質的調査による国際比較調査2(志水宏吉『学校文化の比較社会学』)──国際社会学I2012年7月10日

7月10日の授業は、先週に引き続き、質的調査による国際比較調査の例として志水宏吉『学校文化の比較社会学』(2002年)を取り上げました。比較をするときは、比較の枠組みが大事になります。この調査では、学校文化を、学習指導(ティーチング)、生徒指導(パストラル・ケア)、進路指導(キャリア・ガイダンス)という3つの領域から構成されると考え、それぞれの領域について日本の中学校とイギリスのコンプリヘンシブ・スクールの比較をおこなっています。調査事例の紹介後は、質的調査の進め方についてごく簡単に話をしました。最後は、恒吉僚子(2011年)の記述にもとづいて質的調査による国際比較調査の困難について説明しました。調査で出会う困難の質は、国内調査と国際調査でさほど違いません。しかし、国際調査は地理的・文化的に距離のある対象を調査するため、そうした困難がより鮮明に表れます。

7月17日(火)は、月曜授業実施のため、国際社会学Iの授業はお休みです。最終回の7月24日は、授業全体のまとめをしたいと考えています。


講義ノートはこちら(MS Word, 37Kb)
https://dl.dropbox.com/u/22647991/20120710%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6I%EF%BC%88%E5%BF%97%E6%B0%B4%E3%80%8E%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%96%87%E5%8C%96%E3%81%AE%E6%AF%94%E8%BC%83%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E3%80%8F%EF%BC%89.docx

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講義ノートテキスト版
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20120710国際社会学I(質的調査による国際調査2志水『学校文化の比較社会学』)

質的調査による国際調査2
──志水宏吉『学校文化の比較社会学』

コヴェントリー市のリトルレイク・スクール(第3章)
調査対象の概要
 コヴェントリー市の概要
 イングランド中央部。人口35万人ほど
 イギリスの自動車産業の発祥地
 ジャガー、ロールスロイス、ローバーなど
 1950-60年代の好景気時に、アイルランド、スコットランド、さらにはインド、パキスタンなどから、大量の労働者が街に流入する
 リトルレイク・スクールの特徴
 11歳から18歳までの生徒900人と教員70人
 高級住宅街と失業者の多い市営住宅街
 授業は1コマ70分、午前に2コマ、午後2コマ
 午後4時には学校は閑散とする
 全教員が集まる職員室はない
 教科ごとの研究室あるいは控え室がある
 ソファーがあり、お茶が飲めるラウンジがある。各教員のメールボックスもある。生徒は他地域禁止
 教科ごとに建物・教室が分かれるので、生徒は授業ごとに移動する

日本の「指導」にあたるもの
 教師の活動を包括的に表す「指導」にあたる言葉はない。しかし、日本の中学校における学習指導・生徒指導・進路指導に該当する活動はリトルレイクにも存在する
 ティーチング──学習指導
 パストラル・ケア──生徒指導
 キャリア・ガイダンス──進路指導

ティーチング
 イギリスの教師たちは、自分たちの仕事をまず「ティーチング」だと形容する
 午後4時になると学校が閑散とするのは、授業こそが学校の中心であるという考えの反映
 授業のようす
 配付資料「3. ティーチング (1)1日の授業」(志水 2002:144-7)
 授業がきわめて個別化している
 日本の集団化した授業の対極
 教える生徒は少なければ少ないほどよい
 生徒の能力差が大きく、一斉授業ができない
 70分の授業時間の大半が個人別の作業の時間に費やされる
 大量の細かい知識の伝達よりも、手と頭を動かすことによる知識の定着と個性・創造性の発揮を重視
 体系だった知識が身につかない危険性もある
 スペシャル・ニーズに応える
 学習困難、エスニック・マイノリティ、難聴など
 イギリス全体では、約2割の子どもが該当する
 専門のスタッフが学校に配置される
 普通の生徒から隔離しない
 職業教育プログラム(TVE)
 教育省ではなく政府直轄の機関が管轄し、各地方当局が独自のプログラムを作成する
 10・11年生の時間割の20%がTVE
 レコード・オブ・アチーブメント
 定期テストがない。教科ごとの評定が記載された通知表もない
 レコード・オブ・アチーブメントという1冊のファイル
 成長の記録(生徒)
 各教科の記録(教科担当教師)
 資格・外部試験(担任教師)
 その他の達成・経験(担任と生徒の面談)
 就職試験の際に、履歴書代わりに持参する
 GCSE(General Certificate of Secondary Education)
 10・11年生(アッパー・スクール)は、イギリス義務教育の最終段階
 この2年間で、必修・選択を合わせて8-9教科のGCSEコースを学習する。
 2年間の最後に、GCSE試験を受ける
 5教科での合格が、シックス・ファーム進学の目安
 生徒の半分ほどは、GCSE後に卒業する
 GCSEでは、コースワークが重視される
 レポート、自由研究、作品、パフォーマンスなど
 筆記試験だけで成績評価はおこなわない

パストラル・ケア
 ケアリング・スクール(a caring school)
 ケアリング:配慮の行き届いた、面倒見が良い、愛情のこもった
 スタッフ間の気心が知れており、アットホームでわきあいあいしたムード
 教師と生徒のしっかりとした距離感
 「サー」「ミス」などの敬称を必ずつける
 教師優先。生徒が使えないスペースが明確。
 休み時間に教師と生徒が一緒に遊ぶようなことはない
 消極的な生徒指導
 体罰禁止。生徒を詰問
 決まりを守れない場合は、罰則を受ける
 おしゃべりをやめない生徒は教室から退場
 ディテンション(居残り)、サスペンション(停学)、エクスパルション(放校)
 放校になった生徒は他に学校を見つける。公立学校は定員に空きがあるかぎり、そうした生徒を受け入れる義務がある
 教師に暴力をふるえば、間違いなく放校処分
 明確なルールと厳格な処分
 日本のような「教育的配慮」という温情措置はない
 積極的な生徒指導
 さまざまな活動
 クラブ活動
 各種の旅行・遠足・娯楽活動
 音楽会・文化祭てきなもの
 自由参加式、地域のお年寄りが来る
 競争的・訓練的な要素は希薄で、ずっと娯楽的。リラックスしたムード
 評価されるのは、結果や達成それ自体よりも、参加することやイニシアチブをとること

キャリア・ガイダンス
 専門のスタッフによっておこなわれている
 リトルレイクでは2名
 教員である進路指導部主任と市当局から派遣された進路担当官
 ワークエクスペリエンス
 10年生が2週間にわたって希望の職種の体験をする
 大学進学希望には階層差がある
 大学進学希望者は、ほぼミドルクラスエリアの生徒
 中学校の進路指導と違い、キャリア・ガイダンスに拘束力はない。情報提供と相談活動
 進路振り分けのエージェントではなく、相談相手の役割
 GCSEが要求以下の成績であっても、自己責任で進学は可能


コンプリヘンシブ・スクールと中学校の学校文化の比較
 日本の「指導」のような教育的営為すべてを包含する用語がイギリスには存在しない
 日本では、学習指導・生徒指導・進路指導の重要性が同等
 イギリスでは、ティーチングという中核の周辺に、パストラル・ケアとキャリア・ガイダンスがある
 このため、日本の中学校では、すべての活動が教育的意味を帯びる
 イギリスの教師は職務が限定しているので、帰宅時間はおしなべて早い

表3-3 南中とリトルレイクの学校文化の対比(志水 2002: 171)
南中 リトルレイク
学習指導
授業形態 混合能力編成の優勢 混合能力編成へのこだわり
授業方法 一斉授業・講義中心
教科教師による支配 個別化・作業中心
サポート教師の存在
教育課程 普通教育中心 職業教育の重視
生徒指導
教師生徒関係 ウェット ドライ
課外活動 訓練・競争的 娯楽的
進路指導
役割分担 担任教師中心 専門スタッフ中心
主要機能 進路の振り分け 情報提供

教育と選抜の関係性
 日本では、教育作用と選抜作用が相互依存
 「日本の中学校は、ほとんどすべての生徒が進学を希望する高校にダイレクトに接続しており、高校への社会的選抜の機能を大幅に内部化するような形で日常の教育活動が編成されている。」(志水 2002: 175)
 イギリスでは、そうした相互依存はない
 「コンプリヘンシブ・スクールでは、高校に相当するシックス・フォーム自体が内部化されており、一定の基準をクリアしさえすればそこへの進学は自由に許される。しかも、その基準となるGCSE試験は、外部機関の手によって実施されている。」(志水 2002: 175)


質的調査法の進め方
 調査企画と調査設計は、質的調査も量的調査も変わらない
 データ収集
 参与観察、インタビュー、ドキュメント収集などによるフィールドワーク
 インタビュー記録、フィールノーツの執筆
 配付資料「フィールドノーツの例」(恒吉 2005: 228-31)
 データ分析=コーディング
 ある枠組みにそって、データを編集する
 『学校文化の比較社会学』の例:学習指導、生徒指導、進路指導
 調査報告書の執筆
 エスノグラフィー
 質的調査の詳しい情報
 「高山龍太郎のブログ」のカテゴリー「地域社会学II」を参照のこと
http://r-takayama.at.webry.info/theme/0b7fd3d0c2.html


質的調査による国際比較調査の困難(恒吉 2011: 52-55)
 言語と文化的理解
 「対象者に自分の言葉で語ってもらう必要があり、その意味世界に接近しようとするような研究ほど、調査者が現地の言語や文化に精通していることが求められる」(恒吉 2011: 52)
 ただし、「特定のテーマを理解するために各国の事情や情報を聞く場合には、現地語ができたり、文化的理解ができることが必ずしも必要ではない」(恒吉 2011: 52)
 通訳を介して質問をする、など
 「たとえばサーベイ調査の場合、各国での協力者は必要だが、自分が外国に行って調査をする必要は必ずしもない」(恒吉 2011: 53)
 人的コネクション(例:アクセス、キーインフォーマント)
 「すでに調査対象へのアクセスの段階で、外部者には閉じているために、現地の誰かが口添えをしたり、交渉しなくてはいけない場合もある」(恒吉 2011: 53)
 「海外調査は、滞在期間が短くなりがちなだけに、キーインフォーマントの存在や、効率的に情報を集めることが重要になってくる」(恒吉 2011: 53)
 「共同研究は「国際」でなくとも研究者間のコラボレーションが大切になってくるが、国際比較研究の場合は「国際」であるために、国を越えたコミュニケーションが必要となり、双方の意志疎通(言語面、文化面、技術面)がことさら重要になってくる」(恒吉 2011: 53-4)
 地理的距離と調査期間、費用
 「自国内で行う研究に比べて、対象が地理的に離れている。ここには、費用と、調査期間を確保できるかの二重の課題が関わってくる」(恒吉 2011: 54)
 (長期にわたるフィールドワークの場合)「海外調査を行うにあたって、安価だが安全な滞在先があるのか、助成金はあるのか、そして、日本を離れて海外で長期間調査をすることができるのか等を解決する必要がある」(恒吉 2011: 54)
 「国際比較の強さを生かし、国際比較調査に伴うハードルを越えるにあたっては創意工夫が必要となる」(恒吉 2011: 54)
 例:育児に関わる文化的価値を明らかにするために、中国、日本、アメリカの保育園の映像を撮影し、それを3カ国の教育関係者に見せてインタビューをおこない、現地滞在期間を短く抑えた
 研究計画
 「国際比較調査の場合、「国際」であるために、選択された国がその問いを追究するのに適しているのか、比較単位が適切であるのかから、共同研究者が互換性のある共通枠組みでデータを集められるかまで、諸プロセスにおいての計画性が1国での調査よりも問われることになる」(恒吉 2011: 55)
 「国際比較調査(特に現地調査による)は自国の調査に比べるとこうした実施上の難しさを伴う。だが、国際比較研究はある事象やメカニズムが1国の文脈を越えて意味をもつものなのか、どのような意味をもつのか、さまざまな社会・文化・歴史的要因を多角的に考察することを可能にさせるものである」(恒吉 2011: 55)
 上記の諸点は、国内での調査でも大事なこと。しかし、国際比較調査という困難な調査なので、国内調査でも大事なことがより大事になってくる。


参考文献
 志水宏吉, 2002, 『学校文化の比較社会学──日本とイギリスの中等教育』東京大学出版会.
 恒吉僚子, 2005, 「国際比較研究──比較フィールドワークのすすめ」秋田喜代美・恒吉僚子・佐藤学『教育研究のメソドロジー──学校参加型マインドへのいざない』東京大学出版会, 217-35.
 恒吉僚子, 2011, 「比較教育フィールドワークの困難性と可能性」『社会と調査』(社会調査協会) 7: 51-7.



学校文化の比較社会学―日本とイギリスの中等教育
東京大学出版会
志水 宏吉

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