社会学総論20110722前半(ベッカー『アウトサイダーズ』)

7月22日の社会学総論(前半)は、インタビュー法の実例ということで、ベッカー『アウトサイダーズ』(1963年)を紹介しました。アウトサイダーとは、社会の規則(規範)の「外側」にいる人という意味で、規則からの「逸脱者」を指しています。この本は、逸脱者に関するベッカーの論文を集めたものですが、そのなかから第3章「マリファナ使用者への道」を取り上げました。ベッカーは、この論文を書くために、雪だるま式サンプリングによって、50回のインタビューをおこなっています(おそらく半構造化インタビュー)。

この本の刊行の影響は大きく、その後、逸脱のレイベリング論と呼ばれる研究が盛んになります。レイベリング論は、逸脱を取り締まる社会の側の問題に着目します。1960年代は、公民権運動やベトナム反戦運動などが盛んでした。そうした時代の雰囲気も、レイベリング論の興隆に影響をあたえたかもしれません。ちなみに、『アウトサイダーズ』は、ベッカーが35歳の時に刊行されたものです。「なんて頭の切れる人だろう」と改めて思いました。


講義ノートはこちら(MS Word, 33Kb)
http://dl.dropbox.com/u/22647991/2011072201%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E7%B7%8F%E8%AB%96%EF%BC%88%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%80%8E%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%80%8F%EF%BC%89.docx


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講義ノートテキスト版
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2011072201社会学総論(ベッカー『アウトサイダーズ』)

ベッカー『アウトサイダーズ』1963年
──インタビュー法①

インタビュー
インタビュー法とは
 「調査者が、あまり面識のない調査対象者と対面しながら、事前に設定された話題について質問-回答という形式の会話を一定の時間続け、情報を収集する社会調査の方法」
 社会調査のインタビューと日常会話
 共通点
 対面した状況における会話によって、情報収集をする
 日常会話のテクニックの多くが、社会調査のインタビューに応用可能
 調査票調査に比べれば、調査法としての独特のテクニックは少ない
 相違点
 社会調査のインタビューの相手は、基本的に面識のない人
 社会調査のインタビューでは、会話の話題が事前にはっきり設定されている
 社会調査のインタビューでは、会話を行う時間が設定されている

インタビューの種類
 構造化インタビュー
 質問項目も回答の仕方も、調査者が決めた通りにおこなう
 調査票調査における面接法
 数量的分析
 半構造化インタビュー
 質問項目は調査者が決めた通りにおこなうが、回答は回答者の自由に任せる
 ベッカー『アウトサイダーズ』「マリファナ使用者への道」
 非構造化インタビュー
 テーマだけ設定し、質問も回答も自由におこなう
 モラン『オルレアンのうわさ』
 グループ・インタビュー
 テーマを設定し、数人で自由に討論してもらう

ラポールの重要性
 ラポール=共感的な信頼関係
 信頼関係のない人に本音は語らない
 ラポール確立の4段階
 (1)不安の段階
 インタビューする人もされる人も、インタビューに不安を感じている段階
 不安の克服には、互いに話しかけることから始めねばならない
 ウォーミングアップには、「状況を尋ねる質問」(descriptive question)がよい
 (2)探り合いの段階
 互いにどんな人物であり、インタビューがどのような理由で、どのように進んでいくかを、理解しはじめる段階
 (3)協同の段階
 互いが相手に期待していることは何かを理解する段階
 回答者が答えにくい質問、調査の核心となる質問をすることができるようになる
 (4)参加の段階
 インタビューされる人が、インタビュアーにものを教えるという役割を積極的に担い、インタビュアーをリードしていく段階


調査企画
著者について
 Howard S. Becker (1928-)
 職業に関する社会学的研究
 医学生の研究
 ジャズ・ミュージシャンの研究
 芸術家の世界の研究
 逸脱や犯罪に関する研究
 レイベリング理論

『アウトサイダーズ』(1963年)について
 ベッカーが35歳の時に出版
 アウトサイダー
 =集団規則からの逸脱者
 「規則を制定し執行する側の視点」対「規則を制定され執行される側(逸脱者)の視点」
 「規則を制定し執行する側の視点」からの研究
 警察など:どうすれば逸脱が減るか
 ベッカーは、「規則を制定され執行される側(逸脱者)の視点」に立つ
 逸脱者の視点に立つと、規則そのものや規則の執行のほうがおかしいこともある
 禁酒法(アメリカ1920年代)、「男子は丸刈り坊主頭」といった校則
 規則執行の不公平(優等生は叱られにくい)
 逸脱者の側から社会の仕組みを見直してみる
 ベッカー自身が、ダンスホールでジャズのピアノ演奏をしていた
 1960年代初頭は、学園紛争のように、既存の秩序に対する若者の異議申し立てが世界的に盛んだった時代
 レイベリング論
 「社会集団は、これを犯せば逸脱となるような規則をもうけ、それを特定の人びとに適用し、彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって、逸脱を生み出すのである。この観点からすれば、逸脱とは人間の行為の性質ではなくして、むしろ、他者によってこの規則と制裁とが「違反者」に適用された結果なのである。逸脱者とは首尾よくこのレッテルを貼られた人間のことであり、また、逸脱行動とは人びとによってこのレッテルを貼られた行動のことである」(ベッカー 1993: 17)
 逸脱はその人に備わった属性ではない。社会が規則を適用することで、逸脱者が生み出される。
 第3章「マリファナ使用者への道」(ベッカー 1993: 59-85)を取りあげる


調査設計
調査目的
 「快楽を目的としたマリファナ使用を導く、態度と経験における変化のシークエンス」(ベッカー 1993: 60)を明らかにする

方法
 おそらく半構造化インタビュー
 「マリファナ使用者にインタビューする際、私は、その人間のマリファナ体験の変遷に焦点をしぼり、マリファナに対する彼の態度上および使用上の主要な変化、さらにこれらの変化の理由を探った」(ベッカー 1993: 64)


データの収集
 雪だるま式サンプリングによって、マリファナ使用者と50回のインタビューをおこなう
 調査の最初の頃にインタビューしたのは、ジャズ演奏の仕事で知り合った人たち
 インタビューした相手に頼んで、すすんでマリファナの体験を話してくれる人を紹介してもらう(雪だるま式サンプリング)
 インタビューの後半は、労働者、機械工、各種専門職業など、広範な人たちを網羅している
 ラポール
 同じような仕事をしているので、ラポールの確立が容易だった
 隠語の使用
 「可能かつ妥当と思われるかぎり、マリファナ使用者自身の隠語を用いた」(ベッカー 1993: 64)


データの分析
分析的帰納法
 ズナニエツキが定式化した理論構築の方法
 「事例分析により構成された仮説が他の事例に適合しない場合には仮説を再構成し、適合しない事例がなくなるまで仮説の再構成を繰り返す」(新社会学辞典)


調査結果と公表
マリファナ使用者になるための3段階の学習過程
 「人がマリファナを快楽のために使用することが可能なのは、マリファナの快楽的効能を認識するための学習過程を経た後だということである。(一)マリファナが真の薬物効果をあげるための喫煙法の学習、(二)その薬物効果を知覚し、しかもそれをマリファナ喫煙に関連づけることの学習(換言すれば、ハイになることの学習)、そして(三)知覚した感覚体験を楽しむことの学習、これら三段階の学習を経過しなければ、誰一人としてマリファナ使用者となることはできない」(ベッカー 1993: 82-3)
 第一段階:喫煙法の学習
 通常、初心者は、最初のマリファナ体験ではハイにならない
 その理由は、真の陶酔状態を引き起こすのに必要な「喫煙法」がとられていないから
 マリファナ使用者になるために通過しなければいけない第一段階は、「適切な喫煙法の学習」
 集団のなかで、初心者が経験者から直接に指導される
 無知を恥じて、見よう見まねで間接的に学習する
 喫煙法を習得できなかった人は、マリファナを吸うのをやめる
 第二段階:薬物効果を知覚する学習
 喫煙法を学ぶだけでは不十分。
 ハイになることを成立させる2つの要素
 マリファナ使用によって引き起こされた徴候が存在すること
 足が冷たくなる、空腹感におそわれる、など
 その徴候が薬物使用から生じたものだということを使用者自身が認知すること
 経験者に「ハイ」という語の具体的な意味を聞き出し、その内容を自分自身の経験にあてはめる
 使用者が薬物効果を自覚し、しかも意識的にその効果をマリファナ喫煙の事実と関連づけることができて、「ハイになる」という経験が可能になる
 これに失敗すると、マリファナをやめてしまう
 第三段階:効果を楽しむ学習
 さらに、マリファナ使用を継続するためには、経験した薬物効果を楽しむことの学習が必要
 薬物効果は、必ずしも楽しいものではない
 めまい、のどが渇く、頭皮がひりひりする、時間や距離の感覚を喪失、など。(風邪みたいな感じ)
 薬物効果が楽しいものであると再認識するには、経験者の役割が大きい
 経験者は、不快な感覚が一時的な性質のものでたいしたことではないことを指摘して初心者を安心させると同時に、もっと愉快な面に注意を向けさせる
 かつての恐ろしい経験が、一度、それに対する嗜好が形成されると、その後は、快く、望ましい、しかも好んで追求される経験となる

マリファナ使用者に対する世間の常識をくつがえす
 世間の常識
 マリファナ使用者=だらしないダメな人間
 ベッカーが明らかにしたこと
 マリファナ使用者になるためには、いくつかの困難を乗りこえるための努力が必要である
 それは、他の一般的な学習の過程と変わらない
 こうした学習過程を通して身につけた「マリファナは楽しい」という認識は、仮に社会がマリファナを禁止しても持続するくらい強固なもの
 「その行為が不可能となるのは、なんらかの体験によって使用者のマリファナに対する認識に変化がおき、ハイになるという体験を楽しむ能力が失われた時である」(ベッカー 1993: 83-4)

少年司法政策への影響(清永・岩永 1998: 66-77)
 レイベリング論の興隆
 ベッカーの研究を受けて、レイベリング論的な研究が増加する
 レイベリング論の示唆
 逸脱を取り締まる社会の側の問題への注目
 取り締まり活動によって逸脱がエスカレートする
 犯罪の取り締まりが犯罪を生む
 逸脱に関する資料やデータの客観性は疑わしい
 取り締まりが強化されると、逸脱の統計数値が上昇する
 例:交通安全週間になると、スピード違反が増える
 レイベリング論に影響を受けた「不介入主義」
 アメリカでは公民権運動や反戦運動が盛んな時代
 代表例:アメリカの少年司法政策における「4D政策」
 decriminalization(非犯罪化)
 個人的な薬物使用や売春などの被害者のいない違法行為などの軽微な犯罪を犯罪のカテゴリーから外す
 diversion(方向転換)
 法執行によるスティグマ付与を回避するため、できるだけ司法機関による処罰から、福祉的・教育的な機関による処遇へ重心を移す
 deinstitutionalization(非施設化)
 少年院や鑑別所などの施設ではなく、できるかぎり通常の地域社会で処遇する
 due process(適正な手続き)
 少年であるがゆえに省かれることの多かった法律上の手続きを、成人同様に認める
 レイベリング論は、1970年代後半以降、さまざまな立場から批判にさらされる
 「理念はどうであれ、現実に成員が痛みを被る犯罪や非行などの逸脱をどうしたらいいのか、その有効で適切な解答はラベリング論からは出にくかった」(清永・岩永 1998: 70)



原典
 ハワード・S・ベッカー, 1993, 『アウトサイダーズ──ラベリング理論とは何か[新装版]』(村上直之訳)新泉社


参考文献
 土井隆義, 「レイベリングと逸脱──ベッカー『アウトサイダーズ』」『自己・他者・関係 (社会学ベーシックス 1)』
 村上直之, 1998,「ベッカー『アウトサイダーズ』」『社会学文献事典』弘文堂, 523.
 清永賢二・岩永雅也, 1998, 『逸脱の社会学[改訂版]』放送大学教育振興会.




完訳 アウトサイダーズ
現代人文社
ハワード S. ベッカー

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  • ベッカー『アウトサイダーズ』──社会学総論2012年6月8日

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