質的データの収集2(参与観察)──地域社会学II2011年12月14日

地域社会学IIの後半は質的調査法について話していきますが、後半の前半は「参与観察」「インタビュー」「ドキュメント調査」という3種類の質的データの収集法を取り扱います。後半の後半は、「コーディング」を中心に質的データの分析について話す予定です。12月14日は、質的データ収集法の第1回目として「参与観察」について見ていきました。

また、14日の授業の冒頭で、成績評価について説明しています。受講生も少なかったので、今回はレポートにしました。詳しくは下記を見ていただきたいと思いますが、課題の主眼は「本を実際に手にとって読んでほしい」というところです。本を読むのには時間がかかるので、レポート課題を早めに発表いたしました。冬休みの時間のある時に、ぜひチャレンジしてほしいと思います。


講義ノートはこちら(MS Word, 35Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZ904BsxH3SCoDAG0G


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講義ノートテキスト版
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20111214地域社会学II(質的データの収集2参与観察)

質的データの収集2──参与観察

成績評価
 レポート課題:授業の前半で紹介した六つの研究のうち一つを読んで、その研究を論評しなさい。その際、必ず、その研究でもちいられている調査のやり方にもふれること。
 ワース『ゲットー』、サザーランド『詐欺師コンウェル』、ガンズ『都市の村人たち』、リーボウ『タリーズコーナー』、ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差別』、パットナム『孤独なボウリング』
 字数:4000~5000字(A4サイズの紙を使用)
 〆切:2月13日17時(卒業予定者)、2月27日17時(卒業予定者以外)
 提出先:経済学部教務


参与観察法の定義
 参与観察とは、調査者が、よく知らない社会(集団)に入りこみ、比較的長期にわたって、そのメンバーの一員として生活をともにしながら、そこで繰り広げられる人びとのやりとりや出来事を観察し記録・分析する調査法
 五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を駆使する調査法
 調査者の力量が問われる調査法
 エスノグラフィー(ethnography)
 「民族誌」と訳されることもある
 質的調査、特に、参与観察による調査報告の一形態であり、ある集団の社会生活を、主観的次元も含めて、具体的かつ包括的に記述したもの
 参与観察はたいへんだが、その労力に見合う価値がある
 参与観察は、一見、簡単そうに見えるが、実は、とてもたいへんな調査法である。
 なじみのない環境で、長時間過ごさねばならない
 親近感のわかない人とも、人間関係を維持せねばならない
 日常のありふれた出来事にすぎなくても、大量に記録せねばならない
 観察を記録したフィールドノーツの分析に、何ヶ月もかかる
 調査中、調査後に、調査者がリスクを負うこともある
 調査者にこころ構えとやる気があれば、参与観察は、人びとの社会生活と人間関係について魅力に満ちあふれた洞察を得ることができる
 得られるデータの質と量が豊か
 発見が多く、それまでの常識的な理解(現実に対するイメージ)をくつがえせる可能性が高い
 さまざまな出会いや感動がある
 調査者自身が成長する


参与観察の実践
調査者の役割
 参与観察では、調査者自身がデータの収集と分析の道具になる
 フィールドにおける調査者の力量が問われる
 参与観察は、調査者の立場・能力・個性が反映したものにならざるをえない
 100人が参与観察をすれば、100通りのエスノグラフィーが生まれる
 客観的なエスノグラフィーは、ありえない
 データを収集する道具である調査者の能力や立場をエスノグラフィーの読者に示す必要がある
 参与観察をする調査者は、ある特定の立場からしか、調査対象と関われないことや調査対象を観察・記録できないことを自覚する
 そして、そうした自らの立場が形成された自分自身の生活歴を意識し、人びとに開示する必要がある
 同様に、読者も、調査者の立場や生活歴を勘案しながら、エスノグラフィーを読む必要がある

良い参与観察を判定する基準
 調査者がフィールドにどのくらいなじんでいるか=「主観の適合性」
 データ収集と分析の道具である調査者の理解が、調査対象の実際の現実とどのくらい一致しているかを判断する基準
 「時間」「場所」「社会的状況」「言語」「親密性」「社会的合意」の6指標から判断

主観の適合性を判定する6指標(p.239)
指標 説明
時間 調査者が、集団と過ごす時間が増えるほど、適合性が増す
場所 さまざまな場所で観察するほど、人びとの行為に対する理解が増す
社会的状況 さまざまな社会的状況で観察するほど、人びとの行為に対する理解が増す
言語 調査者がその社会的場でつかわれている言葉をよく知るほど、その場についての解釈は正確になる
親密性 調査者は、集団やその成員と、個人としてのかかわりが増すほど、集団内の人びとによる意味づけや行為をよく理解できるようになる
社会的合意 ある文化で人びとに共有されている意味やルールを、調査者が第3者に示せるほど、適合性は高い
May, Tim, 2001, Social Research: Issues, methods and process, 3rd ed., Buckingham: Open University Press.(=中野正大監訳, 2005, 『社会調査の考え方──論点と方法』 世界思想社, pp. 239)

フィールドに入る調査初期の重要性
 なぜなら、参与観察をするには、調査者が、調査対象者に、その社会(集団)の一員として、受け容れてもらわねばならないから
 個人にとっての重要性
 生活のための拠点づくり
 参与観察では、さまざまな緊張やストレスがかかるので、それを緩和して長く調査を続けるための生活の拠点が必要
 ホワイトが『ストリート・コーナー・ソサエティ』の研究で、当初、マルチニ家の2階に下宿した例など
 調査にとっての重要性
 調査を遂行するための人間関係づくり
 最初に、調査の意図へ「疑念」をもたれても、ごくあたり前の反応
 拒否されるなどの不愉快な反応も、意味のあるデータになる
 複雑な組織では、レベルごとに観察の許認可権をもつ人が違うことがある
 経営者レベルと労働者レベルなど
 対立している派閥の片方に肩入れしない
 「公平中立」な調査者であることをアピールする
 調査対象の人間関係を見極め、「地雷」を踏まない
 分析にとっての重要性
 調査者にとって「奇妙」(strange) に見えるものが、調査対象を理解するにつれて、「なじみ深い」(familiar)ものへ変化する過程こそが、分析にとって重要
 調査対象者にとって「なじみ深い」ものであっても、調査者にとって「奇妙」に見えるものがある
 こうした「奇妙」に見えるものをフィールドノーツに記録する
 最初は「奇妙」に見えるものも、調査者がフィールドになじむにつれて、あたり前のものとなり、見えなくなってしまう。したがって、フィールドになじむ時期にしか、「奇妙」なものを記録できない
 調査者が、フィールドに存在する社会規範や文化や人間関係を理解するにつれて、「奇妙」に見えたものの理由が理解できるようになる。その理解こそが、調査対象となっている社会を説明することにつながる

フィールドノーツの書き方
 エスノグラフィーを書くための、もっとも基本的な資料になるので、「まめに」「正確に」記録する
 現場ではメモをとれないことも多い。記憶はすぐにうすれるので、観察が終わってから、できるだけ早く書く
 普段の生活において記録を取ることは珍しいなので、とても目立つ。周囲の人に緊張感を抱かせ、普段のやりとりを阻害することもある。
 現場でとったメモを現場を引き揚げてから、他人が読んでも情景が思い浮かぶきっちりとした文章に直す
 自分のメモであっても、1ヶ月もすれば、細かい点が思い出せなくなる。「未来の自分は他人」と考えて、他人が読んで分かる文章を書く。
 フィールドノーツに書く内容
 観察の初期は、できるだけ網羅的に書く
 仮説らしきものが見えてきた観察の中期以降は、そうした理論的関心に沿ったものだけ記録する
 初期は「広く浅く」、中期以降は「狭く深く」
 人間関係の特質を書きとめると同時に、出来事が展開する際の秩序や場も記しておくことが重要
 用いられたルールや観察した出来事について考えたことも書きとめる
 「記述」レベルだけでなく、ひらめいた「説明」レベルも書いておく

フィールドワークから引き上げる時期
 理論的飽和
 観察を続けても、それまでの観察から得られた理論を問い直したり修正したりできなくなる状態
 ここに至れば、観察を終え、フィールドから引き上げる。そして、本格的な分析に着手する
 予算などの外的な制約
 論文の〆切
 研究費
 研究期間の定め


参考文献
 T・メイ(中野正大監訳), 2005, 『社会調査の考え方──論点と方法』 世界思想社.「第7章 参与観察──視角と実践」



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