多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である

さる7月2日(木)に、多様な教育機会確保法案の第3回立法チームの会合が開かれています。この立法チームの座長を務める馳浩議員は、自身の公式ブログで、「「個別学習計画を教育委員会に申請し、審査のうえ、認定を受ける制度」に意見集中。」と書いています。
いわく、「個別学習計画が必要か?」「保護者の負担にならないか?」「今のままの制度ではダメなのか?」「手続きが煩雑すぎないか?」といった意見が出されたそうです。

はせ日記「7月2日」
http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12046012832.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」【概要】[座長試案](フリースクール全国ネットワーク)
http://freeschoolnetwork.jp/wptest/wp-content/uploads/2015/06/houangaiyou.pdf




この多様な教育機会確保法案は、制度の面から見ると、「教育上必要な場合には、就学指定校を一条校以外にも拡大する」という位置づけができるのではないかと思います。



就学校の指定について、制度を概観すると、以下の通りです。

学校教育法施行令第5条の規定によって、市町村教育委員会は、就学予定者が就学すべき小学校(中学校)を指定することになっています。

そして、同じく学校教育法施行令第8条には、「就学校の変更」が定められていて、市町村教育委員会は、「相当と認めるときは、保護者の申立により、その指定した小学校又は中学校を変更することができる」とされています。

気になるのは、「相当と認めるとき」の「相当」の具体的内容ですが、例えば、富山市教育委員会では、「いじめ・不登校などにより転学を希望する場合」が該当する一例として明記されています。

また、一定の手続を経て、関係する市町村教育委員会間の協議が整えば、他の市町村等の学校にも就学することも可能です(学校教育法施行令第9条)。


いずれにせよ、就学校の指定に関することがらは、市町村教育委員会が所管しています。


よくわかる用語解説(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/06041014/002.htm

関係法令(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/06041014/008/001.htm

学校教育法施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S28/S28SE340.html

就学指定校の変更(富山市)
http://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/4150/1/230401.pdf


2.就学校の指定変更[いじめ、不登校等に関連した指定校変更](文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/06041014/005/002.htm

11.いじめ・不登校などの事情に配慮した指定校変更(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_12.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_13.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/02/09/1288665_14.pdf



多様な教育機会確保法案が成立しても、こうした「市町村教育委員会が決めた就学指定校に子どもが就学する」という原則は、おそらく、堅持されることになるだろうと思います。制度を一から作るのはたいへんですし、まったく新しい制度ということになると、現場の負担も大きいでしょう。小中学生の不登校は、平成25年度の速報値で11万9617人で、全小中学生の1.17%です。現行制度の手直しで対応可能な数量のようにも思えます。

そして、市町村教育委員会が最初に就学校に指定するのは「通学区域内の小中学校」という原則も変わらないでしょう。また、不登校による就学指定校の変更は、これまでと同様に、就学校指定の原則を覆すのに「相当」と認められる「特例」として扱われるでしょう。


ちなみに、多様な教育機会確保法案の立法チーム座長を務める馳浩議員は、自身のブログに、法案の狙いについて「だから、就学義務の大原則を守りながらも、様々な事情でどうしても学校に行けない児童生徒やその保護者を、みなし就学義務の制度によって認め、解放してあげたいというのが本音なのだが。就学義務の特例を作り、学習支援と経済的支援を受けられるようにしてあげたい、というのが本音。」(はせ日記「7月2日」、http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12046012832.html、引用者が改行を削除)と、語っています。

つまり、多様な教育機会確保法案は、就学校指定の現行制度に、特例的な就学校として「自宅」「フリースクール等」「教育支援センター」を新たに加えるものだと理解できるように思います。その上で、市町村教育委員会によって就学指定校に認められた「自宅」「フリースクール等」「教育支援センター」へ子どもが通う場合には、「義務教育は無償」(憲法第26条)という原則に照らして、国等が財政上の措置を講じるということを目指しているのだろうと思います(座長試案では、財政上の措置は、残念ながら「努力義務規定」となっていますが・・・)。


このように考えると、保護者が作成する「個別学習計画」は、制度上、「就学指定校の変更手続きに必要な添付書類」という位置づけになろうかと思います。

富山市の就学指定校の変更手続きを見ると、富山市教育委員会に提出が求められる書類は、就学指定校変更の「申立書」のほかに、事由ごとに、「建築確認通知書」「売買契約書」「賃貸契約書」(以上、住所変更予定の場合)、「世帯員の勤務証明書」「世帯全員の住民票」「預かる人の承諾書」(以上、かぎっ子(留守家庭)の場合)、「医師の診断書」(以上、身体的理由の場合)などがあげられています。

多様な教育機会確保法案における「個別学習計画」は、就学指定校変更の申立書に添付する上記の書類の一種と考えることができるのではないでしょうか。

そして、就学指定校の変更手続きは、保護者が申し立てることになっているので、その手続きに必要な「個別学習計画」も、必然的に、保護者が作成することになるのだろうと思います。


実は、多様な教育機会確保法案の座長試案を見たときに、市町村教育委員会が個別学習計画の認定をおこなう理由がよくわかりませんでした。フリースクール関係者からは、「市町村教育委員会は学校に近い存在なので、小中学校の学習指導要領に沿った個別学習計画しか認められないのではないか」と心配する声が聞かれました。また、「A市では認められなかったのに、B町では認められた」というような認定結果の違いが生じて、公平性の点で懸念を感じていました。そのため、個別学習計画の認定は、都道府県教育委員会でも、文部科学省でも、あるいは、大学、もしくは、新たに設立した認定機関でもいいのではないかと思っていました。


しかし、現制度において就学校の指定を市町村教育委員会が所管しており、現制度を大きく変えずにフリースクール等で就学義務を果たせる制度を作ろうとしていると考えると、「市町村教育委員会が保護者作成の個別学習計画を認定する」という制度設計に合点がいきます。



今後の論点は、「個別学習計画を誰がどのように認定するか」ということだろうと思います。


多様な教育機会確保法案では、市町村教育委員会のなかに設置された「教育支援委員会(就学指導委員会等)」が審査することになっています。この教育支援委員会の審査結果にもとづいて教育委員会が認定するという制度設計です。

こうした方法以外にも、教育委員会以外の第三者による個別学習計画の審査もありえるのではないかと思います。

例えば、富山市では、身体的理由による就学校の変更手続きには「医師の診断書」を申立書に添付することになっています。受け取った「医師の診断書」の内容について、教育委員会が改めて検討しているとは思えません。医師の専門性を信頼して、医師の診断をそのまま採用するのではないでしょうか。
同様に、医師のような専門性を備えた第三者(機関)が個別学習計画の審査をおこない、教育委員会はその審査結果を信頼し、改めて審査結果の真偽を問わないというやり方は考えられます。
ただし、個別学習計画の審査については、医師の診断のような専門性が確立していないので、誰がその専門性を備えているのかという議論が、今度は必要になってきます。
もちろん、この専門性の問題は、座長試案にある「教育支援委員会(就学指導委員会等)」についても、同様に問われることになるでしょう。

以上は、「誰が」審査するか、という論点です。


もう一つの「どのように」審査するかは、具体的には、審査の「基準づくり」「マニュアルづくり」ということになろうかと思います。


審査の基準は、教育基本法第5条第2項の

「二 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。」

および

学校教育法第21条の

「第二十一条  義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一  学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二  学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三  我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四  家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五  読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六  生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七  生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八  健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九  生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十  職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」

などが、手がかりになるでしょう。

実際、多様な教育機会確保法案立法チームの座長である馳浩議員のブログによると、6月17日におこなわれた文部科学省担当者と衆議院法制局とのミーティングで、「④個別学習計画の認定手続きのシステムや、その基準を、どうするか? ⑤基準は、学校教育法第21条の規定を参考にし、さらに省令も加えるか?」(はせ日記「6月17日」、http://ameblo.jp/hase-hiroshi/entry-12040239012.html、引用者が改行を削除)という点が話し合われたようです。


しかし、こうした基準に耐えうる個別学習計画を保護者がすぐに作れるとは思えません(座長試案では、専門家の力を借りることになっていますが・・・)。
同様に、審査する側も、提出された個別学習計画が、こうした基準に合致しているのかどうか、判断に迷うこともあるでしょう。

結局のところ、個別学習計画を基準やマニュアルに沿って、机上で審査するのは難しいように思えます。


実際の運用では、不登校後に子どもが自宅なり、フリースクール等なり、教育支援センターなりで学んでいるという実態が先にあって、その実態に合わせて保護者が個別学習計画を作り、それをそのまま市町村教育委員会で認定せざるをえないのではないかという気がします。
つまり、子どもの「現状を追認する」という運用です。
というのも、仮に市町村教育委員会が個別学習計画を却下しても、子どもは、これまでどおり、小中学校に学籍を置いたまま、自宅、フリースクール、教育支援センターなどで学び続けるだろうと思うからです。


しかし、この「現状追認」という運用も怖いものがあります。

世の中、善意の人ばかりとも限りません。
子育てにまったく関心のない保護者が、「子どもは自宅で学んでいます」と偽って、国等からの助成金を遊興費に使ってしまうかもしれません。
あるいは、教育実態のない悪徳フリースクール等と保護者が結託して、子どもを通わせたことにして、国等から悪徳フリースクールに支払われた助成金の一部をキックバックさせるかもしれません。
反社会的勢力が、こういった「生活保護費の不正受給」まがいのことを始めるかもしれません。

こういったケースでは、市町村教育委員会は、子どもの教育を受ける権利を守る「壁」になることが求められます。
座長試案には、市町村教育委員会の職員等が、定期的に子どもの学んでいる現場を訪問することになっていますが、経済的支援が盛り込まれた多様な教育機会確保法案では、このような悪質なケースも想定しうるからだと思います。




多様な教育機会確保法案は、確かに、就学校指定の現行制度のなかにうまく位置づけられるように思います。

しかし、市町村教育委員会に課されるその実務はなかなか難しいものになるのではないかと感じています。



教育基本法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html

学校教育法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO026.html






<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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