前産業型都市(歴史的限定性1)──地域社会学I2013年1月25日

1月25日と2月1日の授業では、都市社会学の原型を作ったシカゴ学派の歴史的限定性を考えます。あらゆる研究は、その研究がおこなわれた歴史的文脈や社会的背景の制約を受けています。シカゴ学派も例外ではありません。シカゴ学派が提出した概念やモデルは、こうした歴史的な限定性をもっています。

おおざっぱな歴史的区分をするために、テクノロジーと生産の様式によって3つの社会のあり方を説明するダニエル・ベルの脱工業化社会論を紹介しました。農業や漁業に基盤をもつ採取型の「前工業社会」、物の生産のためにエネルギーや機械技術をもちいる製造型の「工業社会」、情報や知識の交換のために情報技術が戦略的にもちいられる加工処理型の「脱工業社会」です。

シカゴ学派が盛んに研究した1920・30年代のシカゴは、工業社会における都市に位置づけられます。100年たらずで人口が300万人を超えたシカゴの急速な発展は、アメリカ中西部で生産された農産物(トウモロコシや小麦、牛や豚など)や石炭・鉄鉱石などをシカゴに鉄道で運び、それらを原料にシカゴの工場で製品に加工し、大消費地であるアメリカ東海岸やヨーロッパに向けて販売することでもたらされたからです。

もちろん、シカゴ学派によるシカゴの研究以前にも、都市は世界中に存在していました。1月25日の授業では、まず時代をさかのぼって、前産業社会における都市を考えました。ショウバーグは、このような都市を「前産業型都市」と呼び、シカゴ学派を中心とするアメリカ都市社会学の自己中心的偏向を批判します。

ショウバーグが示した前産業型都市の特徴は以下のようなものです。政治的・宗教的権威をもつ少数のエリートが都市の中心部に暮らし、都市の外周部に暮らす多数の下層民を支配しています。エリートと下層民の居住地や生活様式は明確に分かれており、けっして交わることはありません。都市の下層民の暮らしは、宗教組織、親族組織、職業組織(ギルド)のなかに組み込まれており、伝統的なしきたりにそって営まれていました。

日本の江戸も、この前産業型都市に該当します。授業では、陣内秀信『東京の空間人類学』(1985年)から、江戸の棲み分けについて簡単に紹介しました。武蔵野台地の高台にある江戸城の周りにエリート層の大名・旗本・御家人が暮らし、江戸城から離れた標高の低い沖積平野に町民が暮らします。バージェスの同心円地帯モデルでは、都心から離れるにしたがって経済的階層が高くなりますが、江戸ではその反対になっていることがわかります。

最後に、工業社会から脱工業社会へ移り変わる際に、先進国の大都市が衰退の危機に瀕していたことを紹介しました。都市にあった工場が郊外や外国に移転し、それにともなって多くの自営業者や熟練労働者も都市中心部から流出し、都市の税収が減ったために都心部の荒廃が起こり、さらなる人びとの流出を招くという悪循環です。インナーシティ問題と呼ばれるものです。しかし、1990年代に入ると、こうしたインナーシティ問題に悩んでいた先進国の大都市が人口増加に転じます。その理由と帰結については、次回の授業で話したいと思います。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
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講義ノートテキスト版
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20130201地域社会学I(歴史的限定性1前産業型都市)

──歴史的限定性への批判と修正1──

シカゴという都市の歴史的限定性
 シカゴは、急速な工業化によって、19世紀からのわずか100年の間に、まったくの荒野から人口300万人を超える大都市になった。こうしたシカゴのあり方は、特異なことであり、すべての都市にあてはまるわけではない
 そのようなシカゴにおける知見に基づくシカゴ学派の都市社会学のモデルは、すべての都市に一般化できない。その歴史的限定性を考慮し、相対化する必要がある。


ダニエル・ベルの脱工業化社会論と都市に対する見方(園部 1995: 97-99)
 基本図式
 テクノロジーと生産の様式 → 社会のあり方
 テクノロジーと生産の様式によって、以下の三つの社会のあり方がもたらされる
 前工業社会
 農業・鉱業・漁業に経済の基礎をおく、「採取型の社会」
 → ショバーグの前産業型都市
 工業社会
 物の生産のためにエネルギーや機械技術を用いる「製造型の社会」
 → シカゴ学派社会学の都市研究
 脱工業社会
 情報や知識の交換のためにICT(Information and Communication Technology)が戦略的に使われる「加工処理型の社会」。知的技術によって形作られる。
 → サッセンの世界都市論など



前産業型都市
ショウバーグの前産業型都市(Sjoberg 1960; 倉沢 1999: 108-12; 園部 1995: 92-7)
ショウバーグによるシカゴ学派批判の論点
 シカゴにおける知見にもとづくシカゴ学派の都市社会学のモデルは、一面的
 したがって、世界の都市の歴史を比較研究し、共通する都市の類型(「構成型」)を帰納的に抽出する必要がある

基本視角
 従属変数としての都市
 これに対して、シカゴ学派(アーバニズム論)は、都市を独立変数として扱い、都市の従属変数として、都市的生活様式を捉えた
 都市の類型を決定するもっとも重要な独立変数は、テクノロジー
 「テクノロジー」 → 「都市の類型」
 テクノロジー:エネルギー・道具・利用法などの総体
 都市の類型を決定するテクノロジー以外の重要な独立変数は、「都市」「文化的価値」「社会的権力」
 都市=人口学的な要因(シカゴ学派が重視した点)
 文化的価値(社会文化生態学が重視した点)
 社会的権力=国家の政策など

基本的主張
 テクノロジーの違いによって、「前産業型都市」と「産業型都市」という都市の二大類型が導き出される
 「人や動物の力をエネルギー源としたテクノロジーと、それ以外のエネルギー源を利用するテクノロジーという差違は、都市の基本的型を区別するものであり、その範囲の中では文化を超えた共通性が存在する」(倉沢 1999: 111)
 前産業型都市:人・動物・自然の力をエネルギー源としたテクノロジー
 産業型都市:石炭・ガス・石油などの化石エネルギーに基づくテクノロジー

前産業型都市と産業型都市の共通点(倉沢 1999: 109)
 フルタイムの専門家群を抱え、高度に発達した分業体系、複雑な社会的諸制度と統制のメカニズムを持つ点では、両者は共通

前産業型都市の特徴(倉沢 1999: 109-10)
 参照:「表2-1前産業型都市と工業型都市の特徴」(園部 1995: 94)
 (1)テクノロジーの未発達
 労働の専門化は少なく、生産はギルド的制約の下で、手工業で営まれる。ギルドは、血縁・宗教関係で動かされるので、合理性を欠く。労働は、伝統的・宗教的目的で行われ、貨幣は唯一の目的にならない。
 産業型都市:高度のテクノロジーの発達
 (2)社会構成上、中間層が欠落し、社会移動が少ない
 社会構成上、中流階層を欠き、少数の宗教・教育上の地位にある教養あるエリート層と、多数の手工業に従事する下層民、少なからぬ数の被差別者層からなる。
 産業型都市:中流階層の形成と社会移動の増大
 (3)権力構造上、少数のエリート層が、政治・軍事・教育・宗教の諸領域で、支配的な地位を独占
 産業型都市:多元的な権力と権威の構造
 (4)エリート層は、都市に集中居住し、相互に密接に結合
 (5)言語・服装など生活様式のあらゆる局面で、エリート層・下層・被差別者層の間に、大きな懸隔と差別が存在
 産業型都市:均質化・平準化した生活様式
 (6)地域構造は、階層ないし身分・宗教・人種・職業による複雑な分化を遂げ、いくつかの小宇宙からなる。空間的には、公共施設と貴族の住居地域である都市中央部と、下層・被差別者層の居住地域である外周部とからなり、経済活動とその施設の比重が小さい
 (7)伝統的・呪術的・聖的・特殊主義的要素が、宗教の領域だけでなく、政治・経済・教育などの諸領域にも浸透
 合理主義・個人主義・普遍主義、科学的精神の優位、経済活動の重視
 (8)家族生活は、拡大家族、男女の差別と隔離、伝統の尊重、個人に対する家族の優先などの特徴を持ち、この特徴が都市、特にエリート層の家族生活において顕著

前産業型都市から産業型都市への変化をもたらす条件(倉沢 1999: 112)
 (1)都心部の威信を高いと考えない文化的価値
 聖的な文化的価値から、経済中心的な文化的価値へ
 伝統的な社会では、経済的活動は「卑しい」と考えられていた
 (2)郊外から都心部へ容易にアクセスできる交通通信テクノロジー
 (3)質的に分断された身分制度から、連続的で開放的な階層の構成
 大量に現れた中流階層が、郊外住宅地に居住


前産業型都市の一例としての江戸の空間構造(陣内 1992)
 江戸の住み分け模式図(陣内 1992: 35)
 江戸という都市の中心は「江戸城」
 城の西側は、小高い洪積台地の武蔵野台地が広がる。城の東側は、隅田川・荒川・江戸川などが運んだ土砂でできた沖積低地が広がる。
 おおざっぱに、城の西に位置する武蔵野台地の「山の手」には、「武士」が暮らし、城の東に位置する沖積低地の「下町」には、「町人」が暮らす。
 空間構造は、社会階層を反映する
 都市の中心(江戸城)に近いところほど、社会的地位の高い人が住む
 江戸城の将軍を中心に、譜代大名 → 外様大名 → 旗本 → 御家人
 標高の高いところほど、社会的地位の高い人が住む
 山の手の標高の高いところに「武士」、下町の標高の低いところに「町人」
 大名屋敷
 大名屋敷は、参勤交代制度のもとで江戸に暮らすための屋敷。上屋敷、中屋敷、下屋敷がある。上屋敷(居屋敷)は、大名とその妻子が住んだ。中屋敷は、のち大名の跡継ぎの邸宅となり、下屋敷は別荘としての役割を果たした
 上屋敷
 江戸城のすぐ東の「丸の内」には「譜代大名」の屋敷
 江戸城からやや離れた南の「桜田」「芝」「愛宕下」には「外様大名」の屋敷
 中屋敷、下屋敷
 中屋敷は、外堀の内縁
 下屋敷は、外堀の外側の郊外
 これらの大名屋敷は、明治維新後、近代国家を担う公共施設(官公庁、大使館、軍事施設、教育・文化施設など)に生まれ変わる。
 例:前田家上屋敷 → 東京大学、島津家上屋敷 → オーストラリア大使館・三井倶楽部
 旗本屋敷
 旗本とは、将軍直属の家来で、将軍に直接会える身分(御目見得)。関ヶ原の戦い以前からの徳川家の家臣。
 江戸城のすぐ西側の「番町」に住む。番町は、江戸城の外堀と内堀の間に位置する。
 組屋敷
 将軍直属の家来である御家人が暮らす。御家人は、旗本より地位が低く、将軍に直接会えない。
 組屋敷が早く造られたのは、外堀の外側の「市ヶ谷」「四谷」「小石川」など
 町人地
 沖積低地の下町に居住
 下町には、隅田川、日本橋川、堀割(運河)などの水路が縦横無尽に走り、舟による物資の輸送に便利
 将軍は、高台の江戸城から、町人たちの生活を見下ろす



脱工業型社会におけるシカゴ学派の都市社会学の限界
 シカゴ学派社会学の活躍した19世紀末から20世紀初頭のシカゴは、工業によって発展していた。
 それに対して、世界都市の発展は、工業に代わって、グローバル化した経済を運営する中枢管理機能(=情報)に基づく
 時代の変化によって、大都市発展の基盤が、工業から情報に変化
 こうした違いによって、都市の社会構造に変化が現れている


先進国大都市の衰退──先進国大都市の人口減少とインナーシティ問題(倉沢 1999: 224-6)
 20世紀中頃をピークに、先進国の大都市の人口が減少
 同時に、先進国大都市中心部の衰退が進行(インナーシティ問題)
 大都市中心部の工場などが、郊外や外国に移転(産業の空洞化)
 それにともない、多くの自営業者や熟練労働者が、大都市中心部から流出。
 大都市中心部には、失業者や高齢者が取り残され、されに、その後を埋めるように、海外からの出稼ぎ労働者が流入
 このように、大都市中心部では、これまで税金を負担していた層が流出し、逆に、担税能力をもたず、さまざまな行政負担の多い層が、相対的に多数を占めるようになる。
 結果として、自治体は財政負担に陥り、行政サービスの水準を下げる
 道路や公園の清掃の回数を減らしたり、ゴミの回収の回数を減らしたりする
 このため、大都市中心部の荒廃が起こり、さらなる人びとの流出を招く悪循環が生じる
 しかし、1980年代に先進国大都市の衰退に歯止めがかかり、1990年代には、人口が増加する
 世界都市論は、こうした新しい段階に入った先進国大都市のあり方を説明する


世界都市論(高橋他 2002: 93-104; 園部 1995: 108-11; Sassen 1988=1992: 179-236)
 世界都市(global city)
 「世界経済を運営するとともに世界経済にサービスを提供する拠点」(Sassen 1988=1992: 180)
 ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、東京など
 自国内の経済以上に、世界経済との関連が重要




参考文献
 倉沢進, 1999, 『都市空間の比較社会学』 放送大学教育振興会.
 園部雅久, 1995, 「分極化する都市」 松本康編 『増殖するネットワーク』 勁草書房, 91-130.
 Sjoberg, Gideon, 1955, “The Preindustrial City,” American Journal of Sociology 60: 438-45.(=2012, 小山雄一郎訳「前産業型都市」森岡清志編『都市空間と都市コミュニティ』日本評論社, 1-18.)
 Sjoberg, Gideon, 1960, The Preindustrial City: Past and Present, Free Press(=1968, 倉沢進訳 『前産業型都市──都市の過去と現在』 鹿島出版会.)
 陣内秀信, 1992, 『東京の空間人類学』筑摩書房(ちくま学芸文庫).
 Sassen, Saskia, 1988, The Mobility of Labor and Capital: A Study in International Investment and Labor Flow, Cambridge: Cambridge University Press(=1992, 森田桐郎他訳『労働と資本の国際移動──世界都市と移民労働者』岩波書店.)
 高橋勇悦・菊池美代志・江上渉編, 2002, 『21世紀の都市社会学』 学文社.




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