社会学総論20110708前半(メイヨー『産業文明における人間問題』)

7月8日の社会学総論(前半)は、実験法という観点から、メイヨー『産業文明における人間問題』(1933年)を紹介しました。メイヨー、レスリスバーガー、ディクソンらによるホーソン工場の実験は、照明実験、継電器組立作業実験、面接実験、バンク捲取観察実験の4つの部分から成ります。そのなかから、今回の授業では、『産業文明における人間問題』第3章の記述にもとづいて、継電器組立作業実験を詳しく取りあげました。

継電器組立実験は、科学的管理法の実験としては失敗だったと思うのですが、その失敗のおかげで「人間関係論」という新しい人事管理の考え方が生み出されました。まさに「失敗は成功のもと」ですね。失敗の原因が究明できたのも、多様なデータを取っておいたおかげだったように思います。「備えあれば憂いなし」でしょうか。



講義ノートはこちら(MS Word, 32Kb)
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講義ノートテキスト版
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2011070801社会学総論(メイヨー『産業文明における人間問題』)

メイヨー『産業文明における人間問題』1933年──実験法

実験法(実験計画法)
 定義:ある「ことがら」の効果(因果関係)を確定するために、その「ことがら」以外の条件をすべて同一にして、2つ以上のグループの間で結果を比較する

植物の成長に対する肥料の効果を調べる実験計画法の例
実験群 統制群
肥料 与える 与えない
気温 25度 25度
水の量 500cc 500cc
日照時間 10時間 10時間

 言葉
 実験群(実験グループ、治療群)
 効果を測定したい「ことがら」を与えるグループ
 例えば、肥料、薬、福祉サービス、照明など
 統制群(コントロール・グループ、対照群)
 実験群の比較の対象として、効果を測定したい「ことがら」を与えないグループ
 コントロール
 効果を測定したい因果関係を攪乱する可能性のある要因を除去するということ
 プラシーボ
 新薬の臨床効果を調べる実験法で、統制群に与えられる効果のない偽薬のこと
 薬の薬理的な効果だけでなく、薬を飲んだということ自体が、患者に効果を与える。「病は気から」
 実験法のポイント
 測定したい「ことがら」以外について、いかに、実験群と統制群の条件を等しくするか


調査企画──調査の動機と社会的意義
調査の動機と社会的意義
 いかに工場労働者の生産性を上げるか
 科学的管理法
 作業工程を科学的に研究することによって、無駄や無理を排除して合理的に作業工程を管理する
 出来高払い賃金
 1日の作業高を明示して、それに対する達成度をもとに賃金を支払う
 生産性を上げるには、労働にともなう疲労と単調さを研究する必要がある
 経済的利益が目の前にあっても、疲労がはなはだしかったり、作業が単調でつまらなかったりした時には、働こうとはしない

ホーソン工場実験の概要
 調査期間
 1924年から1932年
 調査地
 アメリカのシカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場
 当初はウェスタン・エレクトリック社が独自に調査をおこなっていたが、途中からハーバード大学が調査に加わる
 調査の主導者
 メイヨー(Elton Mayo、ハーバード大学)
 レスリスバーガー(F. J. Roethlisberger、ハーバード大学)
 ディクソン(W. J. Dickson、ウェスタン・エレクトリック社雇用者関係調査部部長)
 四つの調査から構成
 照明実験(1924年~)
 目的:生産高に対する照明の効果を測定する
 結果:実験群と統制群ともに生産性が向上した
 結論:(1)照明は生産高に対してあまり影響をもたらさない要因である、(2)照明以外のすべての変数を適切に統制しなかったために成功しなかった
 継電器組立作業実験(1927-29年)
 継電器:電気回路のスイッチの開閉を別の電気回路の電流、電圧、周波数などの変化によって自動的に行なう装置。リレー。(日本国語大辞典)
 照明実験の失敗をふまえて、諸変数をもっと統制できるように、労働者の小集団を対象に実験をおこなう
 賃金支給方法・休憩時間・勤務時間・給食といった労働条件を変えながら、6人の女性作業員の生産高を調べる
 面接実験(1928-30年)
 工場における監督方法に対する従業員の意見を面接によって聴取する
 2年間に、全従業員4万人のうち2万1000人が面接を受ける
 結果
 意見を表明する機会として面接は従業員に喜ばれた
 従業員の不平や不満があやふやなものであることがわかった
 不平の対象を取り除いても、従業員の不平は収まらなかった
 不平の対象を放っておいても、従業員の不平がなくなった
 非指示的面接法の重要性が確認された
 質問それ自体が意見を形成してしまうことに気づく
 監督者自らが面接員となり、従業員に対する理解が深まり、監督方法が改善された
 バンク捲取観察実験(1931年)
 9人の配電工、3人のハンダ工、2人の検査工がおこなう電話交換用の端子台の組み立て作業に対して、半年間、参与観察をおこなう
 結果
 集団出来高制の賃金にもかかわらず、生産高は一定だった
 生産固定率(rate-fixing):ある生産率が適当だと同意し、その率を維持するような労働者集団の慣行が存在する
 たとえば、午前中にできるだけ能率をあげて1日の作業量の見通しがつけば、午後はゆっくり作業をする
 能力が高いものが、必ずしも高い生産性を上げていない
 結論
 従業員たちは強力なインフォーマル・グループをつくり、そこには共通の感情ないし行動基準が生まれていた。
 インフォーマル・グループの行動基準は、会社(フォーマル・グループ)の方針よりも優先されることが多い


継電器組立実験の調査設計──調査の段取り
 実験協力者
 6名の女性従業員。
 組立作業の経験がすでにあるもの
 現場の監督者が、実験に協力してくれる従業員を選んだ
 調査対象となった作業
 1つの枠組みに35の部品(コイル、誘電子、接触バネ、絶縁体など)を取り付けて、4つのネジで締める
 約1分間を要する作業。就業時間中、この作業を反復する
 6名の実験協力者のうち、5名は作業台で継電器を組み立て、1名は部品をそろえて5名にわたす


継電器組立実験のデータ収集
 継電器1台を完成するのに要した時間の記録
 1台の継電器が完成すると、1分間に約4分の1インチの速度で一定に動いている紙テープに穴が空く
 1台の継電器の完成に要した時間は、紙テープ上の穴と穴の距離を測定すれば計算できる
 実験状況の日誌
 気温と湿度
 作業の開始時間と終了時間、休止時間
 実験中に発生したすべてのことがらを記録
 作業員の健康状況に関する記録
 病院で定期的に検査を受け、疲労などの体調の状態を記録
 作業員の家庭環境や社会環境
 作業員の意見や態度を記録
 面接を通して、作業員の意見を聴取


継電器組立実験のデータの分析
実験の経過
期間 目的 賃金支払方法 休憩時間 勤務時間 結果 一人あたり週平均生産高
第1期 2週間 実験作業室移動前の生産高を測定 団体出来高払 休憩なし 17時終業 2400台
第2期 5週間 実験作業室に移動(以下、実験作業室)
第3期 8週間 賃金による生産性向上を測定 グループ出来高払 全生産高が増加 2500台
第4期 5週間 休憩による生産性向上を測定 午前5分午後5分休憩 生産が明らかに増加
第5期 4週間 休憩による生産性向上を測定 午前10分午後10分の休憩 日産高や週生産高が過去最高の上昇
第6期 4週間 休憩による生産性向上を測定 5分の休憩を6回 作業員が作業の中断を嫌い、生産曲線は多少減少
第7期 11週間 残りの実験の標準とする 午前15分軽食午後10分茶菓 生産は再び以前の高水準に戻る 2500台
第8期 7週間 勤務時間短縮による生産性向上を測定 30分早く16:30終業 日産高や週生産高をいちじるしく高める
第9期 4週間 勤務時間短縮による生産性向上を測定 1時間早く16時終業 日産高や週生産高はともに多少低下したが、一時間あたりの平均生産高は上昇
第10期 12週間 第7期と同条件にする 17時終業 日産高や週生産高は過去最高となる 2800台
第11期 12週間 勤務日減少による生産性向上を測定 土曜日休業 日産高は上昇したが、週生産高は減少。しかし、週生産高は過去3位の高水準
第12期 12週間 第3期と同条件にする 休憩・軽食・茶菓なし 土曜日勤務、17時終業 日産高と週生産高は過去最高 2900台
第13期 31週間 第7期と同条件にする 午前15分軽食午後10分茶菓 日産高と週生産高は過去最高 3000台
第14期 9週間 第11期と同条件にする 土曜日休業
第15期 第13期と同条件にする 土曜日勤務、17時終業
(メイヨー, 1967, 『新訳 産業文明における人間問題──ホーソン実験とその展開』日本能率協会, 63-70頁より作成)

実験から得られた知見
 実験結果
 労働条件の同じ時期が何回かあったが、生産高は実験の2年間おおむね上昇した
 労働条件を悪化させても、生産性が低下しなかった
 実験結果についての解釈
 従業員の生産性は、客観的な労働条件のみでは説明できない。従業員の心理的な態度にも、生産性向上の要因を認めるべき。
 生産性向上の心理的要因:自由、自発性、自己有用感、責任感、一体感など
 「これらの実験によって、女子作業員たちは、快適な作業環境、作業に対する誇り、自己の価値を認められたという喜び、それらからくる責任感というような、彼女たち自身の心の中に生まれた感情的な要因が勤労意欲を高めたことが明らかとなったのである」(後藤 1976: 43)


調査結果の公表
 科学的管理法の実験としては失敗だったが、その失敗のおかげで「人間関係論」という新しい人事管理の考え方を生み出した。
 人間関係論ブーム
 「1939年、メイヨーやレスリスバーガーとディクソンによって、ホーソン実験の研究結果が発表されるや、アメリカの産業界および関係学界に一種の人間関係論ブームがまき起こり、人間を単なる労働力の提供者ではなく、心理的、社会的な欲求をもつ全人格的な存在としてとらえ、人間行動の心理あるいは人間集団の社会理論を究明しようとする研究が、多くの社会心理学者あるいは、社会学者の手によって行われるにいたった」(後藤 1976: 52)
 科学的管理法を背景とする科学的人事管理に対する人間関係論の特徴(後藤 1976: 51-2)
 組織の物理的構造よりも、集団としての社会的構造を重視
 組織を論理的に調整するよりも、社会的協力態勢を生み出すことを重視
 集団の構成員の行動を規制するのは、組織が設定した公式の規準よりも、集団内部に発生した行動の規範であると考える
 組織目的の達成と集団成員の社会的満足を妨げる要因として、指導者の不適切な行動をあげる
 従来の管理論が組織を静態的に捉えているのに対して、人間関係論は動態的に見ている
 批判
 ベンディクス
 ミルズやシェッパード
 ブルーマーやダンロップ
 ドラッカー


原典
 メイヨー, 1967, 『新訳 産業文明における人間問題──ホーソン実験とその展開』(村本栄一訳)日本能率協会.

参考文献
 G・イーストホープ, 1982, 「第2章 実験的方法」『社会調査方法史』慶應義塾大学出版会, 32-38.
 鈴木春男, 1998,「メイヨー『産業文明における人間問題』」『社会学文献事典』弘文堂, 591.
 木下栄二, 2005, 「コラム 実験という発想とホーソン効果」大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋・永野武『社会調査へのアプローチ──論理と方法 第2版』ミネルヴァ書房, 318-9.
 大橋昭一・竹林浩志, 2008, 『ホーソン実験の研究──人間尊重的経営の源流を探る』同文舘出版.
 後藤敏夫, 1976, 『人間関係管理──人間集団と組織』ぎょうせい.
 Madge, John, 1962, "5 Pioneers in Industrial Sociology," The Origins of Scientific Sociology, New York: Free Press, 162-209.




産業文明における人間問題―オーソン実験とその展開 (1967年)
日本能率協会
エルトン・メイヨー

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