が十分に確保されるようにすること。
二 その教育を受ける者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎的な能力が培われ、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
三 国、地方公共団体、民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。」


この第2条(基本理念)に、座長試案にはなかった「義務教育の段階に相当する普通教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重し」という文言が入ったことは、すばらしいと思います。子ども本人の意思にそぐわない決定をしないよう、保護者や教育関係者などを戒める文言です。子どもは、弱い立場に置かれがちです。こうした子どもの立場を配慮した文言で、非常に重要だと思います。

もちろん、座長試案でも示されていた「その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく」という文言もたいへん重要です。多様な教育機会確保法案は、「不登校」や「フリースクール」という単語とともに報じられてきました。しかし、この法案は、「自主夜間中学校」や「外国人学校」も義務教育制度のなかに位置づけて、既存の制度の外に置かれがち子どもの学習権を広く保障しようとするものでもあります。


また、第2条第3号には「国、地方公共団体、民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携」と書かれています。「民間の団体」が、国や地方公共団体と並ぶ連携のパートナーにあげられるのは、義務教育においては画期的に思います。ちなみに、学校教育法には、「民間」の二文字は出てきません。一方、子ども・若者育成支援推進法の第7条は、

子ども・若者育成支援推進法
「第七条 子ども・若者育成支援施策は、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携並びに民間の団体及び国民一般の理解と協力の下に、関連分野における総合的な取組として行われなければならない。」

となっており、同様に「民間の団体」があげられています。

広く民間や一般の人びととの連携を求めるところに、多様な教育機会確保法案の特徴が現れているように思います。

学校教育法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO026.html

子ども・若者育成支援推進法
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=3&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=21&H_NO_TYPE=2&H_FILE_NAME=H21HO071



<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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