ワース『ゲットー』1928年──地域社会学II2011年10月12日

地域社会学IIの授業は、10月12日(水)が2回目でした。1回目の先週の10月5日は、ガイダンスということで、授業の目的や進め方について話をしました。シラバスに記載した内容を詳しく説明して終わりました。授業の前半6回は、質的調査をもちいた地域社会学の研究を順番に紹介していきます。後半8回は、インタビュー、参与観察、ドキュメント分析などの質的調査の具体的手法を紹介していこうと考えています。

さて、具体的な研究紹介のトップバッターは、ワース『ゲットー』(1928年)です。ゲットーとは、ユダヤ人の集住地区を指します。『ゲットー』前半は、古くからゲットーが存在した西欧のゲットーの歴史について詳述し、後半は、アメリカのゲットーを描いています。


講義ノートはこちら(MS Word, 30Kb)
https://1drv.ms/w/s!Au4k6YKQM1eZ90ZwJdXe_18qciE5


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講義ノートテキスト版
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20111012地域社会学II(ワース『ゲットー』)

ワース『ゲットー』1928年

ゲットーとは
 当初は「周囲から隔離されたユダヤ人の集住地区」
 歴史的には、中世ヨーロッパの都市制度のもとで、法律によって他の住民から隔離されたユダヤ人居住区をさし、通常、周囲を壁で囲まれ、外の世界に通じる一つか二つの門は夜には鍵が下ろされた。フランス革命の影響でしだいに廃止された。(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
 第二次世界大戦中ユダヤ人絶滅のためにナチス・ドイツによって設けられた強制収容所もまたゲットーとよばれた。(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
 後に意味が拡張され、「貧しい少数民族の集住地区」も指すようになる
 例:黒人ゲットー
 経済的貧困と文化的な特異性


ユダヤ人というテーマの面白さ
長い間、自分たちの国がなかった民族
 紀元後70年のエルサレム滅亡とともにユダヤ人の「離散(ディアスポラ)」が始まり、世界各地にちりぢりに暮らす
 ユダヤ人国家イスラエルの成立を宣言(1948年)
 人口は737万4000人(2008年)
 周囲のアラブ系国家との紛争が絶えない
 第四次中東戦争(1973年)はオイルショックを引き起こす

差別を受けながら、「よそもの」として暮らす
 ユダヤ人のゲットーとキリスト教徒のホスト社会との関係
 都市的な社会=「よそもの」から成る社会

経済的・文化的な成功
 ユダヤ人口は世界で1300万人程度にすぎない(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
 経済的な成功者
 ロスチャイルド家(金融界)
 文化的な成功者
 カール・マルクス(経済学)
 ジクムント・フロイド(精神分析学)
 アルベルト・アインシュタイン(物理学)


著者のワースについて
 Louis Wirth、1897年ドイツ生まれ
 ユダヤ教徒(後に、キリスト教徒の妻と結婚する)
 シカゴ大学社会学科の教員
 シカゴ学派の第3世代と呼ばれる
 1938年、論文「生活様式としてのアーバニズム」を発表
 都市社会学の分野に大きな影響をあたえる
 1947年、アメリカ社会学会の会長
 1952年、心臓麻痺により急死。55歳。


『ゲットー』の内容
『ゲットー』は大きく二部構成
 ゲットーを研究するための社会的枠組みや社会的意義(1章と14章)
 「ゲットーとは抑圧された病理空間であるとともにそこに住まう人々が固有の文化や人間性を醸成する豊かな空間といえる」(『社会学文献事典』648頁)
 前半:西欧におけるゲットーの歴史や典型的なゲットーの記述(2~7章)
 ディアスポラ(離散)が始まって以来、ユダヤ人は、ヨーロッパ各地で、キリスト教徒の間で、ゲットーと呼ばれる他から隔離された地域に暮らした歴史が描かれる
 ゲットーは、自発的なものであったり、制度化された強制的なものであったりしたが、ホスト社会から孤立していることに共通の特徴がある。
 ゲットーの社会的孤立を通して、ユダヤ人は、よそ者としての独自のパーソナリティや生活様式を発達させた。ユダヤ人は、マージナル・マンであり、コスモポリタンであった。
 後半:アメリカにおけるゲットーの歴史と分析(8~13 章)
 アメリカへの入植によるユダヤ人移民社会の形成
 在米ユダヤ人の数は約650万人
 イスラエルの人口は約737万
 現在、イスラエルの最大の友好国はアメリカ
 アメリカ東海岸に移民した最初のスペイン系ユダヤ人の記述に始まり、ドイツ系ユダヤ人、ロシア系(ポーランド系)ユダヤ人がやってきたというアメリカ全体ユダヤ人移民の歴史
 シカゴのゲットーの形成過程。シカゴでは、先に移民してキリスト教的世界にとけ込んだ豊かなドイツ系ユダヤ人が、1882年の「五月法」後に吹き荒れたポグロムを逃れて後からアメリカへ大量にやって来たかたくなにユダヤ的生活を続ける貧しいロシア系ユダヤ人を差別する
 ロシア系ユダヤ人のゲットーでのシナゴーグを中心に営まれるコミュニティ生活

ゲットーによるパーソナリティや生活様式の形成
 外見上は、ユダヤ教徒もキリスト教徒も見分けがつかない
 たとえば、キリスト教徒と区別するために、ユダヤ人男子の上着に黄色い布製のワッペンをつけさせた
 ゲットーの世界とその外の世界という二つの世界の境界に生きることは、ユダヤ人の自意識を過剰にした
 相対主義、精神の自由、合理性
 マージナル・マン、コスモポリタン

アメリカにおけるユダヤ人(ロシア系)のゲットー(第11章)
 こうした文化共同体としてのゲットーを象徴するのが、シナゴーグである
 シナゴーグの役割
 ユダヤ教の教義について議論や礼拝(本来の役割)
 家庭や仕事の問題についての「相談所」
 子どもたちが放課後に出席する「宗教学校」
 葬式などで相互扶助をおこなう「援助団体」
 住民間のもめごとを仲裁や裁定する「裁判所」
 このようなシナゴーグを中心に生活するアメリカのユダヤ人ゲットーの生活は、トマスとズナニエツキ『ヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』で描かれたカトリック教会を中心に相互扶助的な生活を送ったポーランド人移民社会と似ている
 ゲットーには、シナゴーグの他、他から区別される文化領域の印となるさまざまな制度がある。それは、コーシェル肉屋、魚屋、コーシェル・パン屋、浴場、イディッシュ語で上演される劇場、知識人たちが政治などを議論する地下室や2階にある本屋、喫茶店、食堂など。

ゲットーからの脱出と帰還(第12~13章)
 上記のような伝統的なユダヤ人の生活様式を維持しているのは、ロシア系ユダヤ人だけである。
 先に移民したドイツ系ユダヤ人は、アメリカ社会のなかで、非ユダヤ的な生活を送っており、ロシア系ユダヤ人と同一視されたくないと考えている。
 ゲットーの外の世界との接触が増えるにしたがって、ロシア系ユダヤ人のなかでも、ユダヤ的な儀式や規定をわずらわしく考える青年層が増えている。そうした青年層は、ゲットーからの脱出を試みる
 ゲットーの内部だけで暮らすかぎりでは、自分たちの生活を「普通」と考えている
 こうして自己を対象化できるようになったゲットーの住民は、ユダヤ人に対する差別意識を内面化し、ユダヤ的なものから逃れようとする。そうした人びとが移住した先が、ドイチュラントとも呼ばれるラウンデールであった。
 スライド:バージェスの同心円地帯モデル
 しかし、ユダヤ人的なものから逃れようと移り住んだラウンデールには、同じようにゲットーから逃れてくる人が大量に移り住む結果、ユダヤ人街となってしまう。さらに、都市の外側の地域に住まいを移動する。
 ユダヤ人が、狭いゲットーの通りから外界に広がるコスモポリタンな生活へ向かって思い切って進んでいくと、すぐさま外部の妨害に出会い、心の内面の葛藤を味わう。
 ゲットーから足抜けしようとした多くのユダヤ人は、外部の抵抗に出会い、心の葛藤を味わい、もとの心休まる同胞のいるゲットーに戻ってくる。なかには、シオニストになるなどより過激にユダヤ人的になる者も少なくない。
 ワースは、ゲットーを過渡的なものと考えていたが、上記のような過程があるかぎり、ゲットーが解消されるには時間がかかる。


『ゲットー』の調査法
 シカゴのゲットー地区の調査から始まり、ヨーロッパのゲットーの歴史やユダヤ人的なパーソナリティへと研究が広がった
 1923年に設立されたシカゴ大学の「地域コミュニティ調査委員会」(Local Community Research Committee)の一プロジェクトとして『ゲットー』の研究が開始される
 LCRC:地域コミュニティの研究を主目的とした学際的な研究組織で、経済学、政治学、社会事業、社会学、哲学の各代表によって構成(高橋 2004)
 財政的には、ローラ・スペルマン・ロックフェラー記念財団が支える
 「社会学にとって、LCRCの運営資金は、スタッフにファースト・ハンドのデータにもとづく研究の機会を与えただけでなく、リサーチ・アシスタントとして多数の大学院生を雇用することを可能にし、結果として若手の研究者に研究機会や生活の糧を与えると同時に、研究者としての訓練の機会を提供することに寄与した」(高橋 2004: 226)
 ワースも当時は大学院生だった
 調査の主な手法は、ドキュメント調査。
 多様なドキュメントを項目ごとに時系列で編集し、考察を加える


原典
 ルイス・ワース, 1993, 『ゲットー──ユダヤ人問題の原型』(今野敏彦訳)明石書店


参考文献
 今野敏彦, 1993, 「訳者あとがき」ワース『ゲットー──ユダヤ人問題の原型』明石書店, 385-390.
 好井裕明, 1998,「ワース『ゲットー』」『社会学文献事典』弘文堂, 648.
 高山龍太郎, 2008, 「都市的生活様式──L.ワース「生活様式としてのアーバニズム」(1938)」井上俊・伊藤公雄編『都市的世界 (社会学ベーシックス 4)』世界思想社, 13-22.
 高橋早苗, 2004, 「初期シカゴ学派とフィランソロピー」宝月誠・吉原直樹編『初期シカゴ学派の世界──思想・モノグラフ・社会的背景』恒星社厚生閣, 225-243.







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