多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性

仮称だった多様な教育機会確保法案ですが、この法案の立法チームの座長を務める馳浩議員の公式ブログによると、「義務教育に相当する普通教育に関する多様な教育機会を確保するための法律」という法律名になるようです。そして、8月11日に、法律の条文が総会で披露されるようです。この総会は、超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充議員連盟合同総会を指すのではないかと思われます。この総会は、前回、2015年5月27日に開かれて、座長試案が示されています。

はせ日記8月6日
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12059074504.html

はせ日記8月10日
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12060523599.html


さて、前回のブログ記事で、公立学校に通う子ども一人あたり年間100万円ほどの税金が使われているので、不登校の子どもにも同程度の税金が使われるべきだと主張しました。それは、どの子どもも、義務教育を受ける権利を平等にもっているならば、どの子どもも、同額の税金が使われるべきだと考えるからです。

しかし、前回記事で触れたように、多様な教育機会確保法が成立しても、「財政上の措置」が不十分になりそうです。もしそのとおりであれば、学校に行っている子どもの義務教育には年間100万円の税金が使われて、学校外の義務教育には税金が使われないということになります。多様な教育機会確保法は、市町村教育委員会が認定すれば、学校外で学ぶことも義務教育として認めます。もし財政上の措置が不十分ならば、学校と学校外は同じ義務教育のはずなのに、税金の使われ方では著しい不平等が残ってしまうということです。


このように、「どの子どもも、義務教育を受けるのに、同額の税金を使ってもらえる」という原則の確立は、学校以外で義務教育の実施を認めるうえで必須であると思います。もし同額の税金が使われないならば、「義務教育の切り捨て」につながりかねないです。



ところで、前回のブログ記事では、この原則について、「子どもの学習権の平等」という観点から考えてきました。今回は、少し視点を変えて、「義務教育の質保障」という点からも、この原則が必要であることを書きたいと思います。


繰り返しになりますが、多様な教育機会確保法は、市町村教育委員会が認定すれば、学校外で学ぶことも義務教育として認めます。学校外の義務教育も、同じ義務教育なのですから、学校に匹敵する「学習の質」を備えている必要があります。学習の質を上げようと思えば、やはりお金が必要です。ですから、学習の質の保障という点からも、学校外の義務教育でも、子ども一人あたりで同等の税金が使われるべきだと言えます。


この学習の質の保障を考える上でもっとも重要なのは「人」です。つまり、能力の高い意欲的な教員の数をしっかりそろえないかぎり、学習の質を保障することは不可能です。いくら立派な教育理念や教育課程があっても、それを実行できる人がいなければ、「絵に描いた餅」にすぎません。

そうした能力の高い意欲的な教員の数を確保するには、やはり、給与や有給休暇などの待遇をしっかりさせる必要があります。教員が余裕を持って子どもと向き合えてこそ、子どもの学習効果も高まるのです。人件費をケチっては、いい教育はできるはずもありません。しかし、教育事業において経費を節減しようと考える時、まっさきに削減対象となるのが、人件費です。

もちろん、待遇が悪くても情熱をもって子どもを教える教員は確かにいます。ある意味では、これまでのフリースクール等は、こうした教員(スタッフ)に支えられてきたと言えます。しかし、情熱だけに頼るのは長続きしません。しっかり休まずに頑張り続け、しだいに燃え尽きて離職するという悲しい結果になってしまいかねません。離職者が増えれば、ノウハウの蓄積ができず、右も左もわからない新人教員がいきなり現場に立つことになります。これでは、学習の質保障など望めません。


このように考えれば、学習の質を保障するためにも、学校外の義務教育に子ども一人当たり年間100万円の税金を投入して、能力の高い意欲的な教員を確保できる仕組みが必要と言えます。その際には、投入された税金がきちんと人件費に使われるように、例えば、「投入された税金の7割以上は人件費に使う」のような使途制限があってよいと思います。平成26年度地方教育費調査の中間報告によれば、全国の年間の学校教育費13兆1569億円のうち人件費は9兆2498億円となっており、70.3%を占めています。

平成26年度地方教育費調査の中間報告(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/005/__icsFiles/afieldfile/2015/06/30/1358907_4.pdf



以上から、「義務教育を受ける子どもの権利の平等」という観点からも、「義務教育の学習の質を保障する」という観点からも、子ども一人当たりで同額の税金が、学校外の義務教育にも使われるべきだと考えます。



もしこうした原則が確立しなければ、多様な教育機会確保法は、学校外で義務教育を受ける子どもの分の税金を削減することにつながりかねません。

もし12万人の不登校の子どもが全員、学校外で義務教育を受けることになり、なおかつ、そうした子どもにまったく財政上の措置がおこなわれなかった場合、年間で、

100万円×12万人=1200億円

の学校教育費が全国で削減されかねないということです。公立の小中学校に在籍する子どもの数が12万人減り、逆に、学校外に移った12万人には予算をつけなくてもいいからです。

もっと学校教育費を削減しようと思えば、年間30日の欠席に満たない不登校未満の子どもの保護者にも個別学習計画を作成させて、市町村教育委員会でどんどん認定していけばいいのです。


義務教育の費用は、国、都道府県、市町村の3者で負担しています。先に紹介した地方教育費調査によれば、小中学校の学校教育費総額に占める負担の割合は、国18.4%、都道府県48.9%、市町村27.1%、地方債5.6%となっています。
個別学習計画を認定する市町村教育委員会は、一人認定を出せば、一人あたり年間約27万円節約できるという計算になります。
もし財政上の措置をしないならば、金銭的には、個別学習計画は認定されやすい方向にインセンティブが働くと言えます。



もしこうした事態が生じれば、多様な教育機会確保法は、将来、「義務教育切り捨て法」と言われかねません。



「義務教育切り捨て法」と呼ばれないためには、まずは、学校外の義務教育にも同等な税金を投入することです。さらには、その税金を使って、学校外に学校に匹敵する質の学びの場ができる仕組みを整えることです。それには、投入された税金がきちんと人件費に使われて、しっかりと教員が確保されることが何より大事です。

多様な教育機会確保法は、学校外でも義務教育を可能にする法律です。その前提として、学校外にきちんとした義務教育の場を作る仕組みが不可欠です。そうした仕組みがないまま、安易に義務教育を学校外に開いてはなりません。


もし学校外の義務教育の場が整わぬままに、義務教育を学校外にも広げたならば、多様な教育機会確保法は、不登校の子どもの社会的排除を促進した「義務教育切り捨て法」という汚名を背負うことになりかねません。しかし、学校外の義務教育へきちんとした財政措置をおこなって新しい義務教育の場を学校外に創出できれば、多様な教育機会確保法は、新しいかたちでの不登校の子どもの社会的包摂を実現する可能性をもっています。




<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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