「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み

昨日、「「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要」という記事をこのブログに書きましたが、今回は、この法案が想定している不登校支援の仕組みについて書こうと思います。

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html


「多様な教育機会確保法(仮称)案」【概要】[座長試案]には、「学校以外の場(フリースクールや自宅など)で学習する子供の教育の機会の確保(案)」というA4サイズの図が含まれています(図のダウンロードは下記URLより可能)。この図が不登校支援に該当します。もう一つの「学齢超過した後に就学を希望する者の教育の機会の確保(案)」と題された図は、夜間中学校を念頭においたものです。

多様な教育機会確保法(仮称)案 【概要】座長試案 PDFダウンロード(鳴かず飛ばず働かず──ひきこもり名人、勝山実。生涯、半人前でいい。)
http://ponchi-blog.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/pdf-fb70.html


では、この「学校以外の場(フリースクールや自宅など)で学習する子供の教育の機会の確保(案)」という図にそって、仕組みを見ていこうと思います(関係者に確認したわけでないので、理解に誤りがあるかもしれません。その点はご容赦ください)。

図によると、「多様な教育機会確保法(仮称)案」が想定する不登校支援は、(1)学校での支援、(2)保護者による個別学習計画の作成、(3)市町村教育委員会による個別学習計画の認定、(4)個別学習計画にもとづく学習の推進、という4段階から成ります。



(1)学校での支援

この第1段階は、縦に太点線が引かれているので、「多様な教育機会確保法(仮称)案」にもとづくものではないと思いますが、一体的なものとして図に含まれています。

この第1段階での支援は、文部科学省が設置する「不登校に関する調査研究協力者会議」が2015年5月20日に「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>──一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない支援の推進」で示された内容と同一だろうと思われます。この「中間報告<たたき台>」では、学校が、子どもと保護者等との話合いのうえ、「個別の教育支援計画(仮称)」を策定し、学校および教育支援センター(適応指導教室)がその計画を実施するという仕組みになっています。

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html


この図の書き方では、こうした学校での不登校支援が不調に終わった後に初めて、「多様な教育機会確保法(仮称)案」にもとづく支援が始まるというように読めます。

ちなみに、図にある「個別の教育支援計画」という言葉は、特別支援学校の学習指導要領に出てくる言葉で、

「(14) 家庭及び地域や医療,福祉,保健,労働等の業務を行う関係機関との連携を図り,長期的な視点で児童又は生徒への教育的支援を行うために,個別の教育支援計画を作成すること。」(小・中6頁)

と書かれています。

特別支援学校幼稚部教育要領、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、特別支援学校高等部学習指導要領(平成21年3月告示)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/09/09/1284518_1.pdf



(2)保護者による個別学習計画の作成

学校での支援が不調に終わった後、「多様な教育機会確保法(仮称)案」にもとづく支援に入ります。

保護者は、不登校の子どもと相談して、「個別学習計画」を作成します。上記の第1段階における「個別の教育支援計画」は学校が主体で作成しますが、こちらの「個別学習計画」は保護者が主体となって作ります。

保護者が一人で個別学習計画をつくるのは困難が予想されるので、学校、市町村教育委員会、フリースクール・NPOの支援を受けることが図に盛り込まれています。

保護者は、作成した個別学習計画を市町村教育委員会に提出し申請します。



(3)市町村教育委員会による個別学習計画の認定

保護者が申請した個別学習計画を受理した市町村教育委員会は、「教育支援委員会(就学指導委員会等)」に審査依頼を出します。

就学指導委員会は、小学校入学の前年秋におこなわれる就学時健診の結果をもとに、就学先は小学校がよいか特別支援学校がよいかという判断を教育委員会に報告する組織です。

ところで、2014年度からは、インクルーシブ教育の推進という観点から、就学先の決定は、子ども本人と保護者の意向を尊重しながら、専門家の意見も聞きつつ、総合的な見地から教育支援をおこなうということになりました。「就学指導から教育支援へ」という変化です。

上野一彦, 2014, 「就学指導から教育支援に」(LD先生の子育て相談)
http://ld-soudan.fujitvkidsclub.jp/2014/05/post_89.html


教育支援委員会は、こうした理念の変化を反映してつくられる組織です。この教育支援委員会の役割は、就学先の判断という就学指導委員会の役割を引き継ぎながら、より早くから広く子ども本人と保護者の総合的な支援をおこなっていくというものです。この教育支援委員会の名称は、中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(2012年7月23日)のなかに出てきます。

この「報告」に書かれた教育支援委員会(仮称)の機能は、

「(ア)障害のある子どもの状態を早期から把握する観点から、教育相談との連携により、障害のある子どもの情報を継続的に把握すること。
(イ)就学移行期においては、教育委員会と連携し、本人・保護者に対する情報提供を行うこと。
(ウ)教育的ニーズと必要な支援について整理し、個別の教育支援計画の作成について助言を行うこと。
(エ)市町村教育委員会による就学先決定に際し、事前に総合的な判断のための助言を行うこと。
(オ)就学先の学校に対して適切な情報提供を行うこと。
(カ)就学後についても、必要に応じ「学びの場」の変更等について助言を行うこと。
(キ)後述する「合理的配慮」の提供の妥当性についての評価や、「合理的配慮」に関し、本人・保護者、設置者・学校の意見が一致しない場合の調整について助言を行うこと。」

の7点となっています。

共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321669.htm


さて、図では、個別学習計画の認定作業がおこなわれている間に、市町村教育委員会と保護者・子ども・学校・関係機関が、話し合いや情報交換をおこなうというかたちになっています。

この市町村教育委員会における認定作業がどのようにおこなわれるかは、「多様な教育機会確保法(仮称)案」のポイントの1つだろうと思います。関係者の間では、「教育委員会に強圧的な指導をされたら困る」という不安の声も聞かれます。

先に紹介した「不登校児童生徒への支援に関する中間まとめ<たたき台>」や「多様な教育機会確保法(仮称)案」の言葉づかいを見ると、今回新しく検討されている不登校支援は、特別支援教育の方法を参考にしているという印象を受けます。
上にURLを示した「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」の「情報提供の充実等」の項目では、

「○自分の子どもを学校、市町村教育委員会、地域が進んで受け入れてくれるという姿勢が見られなければ、保護者は心を開いて就学相談をすることができない。学校や市町村教育委員会が、保護者の「伴走者」として親身になって相談相手となることで保護者との信頼関係が生まれる。」

と記述されています。
「多様な教育機会確保法(仮称)案」における保護者との話し合い・情報提供でも参考にすべき提言であると思います。

教育支援委員会の審査結果を受けて、市町村教育委員会が個別学習計画の認定を決定します。



(4)個別学習計画にもとづく学習の推進

市町村教育委員会が個別学習計画を認定した後は、家庭において保護者が主体となって、個別学習計画にもとづく学習をおこなっていきます。これによって、保護者は就学義務を履行したとみなされます。

子どもの学習場所として、「自宅」「フリースクール等」「教育支援センター」の3つが図に例示されています。

教育支援センター(適応指導教室)は教育委員会が設置する公的機関なので、「無料」です。しかし、「自宅」「フリースクール等」で学ぶ時には、当然、教材費・交通費・授業料といった費用が生じます。
憲法26条には、「2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と書かれています。「自宅」「フリースクール等」で学ぶ場合に生じる費用は、公的助成によって実質的に「無償」にすることが望ましいように思われます。

この点については、図に「家庭に対する経済的な支援をおこなう」と書かれています。この点が、「多様な教育機会確保法(仮称)案」の2つ目のポイントです。家庭への経済的支援の金額がいくらになるのか。お金の支給方法はどうなるのか。こうした点が、今後の検討の焦点です。


最後に、「学習の質保証」も、大事な論点です。これが第3のポイントです。

まず、虐待や体罰といった子どもの権利侵害がないか、第3者がきちんと確認することは必須です。

また、義務教育としての普通教育を受ける権利が保障されたとは、具体的に、どの程度の質や量の教育を受けたら認められるのか、という問題があります。これは、答えを出すのがとても難しい問題です。小中学校では、学校教育施行規則や学習指導要領などがその基準を示しているわけですが、「多様な教育機会確保法(仮称)案」でも、これらに代わるガイドラインを新たに設定する必要があるだろうと思います。

学校教育施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F03501000011.html

学習指導要領(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youryou/main4_a2.htm


ちなみに、特別支援学校の教育課程は、小中学校の準ずる教育をおこなうとともに、障害による困難を改善・克服する「自立活動」という独特の領域が設けられ、さらに、子どもの状態等に応じて弾力的に編成することが認められています。こうした特別支援教育の方法を援用するやり方もあるかもしれません。

特別支援教育について(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/005.htm



いずれにせよ、この法案による不登校支援の仕組みのポイントは、

(1)個別学習計画の認定は、どのようにおこなわれるか
(2)家庭への経済的支援は、どのようにおこなわれるか
(3)学習の質保障は、どのようにおこなわれるか

の3点だと思われます。


この3点をめぐる今後の議論が注目されます。



<高山龍太郎のブログより>

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「個別学習計画の支援・勧告・修了」と「就学義務の履行」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_6.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「個別学習計画の認定と修正」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_5.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「基本指針」と「多様な教育機会の確保に関する施策」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_4.html

多様な教育機会確保法の条文案(未定稿)における「国と地方公共団体の責務」と「財政上の措置等」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_3.html

多様な教育機会確保法の条文案(2015年8月11日付け未定稿)における「目的」と「基本理念」
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_2.html

多様な教育機会確保法における財政上の措置の必要性
http://r-takayama.at.webry.info/201508/article_1.html

多様な学び保障法を実現する会総会・公開イベント「多様な教育機会確保法を知ろう」に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_5.html

教育支援センター実態調査にみる地域格差──第7回不登校に関する調査研究協力者会議①
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_4.html

多様な学び保障法を実現する会「多様な教育機会確保法を知ろう」(2015年7月26日、東京都新宿区)
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_3.html

多様な教育機会確保法案は就学校指定制度の拡大である
http://r-takayama.at.webry.info/201507/article_1.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会に参加して
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_6.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」における不登校支援の仕組み
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_5.html

「多様な教育機会確保法(仮称)案」の概要
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_4.html

フリースクール等を義務教育として認めてもよいと考える保護者は63.2%──義務教育に関する意識調査
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_3.html

黒柳徹子著『窓ぎわのトットちゃん』とフリースクール
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_2.html

多様な教育機会確保法(仮称)制定を目指すフリースクール等院内集会2015年6月16日東京都千代田区
http://r-takayama.at.webry.info/201506/article_1.html

不登校に関する調査研究協力者会議「不登校児童生徒への支援に関する中間報告<たたき台>」
http://r-takayama.at.webry.info/201505/article_1.html







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