教育支援センター実態調査にみる不登校支援の地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①

少し間が空いてしまいましたが、2015年6月26日に文部科学省で開催された「第7回不登校に関する調査研究協力者会議」を傍聴したので、概要を紹介したいと思います。この第7回会議では「不登校児童生徒への支援に関する中間報告」のとりまとめが行われると聞いていたので、傍聴に出かけたのですが、残念ながら、とりまとめはおこなわれませんでした。会議の内容は、おおよそ、(1)教育支援センター実態調査の単純集計結果の報告、(2)中間報告<素案>の検討、の2つでした。今回の記事では、「(1)教育支援センター実態調査」について見ていこうと思います。

不登校に関する調査研究協力者会議(第7回)の開催について(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/kaisai/1358830.htm



教育支援センター実態調査の実施は、2015年2月10日開催の第1回会議で話題に出ていたもので、そのとき示された骨子案は下記の通りです。

資料6 教育支援センター(適応指導教室)等の実態調査について(骨子案)(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/shiryo/attach/1357872.htm


調査目的は、教育支援センター(適応指導教室)の現状に関する基礎的情報を把握することであり、調査対象は、都道府県及び市区町村(事務組合、広域連合及び共同設置を含む)教育委員会等となっています。調査項目は、

問1 教育支援センターの有無
間2 教育支援センターの概況
問3 在籍者の状況
問4 職員の状況等
問5 活動内容等
問6 家庭への訪問指導
問7 運営に係る経費等
問8 施設等について
問9 運営に係る評価について
問10 通級している児童生徒に関する学校との連携
問11 教育委員会との連携
間12 在籍者への情報提供

です。調査票の回収状況は、第7回会議の時点で3つの自治体から回答が届いていないという事務局からの説明でしたので、回答率はほぼ100%となります。



では、第7回会議の傍聴者に配られた資料にもとづいて、調査結果の一部を紹介・検討したいと思います。


都道府県及び市区町村(事務組合、広域連合及び共同限置を含む。)教育委員会等における教育支援センター(適応指導教室)の設置の有無について(首長部局設置を含む)は

ア 設置している自治体 1084  59.8%
イ 設置していない自治体 730  40.2%

となっており、未設置の自治体が「4割」あることが目を引きます。


前回の第6回会議から検討されている「不登校児童生徒への支援に関する中間報告」案の重点方策の一つは、「教育支援センター(適応指導教室)の機能強化」です。しかし、今回の調査結果からわかることは、現在の設置状況のままでは、「中間報告」で教育支援センターの機能強化をうたっても、「絵に描いた餅」になりかねないということです。


未設置の教育委員会等に理由を複数回答(3つ以内)でたずねたところ、

ア 通所を希望する不登校の児童生徒が少ないと見込まれるため 62.9%
イ 教育支援センターを運営する予算、場所の確保が困難なため 50.5%
ウ 不登校の児童生徒が通所できる施設(教育相談センター等)が他にあるため 11.4%
エ 近隣にある他の市区町村の教育委員会と提携し、受け入れてもらっているため 14.8%
オ 都道府県教育委員会が設置する教育支援センターの受入対象としてもらっているため 4.0%

という結果になっています。


こうした未設置理由の結果となったのは、第7回会議の席で委員の一人も指摘していましたが、やはり自治体の人口規模の違いが影響しているように思われます。


不登校の小中学生の数は、約12万人です。日本の人口が約1億2千万人なので、だいたい人口1000人に1人くらいの割合で不登校の子どもがいる計算になります。

したがって、人口10万人の自治体では、約100人の不登校の小中学生がいることになります。

そして、不登校の小中学生のうち適応指導教室に通っているのは12%(2013年)です(詳しくは、適応指導教室の設置数1286教室、利用者数14310人、不登校児童生徒数119617人、利用者割合12%となっています)。

以上から、人口10万人の自治体には、不登校の小中学生が100名ほどいて、そのうち12名くらいが適応指導教室へ通っていると推計できます。

同様に推計すると、人口1万人の自治体では、1.2名しか適応指導教室に通ってこないことになります。通ってくる子どもが1名では、適応指導教室を設置しようという話にはならないのではないでしょうか。

ちなみに、2010年現在で、人口1万人未満の自治体は480あります。その数は、全国の市区町村の27.6%にあたります。

また、人口2万人未満の自治体が776(2010年現在)あります。今回の調査結果によると、教育支援センター未設置の教育委員会が730ですので、設置・未設置の分岐点は、おおよそ人口2万人ということになりそうです。通ってくる子どもの数で言うと、2~3名が設置・未設置の分岐点と言えそうです。


このように考えると、教育支援センター未設置の教育委員会が不登校支援に不熱心ということではなく、自治体の人口規模が小さいために利用する子どもが少なく、費用に見合った効果が得られないという判断から設置しないということだろうと思われます。


逆に、人口規模の大きな自治体には、複数の教育支援センターが設置されています。

今回の教育支援センター実態調査の結果によると、設置者ごとのセンターの数は、

都道府県 26センター
政令指定都市(人口50万人以上) 90センター
中核市(人口20万人以上) 94センター
その他の市町村 1071センター
合計 1281センター

となっています。
今回の調査で回答した都道府県・市区町村の教育委員会等の数は1814なので、一自治体あたりのセンターの数は0.71センターとなります。

さらに、設置者ごとのセンターの数を、それぞれのカテゴリーに該当する自治体数で割って、一自治体あたりのセンターの数を計算すると、

都道府県(47) 0.55センター
政令指定都市(20) 4.50センター
中核市(45) 2.09センター
その他の市町村(1677) 0.64センター

となります。


以上の結果は、教育支援センター(適応指導教室)の地理的分布に偏りがあることをうかがわせます。教育支援センターのない人口規模の小さな自治体では、不登校支援は学校のみで何とかしなければならないという状況にあるように見えます。



さて、教育支援センターなどの地理的分布について検討した研究に、本山敬祐氏のものがあります。

本山敬祐, 2011, 「日本におけるフリースクール・教育支援センター(適応指導教室)の設置運営状況」『東北大学大学院教育学研究科研究年報』 60(1): 15-34.
http://www.sed.tohoku.ac.jp/library/nenpo/contents/60-1/60-1-02.pdf


本山氏の研究は、日本全国にあるフリースクールと教育支援センターについて、主に文献調査によって、都道府県・市区町村ごとに設置数の概算をおこなった労作です。

本山氏によると、日本にあるフリースクールは436カ所、教育支援センター(適応指導教室)は1257カ所となっています(2011年現在)。


地理的分布については、フリースクールは都市部に集中し、東京都ではフリースクールと教育支援センターがほぼ同数だったが、他の道府県では、フリースクールよりも教育支援センターが多いという結果になっています。さらに、政令市のみで見ると、フリースクール124カ所、教育支援センター87カ所と、フリースクールのほうが多くなっています。日本のフリースクールの28.4%が政令市に集中しているという結果は、フリースクールの都市部集中という事実を端的に物語っているように思います。

また、1745の市区町村レベルで見ると、

(1)フリースクールと教育支援センターの両方設置の市区町村 11.5%
(2)教育支援センターのみ設置の市区町村 42.7%
(3)フリースクールのみ設置の市区町村 1.5%
(4)どちらも設置されていない市区町村 44.2%

となっています。

5年ほど前のデータになりますが、今回の教育支援センター実態調査と同様に「4割」あまりの市区町村では学校のみで不登校支援をせねばならないという状況にあるということです。


本山氏は、さらに、「市・区」と「町・村」の二つに分けて集計しています。それによると、

どちらも設置されていない市・区 8.8%
どちらも設置されていない町・村 74.9%

となり、自治体の人口規模による格差が鮮明に表れます。




なぜ市区町村ごとの教育支援センターやフリースクールの差を問題にするかと言えば、今国会において「多様な教育機会確保法(案)」の成立が目指されているからです。

「多様な教育機会確保法(案)」が目指しているのは、保護者が作成する個別学習計画を市町村教育委員会が認定すれば、自宅・フリースクール等・教育支援センターにおける学習で保護者が就学義務を履行したとみなすという制度づくりです。こうした制度を新しく作ることで、再登校がままならない不登校の子どもに、義務教育の機会を柔軟に保障しようということです。この法案の制度設計は、市町村教育委員会が所管している「就学校の指定・変更」(学校教育法施行令)という枠組みにもとづいていると考えられます。

「多様な教育機会確保法(仮称)案」【概要】[座長試案](フリースクール全国ネットワーク)
http://freeschoolnetwork.jp/wptest/wp-content/uploads/2015/06/houangaiyou.pdf

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である(高山龍太郎のブログ)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html


せっかく「多様な教育機会確保法(仮称)案」が成立しても、不登校の子どもが住む市町村に教育支援センターやフリースクール等がなければ、自宅にとどまるか、学校に戻るかしか道がないということになりかねません(学校教育法施行令第9条の「区域外就学等」の手続をとれば、住所のある市町村以外の教育支援センターやフリースクール等を就学校にすることは可能だと思いますが・・・)。

この法案には、「財政上の措置等」も盛り込まれています。住所のある市町村以外の教育支援センターへ大量の子どもが通うことになれば、市町村の間の費用負担をめぐってルールづくりをせねばならないかもしれません。

この法案で夜間中学校を想定した「学齢超過した後に就学を希望する者の教育の機会の確保(案)」では、都道府県・市町村教委が協議により規約を定めて「義務教育未修了者等就学対策連絡協議会」(仮称)を設置することが検討されています。不登校の場合でも、同様の連絡協議会を都道府県・市町村教育委員会で立ち上げる必要があるのかもしれません。



いずれにせよ、問題なのは、不登校支援には地域格差が存在し、都市部のほうが支援の選択肢が多いということです。


「不登校に関する調査研究協力者会議」と「フリースクール等に関する検討会議」という不登校支援に関わる二つの会議が文部科学省に設置され、国会では「多様な教育機会確保法(案)」の成立が目指されている現在、こうした不登校支援における地域格差の是正についても議論されてよいのではないでしょうか。



不登校に関する調査研究協力者会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/

フリースクール等に関する検討会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/107/




<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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