質的調査による国際比較調査1(志水宏吉『学校文化の比較社会学』)──国際社会学I2012年7月3日

これまで調査票調査というデータを数量化して分析する量的調査について、詳しく方法を見てきました。7月3日の授業では、質的調査による国際比較調査の例として、志水宏吉『学校文化の比較社会学』(2002年)を紹介しました。日本とイギリスの中等教育を比較した調査研究です。1980年代後半に兵庫県尼崎市の中学校でおこなわれたフィールドワークと、1990年代前半にイギリスのコヴェントリー市のコンプリヘンシブ・スクールでおこなわれたフィールドワークにもとづいています。7月3日の授業では日本の中学校について紹介しました。7月10日の授業ではイギリスのコンプリヘンシブ・スクールの紹介と日本の中学校との比較をして、まとめをおこなう予定です。


講義ノートはこちら(MS Word, 35Kb)
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講義ノートテキスト版
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20120703国際社会学I(質的調査による国際比較調査1志水『学校文化の比較社会学』)

質的調査による国際比較調査1
──志水宏吉『学校文化の比較社会学』

再現可能性
 調査に用いた測定を、他の調査者が再現できる可能性
 他の研究者が調査結果を検証できるようにすることが大事
 研究者がベストを尽くしたとしても、誤りを完全に避けることはできない。他の研究者が調査結果を検証することで、研究分野全体の質が向上する
 調査方法の公開
 調査票
 サンプリング法、回収率
 データ分析の方法
 データの公開
 WVS、ISSP、EASS、SSMといった調査では、データの公開を行っている

日本のデータアーカイブ──データの公開
 東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター
 Social Science Japan Data Archive(SSJDA)
http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/
 質問紙法にもとづく社会調査データベース
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/


量的調査と質的調査
 量的調査
 データを数量化して、調査対象を捉える
 例:調査票調査
 質的調査
 数量化できないデータをもちいて、調査対象を捉える
 例:インタビュー、参与観察、ドキュメント分析など
 フィールドワーク=現地調査
 インタビュー、参与観察、ドキュメント分析の多くは、現地に行って調査対象の人びとに会い、データ収集をする必要がある。したがって、フィールドワークには、インタビュー、参与観察、ドキュメント分析の各手法が含まれる
 調査票調査は、実査を調査会社に委託することも多く、フィールドワークとしての性格は弱い


質的調査による国際比較調査の例──志水宏吉『学校文化の比較社会学』
 日本とイギリスの中等教育を比較
 中等教育には中学校と高校が含まれるが、この調査では中学校に焦点がある
 『学校文化の比較社会学』目次
 序章 学校文化への視座
 I 学校文化の構造
 1章 中学校とコンプリヘンシブ・スクールの成立と展開
 2章 南中学校――中学校の学校文化
 3章 リトルレイク・スクール――コンプリヘンシブ・スクールの学校文化
 II 学校文化の変容
 4章 マイノリティー・グループと学校文化――システム内的要因による変化
 5章 教育改革と学校文化――システム外的要因による変化
 6章 「指導」の変容――中学校文化の歴史的変化
 終章 学校文化の比較社会学に向けて
 この授業で取り上げるのは「I 学校文化の構造」

問題設定──研究対象としての中等教育の面白さ
 日本の中等教育は「三重に引き裂かれた」性格をもつ
 教育内容
 「完成教育」と「準備教育」
 「職業教育」と「普通教育」
 教育理念
 「平等主義」と「能力主義」
 教育組織
 義務教育としての「前期中等教育機関」(中学校)と義務制ではない「後期中等教育機関」(高校)
 「教育」作用と「選抜」作用が劇的に出会う場
 教育作用:各個人を当該社会に適合的な成員に形成すべく意図された働きかけ
 選抜作用:各個人を異なる教育的・社会的ポジションに振り分ける効果を有する働きかけ
 中等教育機関において、現代学校教育制度の基本的作用である「教育」と「選抜」がするどくクロスする
 研究目的
 「三重に切り裂かれた性格」をもち、「教育」作用と「選抜」作用が劇的に出会う「中等教育機関で展開されている教育的活動とその背後にある教育の論理」(志水 2002: 6)を考察する
 すなわち、「教師たちが、いかなることがらを教育的に望ましいと考え、校内での諸活動をそれらの価値にしたがってどのように組織立てているか」 (志水 2002: 6)
 上記の総体が「学校文化」に該当する

研究方法の特徴
 「解釈的アプローチ」に立つエスノグラフィックな研究
 研究対象となっている人びとが、どのように考え、どのように行動したか
 観察可能なことがらから、上記の過程を解釈し、それらを記述する
 日本とイギリスの比較研究
 日本の中学校とイギリスのコンプリヘンシブ・スクールの比較
 コンプリヘンシブ・スクール
 コンプリヘンシブ(包括的)
 地域のすべての子どもが、一つの屋根の下で、硬直的でない多様なカリキュラムを学ぶ
 1964年の選挙に勝利した労働党政権が、全国規模で総合制化促進政策に着手し、イギリス各地にコンプリヘンシブ・スクールができる
 コンプリヘンシブ・スクールの学年構成
 ローワー・スクール(7~9年生):日本の小6~中2に相当
 アッパー・スクール(10・11年生):日本の中3・高1
 シックス・フォーム(12・13年生):日本の高2・高3
 混合能力編成(←→能力別学級編成)
 比較のための標準化
 学校文化の3層構造
 第1層:近代の制度としての学校がもつ文化
 国や時代や学校段階の違いをこえて、すべての学校に共通してみられる特徴
 第2層:国・時代・段階別の学校の文化
 「日本の学校文化の特徴」「小学校文化の特性」など
 この研究の焦点は、この第2層にある
 日本の「中学校」およびイギリスの「コンプリヘンシブ・スクール」の学校文化
 第3層:個別学校の文化
 各校の校風や伝統など
 実際に観察された中学校(尼崎市の南中)とコンプリヘンシブ・スクール(コヴェントリー市のリトルレイク)の違いが、上記の3層のどの層に起因するのかについて検討する必要がある。
 「標準化」という論点

データ収集
 (a)公立中学校におけるフィールドワーク
 兵庫県尼崎市にある公立中学校(「南中」)
 1987年4月から3年間
 1年目週2回、2年目週1回、3年目月2回
 当時、南中が取り組んでいた「文部省の指定研究に指導助言を与えるもの」という立場
 (b)コンプリヘンシブ・スクールにおけるフィールドワーク
 イングランド中央部のコヴェントリー市に所在するコンプリヘンシブ・スクール(「リトルレイク」)
 1991年9月から1992年3月にかけての2学期間
 週2回程度
 当時、ウォーリック大学のCEDAR(Centre for Educational Development, Appraisal and Research)という研究所の客員研究員で、「イギリスの中等学校を調査する日本からの研究者」という立場
 (c)教育改革にかかわる国際共同プロジェクト
 CEDARを中心としたイギリスチームと、大阪教育大学(当時の著者の勤務校)を中心とした日本チームによって、両国の教育改革をテーマとした国際比較研究プロジェクト
 1992年9月と93年8-9月の2度にわたる日本チームの訪問調査
 1994年6-7月におこなわれたイギリスチームの訪問調査
 (d)尼崎の教師に対する聴き取り調査
 尼崎市の小中高の教員63名に、「子ども・社会の変化とそれに対する教師の対応」をテーマとするインタビュー調査
 1996年10月から97年2月


学校文化の起源(第1章)
 ねらい:比較のための標準化
 学校文化の第1層「近代の制度としての学校がもつ文化」について、日本とイギリスの中等教育制度の歴史的変遷を振り返って、両者の共通性を確認する
 世界史的な中等教育制度の共通性
 差別的な中等教育の撤廃と民主的・統一的な中等学校の創出
 「複線型」から「分岐型」へ、そして、「分岐型」から「単線型」へ
 中等教育の歴史
中等教育の種別化
(分岐型中等教育) 中等教育の統一
(単線型中等教育)
日本 1899年
中学校令・高等女学校令・実業学校令 1947・8年
新制中学校・新制高校の発足
イギリス 1944年
バトラー法(グラマースクール、テクニカルスクール、モダンスクール) 1965年
回状10/95
総合化制の推進(コンプリヘンシブ・スクール)


尼崎市の南中(第2章)
調査対象の概要
 尼崎市の概要
 兵庫県の東南端、人口約50万人
 城下町 → 工業都市 → 大阪と神戸のベッドタウン
 下町的な特色を色濃く有する都市
 南中の特徴
 生徒数1100名。各学年9クラス。比較的規模の大きな中学校。教員53名
 全般的な「生活のしんどさ」
 父親の5割「技能工・労務関係の仕事」、母親の7割以上「パート」
 片親家庭や生活保護家庭は県平均の2倍ほど
 同和地区(被差別部落)と在日韓国・朝鮮人の居住地区
 合わせて十数%の生徒が「マイノリティ・グループ」
 1970年代から80年代前半にかけての「荒れ」
 全国紙の紙面をにぎわすほど
 正常化に向けての80年代に入ってからの努力
 学力向上をスローガンに、2時間の家庭学習の推進や学年共通テストの導入
 1987-8年の「地域改善対策としての教育」をテーマとする文部省の指定研究
 南中の教員組織
 教員の入れ替わりが激しい
 荒れのひどかった時期には、2年間で全教員の70%が入れ替わった
 年齢の若い教員が多い
 人事異動で南中を希望する者が少ないので、新卒教師が配属される
 教師に必要なワザやコツを先輩から学べない
 校長を中心とする首脳部の強力なリーダーシップ
 教職員組合の力があまり強くない

指導
 南中の学校文化を描く際のキーワード
 現場の教師は「教育」ではなく「指導」の語を頻繁に使う
 戦後にアメリカから導入された新しい学校制度の理念を端的に表す「ガイダンス」の訳語
 「全体としての児童」「調和のとれた発達」「うちにあるものを導き出す」「方向性を与える」など
 教師たちは自分の仕事を「学習指導」「生徒指導」「進路指導」の3つにわけて捉える

南中の学習指導
 南中では「学力」はより狭い「アチーブメント」的な意味合いでもちいられることが多かった
 教育学的な理念にそった授業の目標が設定されるが、実際の授業と理念の間にはかなりの距離があった
 生徒指導にエネルギーが傾けられるため、授業がおろそかになりがち
 生徒の学力は全体としてあまり大きな動きはない
 しかし、約1割の生徒の成績が櫛の歯が抜けるように下降する
 成績を「能力」と「努力」の関数と捉えるならば、教師は「努力」を評価する

南中の生徒指導
 積極的な生徒指導:生徒たちの人間的成長を願っておこなう指導の全体
 クラス、クラブ、生徒会、学校行事などがその舞台
 学級通信:大人になるとは「自分で考え、自分で判断し、自分で行動する、そして、自分で責任をとることだ」と。
 消極的な生徒指導
 「取り締まり」としての生徒指導
 中学校教育における陰の部分。ダーティ・ワーク
 危機管理のノウハウ
 担任の積極的な関わり、保護者との接し方、生徒との接し方など
 校則は厳しくない。校則を厳しくするのは「火に油を注ぐようなもの」
 つながる指導
 生徒との人間的なつながり、とりわけ情的なつながりが重視される
 根気強くしつこく、子どもに接触をはかる
 教師の「情熱」と「指導力」が必要
 ツッパリ・グループと卒業生たちのつながりの強さ
 先輩には絶対服従
 教師「先輩を知っていると、生活指導がやりやすい」
 進学しないツッパリ・グループのほうが早く大人の世界に入っていく
 完成教育の側面

南中の進路指導
 中学校教育の総決算
 生徒との面談を繰り返し、手をかえ品をかえ、「基礎学力の充実」「学習習慣の形成」「意欲の増進」「進路目標の明確化」などに向けて生徒に働きかける
 教師の達成感
 「やった! 公立、全員が受かりました。涙ですよ!」
 逆トーナメント型指導
 成績が中以上の生徒にはほとんど手がかけられず、「力のない、課題をかかえて」生徒ほど教師の指導が手間暇かけたものになる
 力のない生徒を、できるだけ押し上げてやろうとする進路指導
 しんどい子どもたちの意欲を「再加熱」あるいは「保温」する取り組み


参考文献
 志水宏吉, 2002, 『学校文化の比較社会学──日本とイギリスの中等教育』東京大学出版会.



学校文化の比較社会学―日本とイギリスの中等教育
東京大学出版会
志水 宏吉

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