ゴッフマン『アサイラム』──社会学総論2012年6月29日

6月29日の授業では、参与観察法の実例その2ということで、ゴッフマン『アサイラム』(1961年)を取り上げました。『アサイラム』の紹介は、昨年度の社会学総論のブログ記事に尽くされているように思います。そちらのほうをぜひご参照ください。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZgY5kpegs0tbpvjcFPA

昨年度の講義ノートはこちら
http://r-takayama.at.webry.info/201107/article_20.html


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講義ノートテキスト版
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20120629社会学総論(ゴッフマン『アサイラム』)

ゴッフマン『アサイラム』1961年──参与観察②

調査企画
時代背景(藤澤 1989: 78-9)
 アメリカの精神医療の転換期
 アメリカで増加の一途をたどっていた精神病院の入院患者数が1955年にピークに達する
 1956年からの5年間に、精神病院への入院に反対する最初の波が高まる
 向精神薬の発見による治療方法の変化
 入院コストの問題
 精神病院に対する批判の高まり
 患者の人権問題
 1955年に約56万人だった入院患者数は、1975年に約19万人にまで減少する(約3分の1になった)

『アサイラム』のテーマ
 精神病院の患者に対してなされるさまざまな「剥奪」とそれに対する「抵抗」の過程を、被収容者である「精神病患者の側の視点」から捉える
 「聖エリザベス病院での実地調査をするに当って私が直接の目的としたのは、入院患者の社会的世界について、それが患者によって主観的に体験されているままに、知りたい、ということであった」(ゴッフマン 1984: i)
 アサイラム(asylum)
 収容所(養老院、孤児院、精神病院など)
 全制的施設(total institution)
 「多数の類似の境遇にある個々人が、一緒に、相当期間にわたって包括社会から遮断されて、閉鎖的で形式的に管理された日常生活を送る居住と仕事の場所」(ゴッフマン 1984: v)
 全制的施設の5類型
 (1)一定の能力を欠き無害と感じられる人びとを世話するための収容所
 盲人、老人、孤児、障がいのある人のための収容所
 (2)自分の身の回りの世話ができず、自己の意思とは関係なく社会に脅威をあたえると感じられている人びとのための収容所
 結核療養所、精神病院
 (3)社会に意図的に危害を加える人びとから社会を守るための収容所
 刑務所、矯正施設、強制収容所
 (4)仕事を効果的に遂行するための収容所
 兵営、寄宿学校、合宿訓練所
 (5)世間からの隠棲のための施設
 僧院、修道院
 全制的施設の例:映画『カッコーの巣の上で』
 ch.7から9(27分18秒から39分09秒、約12分間)を鑑賞
 全制的施設における生活の3つの特徴
 (1)生活の全局面が同一の場所で同一の権威に従って送られる
 (2)構成員の日常活動の各局面が同じ扱いを受け、同じことを一緒にするように要求されている多くの他人の面前で進行する
 (3)毎日の活動の全局面が整然と計画され、一つの活動はあらかじめ決められた時間に次の活動に移る
 一般社会から隔離された精神病院にいることの問題
 ホスピタリズム、インスティテューショナリズム
 施設の生活に過剰に適応してしまうと、一般社会に適応できなくなる
 「1950年代から60年代にかけて、バートンをはじめ、インスティテューショナリズムに関して、つまり精神分裂病の長期入院患者の荒廃状態などの症状は、精神分裂病に特有の病状の進行過程ではなく、病院やそこで働く職員が作りだしたものではないかということに関して、精神医学界で議論が活発になされるようになった」(丸木 2000: 54)
 「病気を治すはずの病院が病人を生み出している可能性」の指摘

著者ゴッフマンについて
 Erving Goffman、1922年から82年
 カナダ出身のアメリカの社会学者。ペンシルバニア大学に勤務(1968年から)。
 ミクロな日常生活における人びとの関わり方(相互作用)を分析する
 「儀礼的無関心」「役割距離」「印象操作」などの概念を提出


調査設計
 調査期間:1955年から56年の1年間
 調査場所:聖エリザベス病院
 首都ワシントンにある連邦政府が経営する精神病院。7000人の患者を収容
 ゴッフマンが聖エリザベス病院で調査をすることになった経緯には、『孤独な群衆』で絶頂期にあったD・リースマンの介在があった(ヴァンカン 1999: 118)


データ収集
 患者たちが作り出す社会的世界を知るには「参与観察法」が最適
 「当時も現在も変わらない私の信念は、どんな人びとの集団も──それが囚人であれ、未開人であれ、飛行士であれ、また患者であれ──その人びと独自の生活[様式]を発展させること、そして一度それに接してみればその生活は有意味で・理にかなっており・正常であるということ、また、このような世界を知る良い方法は、その世界の人びとが毎日反復せざるを得ぬ些細な偶発的出来事をその人びとの仲間になって自ら体験してみること、というものである」(ゴッフマン 1984: i-ii)
 体育指導主任の助手という立場で、病院内で患者と一緒に生活する
 「私は、職員との交際をさけ、また鍵ももち歩かず、終日患者と一緒に時をすごした」(ゴッフマン 1984: i)
 「ゴッフマンは職員の白衣は着ずに、Tシャツ、ジーンズ、バスケット・シューズ姿である。そういう格好で彼は正体不明の雰囲気を漂わせていた、ことにバスケット・シューズを脱いだときにはそうである。「私は、患者のような服装をして、患者と一緒に食事をした。よくかれらとつきあった」と、のちに語っている」(ヴァンカン 1999: 121)


データ分析
精神病院の仕組み
 精神病院は、患者の自己変容に関する公式目標をもち、それに照らして職務が遂行される。
 しかし、仕事そのものは、公式の目標よりも「その場の秩序の維持」という観点からおこなわれることが多い
 患者の自己変容を達成するために、精神病院は患者に対して「自己の無力化」と「自己の再組織化」をおこなう
 自己の無力化
 それまでの日常生活における役割の剥奪
 団体生活によるパーソナルなテリトリーの剥奪
 情報の聖域(プライバシー)の剥奪
 アイデンティティのための用具一式(identity kit)の剥奪
 自己の再組織化
 患者に「特権体系」を選別的に分配する
 特権の例:タバコ、コーヒー、テレビをみる権利
 日常生活では誰にでも認められているもの
 患者は「第二次調整」(secondary adjustment)によって自分が単に操作されるだけの存在でないことを示す(病院への抵抗)
 状況からの引きこもり(situational withdrawal)
 白昼夢や幻想によって自らを全制的施設から引き離す
 妥協の限界線(intransigent line)
 意識的に施設に挑発的な態度をとり、みなにわかるようなかたちで職員との協力を拒絶する
 植民地化(colonization)
 施設内で入手できるものから最大限の満足を得ることで安定的で比較的充実した生活を確立する
 転向(conversion)
 職員の見解を受け入れ、非のうちどころのない患者として自発的にふるまう
 こうした第二次調整は、精神病院だけに見られるのではなく、会社や学校など管理の行き届いた組織でも起こりうる


調査結果の公表
 上記のような精神病院に関するゴッフマンの分析や概念化は、彼自身の怒りや皮肉が根底にある
 「セント・エリザベス病院の一年は彼に衝撃を与えたのだ。これはほとんど確かだ。ゴッフマンの感情は冷たい怒りという形で現れ、それはしばしばブラック・ユーモア、社会批判、それに社会学理論を混在させた概念化という性質を帯びている」(ヴァンカン 1999: 121)
 1956年10月に開かれた「集団過程」に関する会議で、ゴッフマンは聖エリザベス病院でのフィールドワークの報告をするが、挑発的な言葉づかいと内容だったため物議を醸す(ヴァンカン 1999: 121-3)
 「彼は、患者の病院収容過程の恣意性と精神病院の柔らかな暴力性を告発せずにはいられなかったのである」(ヴァンカン 1999: 123)
 『アサイラム』は、精神病患者が生活する場所が「病院から地域社会へ」と変わる一助となる
 「ゴフマンの研究や前述の一連の精神病院の研究は、入院の及ぼす弊害、特に施設症を明らかにし、それは一方では精神病院の改革をもたらし、他方では地域医療へと発展した」(藤澤 1989: 93)
 反精神病院という社会の流れを作った作品
 ケン・キージーの小説『カッコーの巣の上で』1962年
 映画『カッコーの巣の上で』1975年
 アカデミー賞主要5部門を受賞(作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞)



原典
 E・ゴッフマン, 1984, 『アサイラム──施設被収容者の日常世界』誠信書房.


参考文献
 ヴァンカン, 1999, 「ゴッフマン社会学の誕生」『アーヴィング・ゴッフマン』(石黒毅訳)せりか書房, 116-134.
 藤澤三佳, 1988, 「ゴフマンにおける儀礼侵犯の問題──『アサイラム』と日常世界内の個人の「汚染」」『ソシオロジ』 33(1): 77-94.
 丸木泰史, 2000, 「精神科デイケアセンターとインスティテューショナリズム──E.ゴッフマン『アサイラム』再考」『大阪医科大学紀要人文研究』 31: 51-73.



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